ドコモのiPhone販売開始で起きうる市場変化推測
iPhone販売開始でドコモからの転出者が激減する?
日本の携帯キャリア大手3社のうち、iPhone未取扱だったNTTドコモも、2013年9月20日発売のiPhone 5c・5sから販売を開始することとなった。そこで過去の各社における携帯電話契約数などのデータを元に、昨今の契約数動向の「If」と、今後の可能性についてフェルミ推定的な切り口で推し量ることにした。
先日の携帯電話契約件数動向とiPhone効果でも解説したが、相関関係までしか実証できないものの、MNP(Mobile Number Portability。ナンバーポータビリティ。電話番号を継続しつつ契約会社=キャリアを変更できる仕組み)の転入者数と転出者数の差異で算出される「MNPの増減」は、ほぼiPhoneの動向で決定づけられている。要は「一般携帯電話からスマートフォンに更新する際に、自キャリアでiPhoneを取り扱っていない人が、取り扱いのあるキャリアに転出するためにMNPを使う」というものだ。特に2011年10月にauがiPhone 4Sを取扱いし始めてからの挙動は、iPhone取り扱いの是非とMNPの関係の深さを裏付けている。
この状況を単純化した仮説が次の図。
今回NTTドコモによるiPhone取り扱いの決定で、既存のNTTドコモユーザーがスマートフォンに切り替える際に、「iPhoneが欲しいのでauかSBM(ソフトバンクモバイル)に転出する」という選択肢は、原則無くなる。自キャリア内でiPhoneが使えるのだから、単純に乗り換えをすれば良いだけの話となる。
つまり今仮説に従えば、NTTドコモの転出分と、NTTドコモからauとSBMへの転入分がほぼ無くなるわけだ。
過去データから「もしも」を試算し、今後を推測
この仮説のもとに、今後各社の契約数動向、MNP動向がどのように変動するかを推測するため、過去のデータ、具体的にはauがiPhone販売を始めた2011年10月以降、「もしNTTドコモからのMNPによる転出が無かったら」という試算を行う。その試算結果(各キャリアの月次契約数純増減)をグラフ化したのが次の図。
auは第三位に留まる月が多く、SBMとドコモが競る状態が続く。このような形で契約数純増が推移すれば、現状のようにNTTドコモの全体シェアが漸減する事態も沈静化する。契約数全体から見れば月当たりの純増はわずかだが、各社のプレッシャーは現状とはかなり違ったものになる。少なくともNTTドコモ側は、毎月肌身を紙やすりで削られていくような状況から脱することができる。
そしてこの試算グラフは、今後の三社の動向を推し量る図にもなりうる。NTTドコモのiPhone取扱開始で、これまでの「auとSBMが勝ち組、NTTドコモが負け組」的なMNP、契約数純増の動向は終焉を迎える可能性は少なくない。まさに混戦模様となり、各社のサービスや品質が今まで以上に重要視されることになる。
仮説は仮説、だが…
もちろん実際にはMNPの利用者すべてがiPhone絡みというわけではない。これまでもauやSBMからNTTドコモにMNPを使って転入してきた人もいれば、auとSBMの間を行き来した人もいる。また、NTTドコモがiPhoneの販売を始めても、「SBMの方が経験豊富で、『お父さん』も好きだから」とSBMを選ぶ、「3M戦略に基づいた通信環境の整備に期待が持てる」とauを選ぶiPhone買い替え希望者もいる。上記の仮説はあくまでも物事を単純化するためのものでしかない。
NTTドコモのiPhone販売参入で、「iPhone取扱」というアドバンテージを失ったauとSBMが、さらなる販促を行い、優位性を維持する可能性もある。また、NTTドコモがiPhoneの取り扱いをはじめても、いわゆる「三国鼎立」状態に移行するには、しばらく時間がかかる。
一方、上記のような状況は容易に想像が付く。NTTドコモにはいまだに一般携帯電話利用者が多数おり、買い替えの際にはiPhoneの選択を考えている人も多い。今後は、MNPによってNTTドコモ離れが起きる可能性は桁違いに小さくなる。さらにいえば、中堅層以降における「ドコモブランド」の影響力の大きささも忘れてはならない。これらの人が自分の子供にスマートフォンを買い与える場合、多分にそのブランド信仰に基づいてキャリアを選択するからだ。
2013年9月分からすぐに変化が現れるとは考えにくい。だが、MNP、そして契約者数増減の動向において、これまでとは違う風が吹き始めるのは間違いない。
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