『ラストマン ―全盲の捜査官―』最終回 福山雅治と大泉洋が託す“最後の希望”
真実は決して目に見えない。だが、私たちの心の中に存在し続ける。
福山雅治主演、日曜劇場『ラストマン ―全盲の捜査官―』(TBS系にて毎週日曜夜9時~)が今夜、最終回を迎える。
■“無敵の二人”が最後に辿り着く“真実”とは
どんなに難しい事件でも必ず最後に解決させることから“ラストマン”と呼ばれている全盲のFBI捜査官・皆実広見(福山雅治)は、日本の警察庁とFBIの連携強化を目的に期間限定で来日。彼のアテンドを命じられた警察庁人材交流企画室の室長・護道心太朗(大泉洋)とバディを組み、その研ぎ澄まされた感覚と捜査能力、時には生命の危険を問わない勇敢さ、そして心太朗たちの協力と共にさまざまな事件を解決へと導いていく。
しかし、皆実の真の目的は別にあった。
今から41年前、皆実の両親を殺害したのは心太朗の実父・鎌田(津田健次郎)だった。しかし、本当に彼が犯人なのか? 表向きは平静を装いつつも、皆実の動向に神経を尖らせる、心太朗の養父で元警察庁長官の清二(寺尾聰)、兄・京吾(上川隆也)、そして甥の泉(永瀬廉)。
皆実と心太朗は改めて事件の真相を確かめるべく、刑務所に服役中の鎌田に会いに行くが、重篤状態のため面会することは出来なかった。迫るタイムリミット。そんな中、二人の捜査を阻止しようとする謎の動きが。その裏には誰も逆らえない政界のドン・弓塚(石橋蓮司)の姿があった。弓塚と真正面から対峙し、宣戦布告する皆実と心太朗。はたして41年もの時を越え、二人が追い求めてきた“真実”は明らかになるのか……。
■世の中には不必要な人間なんていない
この作品の魅力は今さら言うまでもなく、福山と大泉の抜群のコンビネーションだ。もちろんレギュラーキャスト、ゲスト出演者も存分に存在感を発揮しているが、この二人の安定感は群を抜いている。
それもそのはず、今回の共演は大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)以来13年ぶりとなるが、二人がこれまで積み重ねてきた関係性の一つの結晶と言え、両者のファンが待ち望んでいた顔合わせでもあるからだ。
人たらしだが、つかみどころのない、私たちがテレビやラジオなどを通じて触れる“スター福山”を彷彿させる一面を持つ皆実。決して悪を許さず、心にアツい気持ちを抱き、文句を言いながらもやることはやる心太朗も、大泉を多分になぞっている。この二人が奏でるオンとオフ、緩と急の絶妙なバランスは、気心の知れた彼らにしか出せない味わいと言える。
それは毎回のようにラストシーンで披露されるアドリブにも現れている。EPISODE06「不器用な愛のカタチ」では、将棋盤を挟んで皆実が「ぁ4六、角」とイケボで呟き、心太朗が「何、いい声で言ってんですか!」とツッコんで幕を閉じた。
6/17放送の『福山雅治 福のラジオ』で福山が語っていたが、あの「ぁ」は、わざわざアフレコで足したものだという。これはまさに大泉が普段テレビで披露する「福山雅治のモノマネをする大泉洋」のモノマネであり、このメタ感がファンにはたまらないサービスだった。
もちろん面白さだけではない。
特にEPISODE01「新時代のヒーロー」では、自家製爆弾を不特定多数の人間にばら撒き、無差別連続爆破事件を起こした渋谷英輔(宮沢氷魚)をイジメやヤングケアラーの問題と絡めた。彼を取り押さえた皆実の「世の中には、不必要な人間なんていないんです」という言葉に込められた“持たざる者”に対する想いに考えさせられ、胸を締めつけられた。
確かにセンシティブではあるが、ドラマは多少なりとも現実社会のリアリティと重なる部分が描かれてないと、見る側の心は揺さぶられない。たった一言だが、この皆実のセリフには、全話を通じて見る人に感じ取って欲しいメッセージと、作り手およびキャストたちの強い想いが込められているように感じた。
そんなチーム『ラストマン』が、文字通りラストにどんなシーンを私たちに見せてくれるのか。期待以外の何物でもない。
■二人が示すエンターテイメントの可能性と希望
社会や時代に対する思いや言葉を伝えるために「エンターテイメント」という要素は非常に効果を発揮する。好きな俳優や推しの俳優が出ているからと、何気なく見ていたドラマの内容や登場人物のセリフが、その後いつまでも胸に残り続ける経験を持つ人もいることだろう。そして、福山雅治と大泉洋、「エンターテイメント」という間口の広い、しかし奥の深い世界に身を置き続ける二人だからこそ、表現することができ、伝えられるものがある。
幸いにしてここ数年、私は福山にインタビューをする機会に恵まれてきたが、言葉の端々から一人の表現者としてエンターテイメントの力を“信じる”気持ちと、クリエイトを続ける“覚悟”をたびたび感じてきた。それはとても儚い“願い”にも似ているが、時に限りない力を私たちの心に与えてくれる。福山とプライベートでも交流のある大泉も、カタチは異なるが同じ志の持ち主に違いない。
この二人がバディを組んだ『ラストマン ―全盲の捜査官―』は、親きょうだいやクラスメイト、仕事仲間、街でただすれ違うだけに至るまで、良くも悪くも生まれてから死ぬまでついて回る人間関係や、さまざまな理由から現代社会の仕組みの中でうまく前に進めない存在に思いを馳せることの大切さを、エンターテイメントという“目”を通して伝えるドラマだったのではないだろうか。
見渡せば、世の中にはたくさんの不合理や理不尽が満ちあふれ、年を…いや日を追うごとに「信じる」ということが難しくなってきている。だが、最初から「不幸な人生を送りたい」と思いながら生まれてきた人など誰一人としていない。このドラマが終わった後、皆実と心太朗によって託された“最後の希望”を胸に抱きながら、明日からは私たちが少しでも前を向いて歩いて行かなければならない。