<ガンバ大阪・定期便VOL.2>DF松田陸の『思い』が通じた、記憶に残るJ1リーグデビュー。
J1リーグ・7節のヴィッセル神戸戦で、念願のJ1リーグデビューを飾ったのが、プロ3年目を迎えているDF松田陸だ。
今シーズン、トップチームの公式戦に初めてメンバー入りしたこの日。試合の動向を見守りながらアップを続けていた松田陸に出場チャンスが巡ってきたのは、75分のこと。リードこそ奪ったものの相手に押し込まれる展開が続いていた中で、FW小野裕二が決めた先制点をアシストしていた右センターバックのDF高尾瑠が左足をつるアクシデント。そこで呼ばれたのが松田だった。手に汗握る展開での出場に、おそらくは彼自身も緊張感を持ってピッチに立ったことだろう。それは観ている側も同じだったが『J1デビュー戦』への心配は、彼がピッチに立って約20秒でみせた、気持ちのこもったファーストプレーでかき消された。DFラインからボールを受けた神戸の絶対的な主軸、MFアンドレス・イニエスタに、臆することなく激しいチャージを見せたのだ。結果的にこのプレーにはイエローカードが提示され、見方によっては「残りの約15分間、2枚目のイエローカードを気にしてプレーしなければいけない」という危機に立たされたとも言えるが、一方で、なぜか「守りきれる」という安心感が芽生えてもいた。これは、シーズンの初めに彼から聞いていた言葉を思い出したからでもある。
過去2年、ほとんどの時間をガンバ大阪U-23でプレーしてきた松田が今年の初め、トップチームの沖縄キャンプに帯同していたときのこと。現地で行った最初の練習試合で右センターバックでプレーした直後に話を聞いていた。
「去年も、スタートはトップの沖縄キャンプに参加しましたが、それは同じ時期に行われるアンダー世代の日本代表キャンプに途中から参加することが決まっていたからで…そういう意味では今年は、厳しいかなと思っていたら、直前になって沖縄キャンプに帯同できると言われました。自分としてはトップでアピールするチャンスをもらったと思っているので、積極的にこの時間を過ごしたいです。右センターバックについては…そもそも3バック自体をあまりやったことがないし、真ん中はあっても右はほぼ経験がなかったですが、右サイドバックは経験があるし、3バックでも右ウイングの選手が攻め上がったら僕が右にずれてプレーする感じになるので、そこまで違和感はなかったです。走力が求められるのでそこで持ち味を出せればいいなと思っていました。それに、そもそも僕の場合はポジションがどうとかより、自分をしっかり示さないと後がない。去年はほぼU-23にいて、仁志さん(ガンバU-23監督)からはポジショニングのことを徹底して教えてもらい、動きながら、周りを見ながら次につながるプレーを意識してポジションをとれるようになってきたので、あとは自分がピッチでやるだけだと思っています。3年目だし、何度もチャンスをもらえるわけでないはずなのでチャンスがきた時にしっかり自分を示せるようにやり続けたいと思います」
まさに、彼が示したファーストプレーは、その『思い』が感じられるものだった。
といっても、そのファーストプレーのあとも、イニエスタからのスルーパスに反応したMF古橋亨梧にゴール前まで迫られるなど、ヒヤリとさせられるシーンもあったが、GK東口順昭のスーパーセーブに助けられながら残りの時間を耐えきったガンバ大阪は、逆に86分には少ないチャンスからFW宇佐美貴史が追加点を奪い、完封勝利を挙げる。こうして松田のJ1デビュー戦は『白星』で飾られた。
この松田のプレーについて、試合翌日、印象的な言葉を残したのは、昨年のJ3リーグで出場停止の2試合を除く32試合で彼を起用し続けた森下仁志U-23監督だ。この日、U-23の練習を終えてリモート取材に応じた森下監督は、松田のプレーについて独特の言い回しで合格点を与えた。
「ああいう難しい状況でも宮本(恒靖)監督が使ってくれて、それに応えようと陸(松田)があそこで思い切ってイニエスタにボールを奪いに行く姿勢を見せたこと。それは本当に一番大事なことで…少し遅れてしまっていたし、決してファウルがいいということではないですが、あの展開でピッチに立って、イニエスタに対してああやって仕掛けにいけるメンタリティを彼が出せたのはすごく嬉しかったです。そのあと1本、スルーパスを通されたりもしましたが、以降はすごく集中力も高くなっていましたしね。あのレベルのパスや動き出しはJ3リーグにはなかなか見られない質だと考えても、ヒガシ(東口順昭)に助けてもらいながらとはいえ、陸にとってはすごくプラスになった試合になったと思います。ただ、これはU-23の選手にも言いましたけど、忘れてはいけないのは、陸が抜かれたあのシーンをヒガシが止めてくれたことで、陸のサッカー人生が全く違うものになったんじゃないかということ。あそこでもしも、相手のシュートが決まっていたら、もしかしたら彼にはもうチャンスがもらえないかもしれない。でも、ヒガシがビッグセーブをしてくれたことで、ヒガシが陸のサッカー人生を助け、繋げてくれた。それを陸自身がしっかりと感じて、次は陸がチームメイトを助けられる選手に、今後、そういう選手になっていけるように、もっと頑張ってもらいたいと思っています。同時に、それは他の選手にも言えることです。特に今、U-23は、ユースの選手が半分くらい試合に出ていると考えれば、U-23でプレーしているプロの選手たちは、自分がチームメイトを助けなければいけない立場にいるわけで、だからこそ、もっと自分たちが主導でチームを動かして行くことを考えてもらいたいし、ヒガシのような人間的なパワーを備えたプレーというのを、もっともっとグラウンドで表現してもらいたいと思っています」
ちなみに神戸戦を終えて東口は自身のSNSを通して「陸デビュー即イエローカード。勢いあっていいでしょう。おめでとう」と記している。東口もまた、松田のファーストプレーに込めた『思い』を受け取っていたのかも知れない。