Yahoo!ニュース

2025年注目のESG/サステナビリティの5つのトレンド

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
2025-2026の注目の潮流は?(写真:イメージマート)

■2025年に注目すべき潮流

2024年も全世界でサステナビリティ(持続可能性)に関する大きな動きがありました。多くのビジネスパーソンも、様々なメディアでサステナビリティの他にSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・組織統治)などの表現もよく見聞きしたのではないでしょうか。

特に欧州ではここ数年で議論されてきたサステナビリティ情報開示規制が発効となり、また新しいサステナビリティ関連の枠組みも開発されるなどルール作りが続いています。規制は事業活動の足枷となる側面もあり、過度な規制は経済発展を阻害するとし、いわゆる反ESGの動きが米国だけではなく欧州でも高まっているとも聞きます。

反ESGの動きの影響は大きくESG投資関連も世界的な落ち着きをみせています。ダイバーシティ関連は特に積極対応方針を取り下げる大手企業も一定数あります。「ESGやダイバーシティという表現を積極的には使わない」という企業が増えることは残念ですが、トランプ次期大統領の反ESG政策に備える必要もあり(訴訟対策もあるようです)、唯一絶対の正解がなく非常に難しい舵取りとなっています。私は「サステナビリティに“無関心の人”はいるが、サステナビリティと“無関係な人”はいない」と言っています。ビジネスパーソンの教養としてぜひトレンドを確認してみてください。本記事では「2025年注目の5つのトレンド」として紹介します。

①企業のサステナビリティ情報開示規制

<日本>

2025年で最も注目されるのはSSBJ(サステナビリティ基準委員会)の基準公開だ。2025年3月末までに最終規則が発表予定となっている。2025年4月からは開示基準が正式に導入され任意適用が始まる。2027年3月期からは時価総額3兆円以上の約70社を皮切りに、時価総額の大きな企業から適用される予定であり、少なくとも時価総額上位300社程度は早急な対応が求められる。また、情報開示の第三者保証の問題もあるので注意が必要だ。

全上場企業(約4,000社)で考えれば、時価総額トップ10%未満が5年以内に義務化となるだけで、上場企業の90%以上は2030年までの義務化はなさそうだが、時価総額の高い企業が主要取引先の場合は、SSBJ基準レベルのサステナビリティ対応を求められる可能性もあるだろう。

<欧州>

2024年1月、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)が発効され、欧州の大企業から順次対応義務化となった。EU域外の日本企業も対象となるためグローバル大手企業は対応に追われている。加えて2024年7月にはCSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンスに関する指令)も発効されている。まずは、自社が適応企業にあたるのかを確認しよう。

欧州はサステナビリティ関連規制が進み先進的とされるが、規制は文字通り事業活動の規制(足枷)となるため、欧州でも経済発展が阻害されると主張し反対する企業や専門家もいる(反ESG)。そのため、規則は議論の末に条件緩和や発効延期する場合が多く、実際に対応が必要な日時や条件が把握しにくい課題がある。EU域内でビジネスをする企業は情報のアップデートを確実に行いたい。

<米国>

2024年3月にSEC(米国証券取引委員会)から気候関連開示の最終規則が発表された。反対意見も多く内容的には大幅に縮小されたが正式発表までこぎつけた。しかし発表以降、賛成・反対の両者から訴訟が相次ぎ、2024年4月には最終規則が一時停止されている。軌道修正する可能性があるため、企業にどこまで影響があるか未知数であり今後の動きが注目されている。

州法を含めて米国内規制はローカルルールであってグローバル規則ではないため、SECの規制はそのほかのサステナビリティ情報開示規制との相互運用性は低い。欧州もだが、企業の対応コスト増大による規制回避の動機は強く、最終的には企業への配慮もあるISSB基準に統一化される可能性もゼロではない。

②「インパクト」の注目度が急上昇

社会課題解決や社会への貢献に関する概念として注目されている「インパクト」がある。インパクトとは「事業活動の結果として生じた社会的・環境的な変化や効果(インパクトコンソーシアム)」と定義される。インパクトは企業の事業活動によって生み出された成果および社会変化に注目する考え方だ。またインパクトというワードの認知が進み、以前はESGスタートアップと呼ばれていた企業は「インパクト・スタートアップ」、以前はソーシャル・ビジネスと呼ばれていたものが「インパクト・ビジネス」など、社会的にポジティブな影響を生み出すという意味の表現も増えている。

インパクトという概念自体は以前からあったものの、サステナビリティ推進活動のメインストリームではなかった。しかし今後メインストリームになる可能性もある。その理由の一つは2025年以降にインパクトを重要視した投資方法が日本で普及期に入るからだ。2023年11月に官民連携組織「インパクトコンソーシアム」が設立された影響が大きい。

