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宝くじの必勝法発見される!? 28億円稼いだアメリカ老夫婦

森井昌克神戸大学 名誉教授
宝くじ(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

アメリカ・ミシガン州の片田舎でコンビニを経営していた老夫婦が、公営の宝くじに設けられたルールの穴をついて2600万ドル(約28億2240万円)もの賞金を手にしていたことが分かりました。一躍有名になったこの夫婦の元にはハリウッドで映画化するという話まで持ち上がっているとのことです。

出典:宝くじのルールの穴を突いて28億円以上を荒稼ぎした老夫婦の物語【GIGAZINE】

宝くじで大儲けしたアメリカの老夫婦が今年1月に話題となりました。この9年間で28億円もの大金を宝くじで儲けたことになっています。もちろん、不正ではなく合法的な手段で当選していたのです。いったいどのような方法で大金をせしめることができたのでしょう。ニュースでは、「宝くじの期待値が元手を上回っていることに気づいて…」と書かれています。期待値とは何でしょう。それをどう利用したというのでしょう。この方法は日本でも使えて大金持ちになれるのでしょうか。解説します。

宝くじでいう期待値とは、100円で宝くじを買った場合、いくら戻ってくるかという値です。もちろん、必ず戻ってくる金額ではありません。言い換えると、宝くじを全て購入したとした時、いくら戻ってくるか、つまり当選金額の総額です。日本の宝くじの場合、自治体やスポーツ振興団体等、公の機関が主催、つまり「胴元」となっています。宝くじの目的は、決して購入者に夢を売るものではなく、胴元が儲けるためのものです。自治体等が公共の福祉のため資金を集める手段として宝くじを行なっているのです。宝くじの総売上が2,000億円だったとすると、約1,000億円が自治体の資金に、残りの1,000億円を当選者に分けることとなります。2,000億円で宝くじを全て購入したとすると、その当選金額の期待値は1,000億円となるのです。つまり、100円あたりの期待値は50円となります。実際、この宝くじを100万円分購入すれば、多くの人が50万円前後の当選金額となるでしょう。ちなみに日本国内で販売されている宝くじの期待値はせいぜい100円あたり50円程度です。

参考までに、実際に宝くじをいくら買えば、いくら当選するかという実験(シミュレーション)がここにあります。

宝くじでは、この期待値が元手を超えることはあり得ません。本来の宝くじの目的である胴元が儲からないからです。100円の宝くじの期待値が110円であることは決してないのです。売れば売るほど、胴元つまり自治体が損をします。では、アメリカの老夫婦はなぜ宝くじの期待値が元手を上回っていることに気づいたのでしょう。なぜ、アメリカの宝くじは元手を超える期待値になっていたのでしょう、売れば売るほど損をするのに。

このアメリカの宝くじでは期待値が元手を超えても、胴元は損をしないのです。なぜでしょうか。それはロールダウン(rolldown conditions)という仕組みです。日本の一部の宝くじ、例えばロト6等では、1等の当選者がいない場合、つまり1等の当選番号が存在しなかったり、その当選者が少なかった場合、本来当選者に配られる当選金が次回の宝くじの当選金に繰越となります。日本の場合、宝くじの最高当選金額は法律によって定められています。海外では、そのような法律はなく、したがって海外ニュースにあるような、1等当選金額が1,700億円というような高額当選者が現れるのです。 この当選金額の繰越ですが、一部の宝くじでは、繰越金額が一定額を超えると、その繰越分を下位当選者、つまり4等や5等当選者に分配する制度が存在します。これがロールダウンで、通常は期待値が元手を上回ることは決してないのですが、極めて高額な繰越金額が存在し、このロールダウンが起こった場合のみ、その時の宝くじの期待値が、元手を上回ることになるのです。

例えば、100円の宝くじが1万本あって、1等賞金が20万円、2等賞金1,000円が約100本ぐらい当選するものとします。この時、この宝くじの100円あたりの期待値は約30円です。1等が9回連続で当たらず、繰越が9回続いたとします。この場合、繰越し金が180万円になります。次の回の宝くじでは、1等賞金が200万円になります。通常、この宝くじで200万円が当たる確率は1万分の一、0.01%です。しかし、また1等が当選せず、ロールダウンが起こったとすると、この繰越し金200万円を2等当選者で分けることになります。この時に限って、100円あたりの期待値が約200円になるのです。つまり一等は当たらないにしても、2等が当たる確率は1%程度で、約100本に一本当選し、その金額は2万円程度になります。1万円分の宝くじ購入で、2万円当選する可能性が極めて高いのです。

老夫婦は、このロールダウンが起こり、わずかながら期待値が元手を超える機会を推定し、購入を9年間、地道に続け、28億円もの大金を稼ぐに至りました。このロールダウンの制度の欠点は1等当選が稀であり、繰越が頻繁に起こること、そして下位当選の確率が1等当選確率に比較して極めて高いことが災いしたのです。

では、この方法を利用して、わが国でも「大儲け」できるでしょうか。残念ながらロールダウンという制度自体がありません。ロールダウンの目的の一つは、極めて高額な1等当選金額を避けるためですが、日本の場合、法律によって最高金額が定められており、ロールダウンの必要性はなく、また下位の当選金額を十分勘案すれば、このようなことは避けられます。元記事のニュースでも「不法ではないが、宝くじのルールの「穴」をついて」と言われている所以です。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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