被災地では「紙」のフェイスブックが必要だった 大槌みらい新聞の取り組み
東日本大震災の津波で大被害を受け「情報空白地域」となった岩手県大槌町で、新たな地域メディアを立ち上げるプロジェクトに取り組んでいる。9月15日に「大槌みらい新聞」を創刊。紙とインターネット、さらにFacebookとTwitterを駆使して大槌の情報を発信しているが、最も特徴的なのは紙の新聞に町民の顔がズラリと並ぶ町民カレンダーではないだろうか。
プロジェクトは、仲間とつくる任意団体日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)を中心に、学生インターン、全国の記者やカメラマンのボランティアによって行われている。
元茨城新聞記者の松本裕樹さんに現地責任者となってもらい、町や地元ボランティア団体の協力を得て、被災した大槌北小学校の2階教室に拠点を確保したのが7月30日。まず取り組んだのが町の人の調査。メディアを作る人は、いきなり情報発信してしまうことがあるが、大槌の人々がどのようなメディアに接触し、どのような情報を欲しがっているかを知る必要がある。
調査から見えてきたのは、地域のリアル口コミの消滅だった。地域では人から人への噂話しが「光よりも早い」との冗談があるほどで、地方の支局で勤務した記者なら、昼食を食べたり、買い物をしてたり、したお店や会った人があっという間に役場や農協の職員に知れ渡っていて驚いた経験があるはずだ。
しかし、大槌では家屋の60%が被害を受け、人口の35%が仮設住宅で暮らしている。仮設住宅に入る際に地域が別れてしまって知り合いがいなくなり、立ち話や井戸端会議が難しくなる。知人の居場所を聞こうとしても仮設住宅の担当者にプライバシーを理由に断られ人もいた。
さらに、隣接する釜石市に本社を置き、大槌町や山田町をカバーしていた地元メディア「岩手東海新聞」が津波で輪転機に被害を受け、休刊となったことも響いた。調査対象の半分近くが震災前は「岩手東海新聞」を購読していた。
人のつながりの変化と地元メディアの消滅で「町内で何が起きているか分からない」状態になっていたのだ。
そこで生まれたのが町の人が顔写真付きでイベントを紹介する町民カレンダーというコーナーだ。4ページある紙の新聞の内側2ページを使っている。町の人同士のつながりを支えるために、なるべくたくさんの町の人の顔を掲載した。いわば紙のFacebook。アイデア段階では文通募集コーナーを作ろうというもあった。紙のmixi日記みたいなものだろうか。町民カレンダーを見た人からは「この人知っている」「元気にしているようで良かった」といった反応があった。
ソーシャルメディアか紙かといった議論もあるが、大事なことは読者の状況に応じて発信するメディアを選択することではないだろうか。