このコンソーシアムは金融庁と経産省が事務局をするなど、政府としても本気で取り組む枠組みであり、これらの関連マネーを取りに企業が動き始めるからである。2017〜2018年ころからのESG投資の普及による、企業のサステナビリティ推進の加速も過去にあったが、投資マネーが企業の事業活動に与える影響は大きい。また、昨今のマテリアリティ特定や開示において「IRO(インパクト・リスク・機会)」という考え方も増えてきた。単にインパクトを評価・測定するだけではなく、サステナビリティ戦略の一つのカテゴリになってきている。

③「TNFD」対応の本格化

2023年にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)から最終提言が発表された(日本語版は2024年に発表)。TNFDは、TCFD同様に日本の先進企業が続々と参照して、日本は世界最大のTNFD対応国の一つになった。2024年は日本企業内でもβバージョンから対応してきた企業の早期対応もあり、「TCFD/TNFDレポート」という環境領域の統合されたレポートの発表事例も生まれた。2025年はさらにTNFDを考慮した自然資本関連の開示が進みそうだ。

しかし、TNFDはTCFDよりも対応難易度が高いとされている。日本でも有識者などは価値創造プロセスに自然資本の概念を組み込めというが、ゴール(GHG排出削減)が明確だったTCFDとは異なり、地域・業種でも影響差が大きく、特に非製造業は直接関与の領域が少なく、TCFD以上にインパクト測定や実務対応の難易度が高い。

自然資本の基礎となる生物多様性という考え方自体は、以前から環境保全活動として進んでいたが、TNFDはどこまで財務インパクトを測定できるかがポイントとなり別枠として考えられている。まずは先行事例を参考にして自社での対応と開示の準備をしていきたい。

④「AI開発」による社会的責任

2023年3月にOpenAI社の対話型AI「GPT-4」が登場して以降、一般ユーザーでも高品質なAI利用が可能になり、テック系各社からさまざまなツールが公開されている。そのため世界中でAIを活用したビジネスや業務が増えているのだが、普及に伴いさまざまな課題も浮き彫りになった。

課題の一つは「倫理的なAIの開発」だ。AI活用によって引き起こされた人権侵害もあり、リスク評価のバイアスもある。さらには社会全体の雇用の喪失も懸念される。特に車の自動運転など、事故により人命に致命的な影響を与えうるAI利用に対して、最終的に人がどのように社会的責任を持つべきなのか問題となっている。

もう一つの課題は、環境的側面だ。2024年にAI開発を行うグーグルとマイクロソフトは、年間のGHG排出量が大幅に増えたとし、AI運用の高エネルギー利用体質が明らかになった。AI開発では電力消費量の多いデータセンターでの冷却や、AI開発の基礎となる半導体製造のために膨大な水を必要とする。そのためAI開発ではエネルギー・水を大量消費し気候変動対応と相反するという現実にぶつかっている。倫理的にも環境的にも課題のあるAIであるが、不可逆な未来はなく企業として適切な対応が求められる。

⑤金融庁による枠組み作りが本格的に

企業の監督官庁といえば環境省や経済産業省もあるが、規制を作る組織として金融庁の影響はかなり大きい。そのため、2024年動きのあった金融庁関連の有識者会議・ワーキンググループ・検討会・委員会など、サステナビリティに関連するものをピックアップした。これらは2025年以降に報告等が出るものもある。官公庁での議論がそのまま法令や事実上の規制であるガイドラインとなることも多いため、確実に動向を把握しておきたい。詳細は以下プロジェクト名で検索して資料を確認してほしい。

・スチュワードシップ・コードに関する有識者会議

・サステナブルファイナンス有識者会議

・サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ

・カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会

・「ジャパン・コーポレート・ガバナンス・フォーラム」の設置について

・インパクト投資等に関する検討会

・気候変動リスク・機会の評価等に向けたシナリオ・データ関係機関懇談会

・サステナビリティ投資商品の充実に向けたダイアログ

・スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議

■まとめ

X(旧Twitter)をしていると“SDGsが嫌いな人”はあらゆるレイヤーでよく見かけるのですが、実は上場企業の場合にはSDGsを含めた開示および対応が義務化もしくは強く推奨される状況であり、自分に直接の利益がないからといって無視するのはよろしくないと思います。もちろん反ESGという流れが世界でも日本でもあることは理解していますし、形だけのSDGs対応は私もなくなるべきだと考えています。

より詳しい話は当社のブログ記事「最新サステナビリティトレンド考察(2025)」にて紹介しておりますのでご興味がある方はどうぞ。2025年のサステナビリティトレンドを頭の片隅に置きながら、日々の業務に取り組んでみてください。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会/代表理事。法政大学イノベーション・マネジメント研究センター/客員研究員。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』『創発型責任経営』ほか多数。国内上場企業を中心に15年以上サステナビリティ経営支援を行い、またテレビ、新聞、週刊誌、ニュースメディア等でも解説を多数担当。

安藤光展の最近の記事