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能登半島地震復興支援「勧進大相撲」では関取衆とのふれあいも予定 西岩親方、佐渡ヶ嶽親方が語る思いとは

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
話を伺った佐渡ヶ嶽親方(写真左)と西岩親方(写真:すべて日本相撲協会提供)

4月16日、能登半島地震の復興支援を目的として、日本相撲協会は「勧進大相撲」を両国国技館で開催する。そもそも勧進とは、「寺院や神社などの建立、修繕などのために寄付を募ること」(『相撲大辞典』より)であり、江戸時代のいわゆる本場所興行の際には「勧進大相撲」と表記されていた。時を経て昭和32年からの6年間、戦災に遭った大阪の四天王寺の再建を目的として、再び勧進大相撲が開催された。それから62年ぶりとなる勧進大相撲の復活。伝統と歴史のもとに開かれる今回の開催経緯などについて、広報部の西岩親方(元関脇・若の里)と、今年度新たに広報部長に就任した佐渡ヶ嶽親方(元関脇・琴ノ若)に話を伺った。

昭和32年から6年間行われた勧進大相撲の取組表。当時は10月に大阪で15日間行われ、本場所のように表彰などもあったと書かれているから驚きだ
昭和32年から6年間行われた勧進大相撲の取組表。当時は10月に大阪で15日間行われ、本場所のように表彰などもあったと書かれているから驚きだ

力士とのふれあいや限定グッズの販売も

元日に発生した能登半島地震。直後の初場所で来場者に寄付を募り、2月には義援金1000万円を送るなど、日本相撲協会はいち早く復興支援に乗り出していた。しかし、4月6日に予定していた七尾市の巡業は中止。西岩親方らは「ほかに何かできることはないか」と模索を始めた。

「東日本大震災のときは、自分も現役で炊き出しや土俵入りに回りました。しかし、石川県はまだまだ復興途中で、現地にみんなで出向くのはかえって迷惑になってしまうかもしれない。そんななかで出たのが、勧進大相撲を国技館で開催したらどうかという意見でした。被災地支援の形として、歴史ある勧進大相撲を復活させることも、相撲史において意義あることと感じました」

入場料だけでなく、会場で売られるグッズの売り上げも全額寄付。さらに、人件費や設営などの経費も協会持ちだ。「現役力士や職員、みんなに協力してもらいながら、それくらいの覚悟をもって今回の開催に臨みます」と西岩親方も胸を張る。

土俵入りや取組だけでなく、音羽山親方(元横綱・鶴竜)ら若手の親方衆10名によるOB戦や、若元春、高安らによる歌謡ショー、北陸物産展も開催予定。特筆すべきは、入場時になんと横綱以下全員の関取衆がお出迎えしてくれること。13時開場、14時開演の1時間で、サインや写真撮影など、力士とふれあうことができる。また、限定グッズは防犯ブザーや5年間保存できる水、除菌スプレー、ウオーターバッグなど、防災をテーマにしたものを販売予定だそう。盛りだくさんの企画を考えてきた西岩親方に、あらためて被災地への思いを聞いた。

「相撲どころの石川県抜きに、大相撲の発展はないと思っています。どんな形でも、協会ができることは精一杯したい。知り合いが住んでいるとか、出身のお弟子さんがいるとか、それぞれに何かしらの思い出や思い入れがあるので、みんなで石川県のためになればという思いです。平日の午後なのでどれくらいお客さんが集まるかなと心配だったんですが、すでに1階席は売り切れたので、本当にありがたい。一人3000円の2階イス席だけまだ少し余っているので、ぜひこの機会に足を運んでいただきたいと思います」

勧進大相撲のポスター
勧進大相撲のポスター

大関・琴ノ若は祖父・琴櫻の化粧まわしで登場?

今年度から新たに広報部長に就任した佐渡ヶ嶽親方は、昭和30年代に勧進大相撲が行われたときの貴重な取組表を、柔和な表情で眺めていた。そこには、当時「十枚目」(十両)として、先代の師匠であり自身の父でもある「琴櫻」の四股名が載っていたのだ。「これはすごいね…。写真を撮っていい?琴ノ若(息子)に送ろう」。そう言って、自身のスマートフォンを紙にかざす。

広報部のデスクで、いつも持ち歩いているという先代の現役時代の貴重な写真も見せてくれた佐渡ヶ嶽親方。息子は先場所、新大関・琴ノ若として土俵に上がり、次の5月場所からは祖父である「琴櫻」の襲名を明言している。ここでぽつりと、親方が提案する。

「実は、先代の化粧まわしが見つかったんだ。地元・鳥取の米子後援会から贈られたものでね。勧進大相撲で、琴ノ若にその化粧まわしをつけて土俵入りしてもらうのはどうだろう」

60年以上前に先代も参加した勧進大相撲の舞台で、孫がその化粧まわしを受け継ぐ――。そんなドラマが実現すれば、見にくるお客さんも胸を熱くして土俵入りを見守るに違いない。

歴史と伝統、復興、そして未来へのバトン。さまざまな要素が入り混じった勧進大相撲は、どんな催し物になるだろうか。西岩親方は「あとは当日を迎えるのみです」と、準備万端である。

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スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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