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アンバー・ハード、死ぬまでDV被害者を貫き通す

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(NBC)

「もちろんです。死ぬ日まで、私は自分が証言したことを貫き続けます」。

 ジョニー・デップにDVを受けたという裁判での証言を今もまだ主張するのかと聞かれると、アンバー・ハードはそう答えた。

 このやりとりは、NBCが現地時間今週金曜日夜に放映する独占インタビューの一部。朝番組「Today」の中で、昨日は2分ほどの映像が公開されたが、本日はさらに10分近くをかいま見ることができた。ここでもまたハードは、インタビュアーのサヴァンナ・ガスリーに発言の矛盾を指摘されては言い逃れするということを繰り返している。

 たとえば、「私が自分のほうから暴力をしかけたことは一度もありません」と言うハードにガスリーが「でも、裁判で再生された音声の中で、あなたは自分から暴力を始めたと認めていましたよね?」と尋ねると、「あれらの音声は大袈裟にとらえられすぎています」と答えている。

「あれらは編集された後に(メディアに)リークしたものです。あれらはそこで起こっていたことの証拠ではありません。あれらは(DVの)加害者に交渉している状況の証拠です」。

 それに対して、ガスリーは、裁判の記録を読みながら、「彼(デップ)が『君が暴力をしかけてきた』と言うと、あなたは『ええ、私が暴力をしかけたわ。またやらないとは約束できない』と言っていますよね?この音声で、あなたは自分でそう言っていますよ」と指摘。するとハードは、「証言台でも言いましたけれど、命が危険に晒されている時、人は自分が責められるべきでないことも自分の責任だと認めるものなのです」と答えた。

 だが、この音声を聴いた人ならわかるとおり、この音声で、ハードが命の危険に晒されているとはとても信じ難い。彼女の口調はとても強気で、彼女のほうがデップをいじめている感じなのだ。それを知っているガスリーは、別の音声のことを出してきた。ハードがデップに「世界に向けて言いなさいよ。僕、ジョニー・デップは、男で、DV被害者です、って」と言っている音声だ。それについてもハードは、「あの22秒の音声は、2時間か3時間に起きたことの一部で、全部を表すものではありません」と、重要性を否定。「じゃあ、その3時間全部を証拠として出してくればよかったのでは?」とのガスリーの反論には「私は弁護士ではありませんから」と、どの証拠を出すのか判断するのは自分ではないと逃げた。ちなみに、彼女が「22秒」と言ったのも正しくはなく、この音声はもっと長い。

 ガスリーはまた、「彼(デップ)は一度もあなたに暴力を振るったことがないと言っています。それは嘘ですか?」とハードに聞いた。ハードの答は、「はい、そうです」。「でも、あなたが暴力をしかけたのを見たという証人がいますが」と突っ込まれると、ハードはこれまで同様、デップに雇われている人たちは彼が気に入る証言をするのだと言った。そこでガスリーに「あの人たちはみんな嘘を言うために裁判所に来たというのですか?」と聞かれると、ハードは「私は証人について悪口を言うためにここにいるのではありません。あそこに座っていて私が何を感じたのかを語るためにここにいるのです」とごまかしている。

 さらに、ハードはまたもや「言論の自由」を出してきた。「言論の自由」の論点は、ハードの弁護チームが裁判の終わりになって新たに引っ張ってきたアングルだ。ガスリーに、「言論の自由は他人に不名誉を与えるために嘘をつくことを許すものではありません。今回の焦点はそこですよね」と言われると、ハードは「言論の自由とは、権力を持つ人に対して真実を言う自由のことです。私はそれをやり、代償を払うことになったのです」と、平然と述べている。

 この映像の中で、ハードはまた、何度かにわたり、自分はずっと真実だけを語ってきたとも言った。「真実」は、裁判でデップが使った言葉だ。この裁判を起こしたのは、真実を伝えたかったからだと、彼は証言台で述べた。同じ言葉を今になってハードが持ち出すのは、なんとも奇妙である。

嘘をつく場を提供するNBCにも批判が

 このようにあがき続けるハードに、世間は冷たい。メーガン・マークルの宿敵として知られるイギリスのジャーナリストで司会者のピアース・モーガンは、「アンバー・ハードはメーガン・マークルのようだ。あるだけの演技力を使って不満を言い、被害者を装うたびに、ますます信じられなくなる」とツイートしている。モーガンはまた、「もしジョニー・デップが負けたとしたら、彼はこんなふうにメジャーなメディアで嘘をつき続け、被害者のふりをする機会を与えられただろうか?」と、辛辣な批判もした。

 これと同様の意見は、一般人の間でも見られる。あるツイッター利用者は、ハーベイ・ワインスタインやビル・コスビーの写真を並べ、彼らにはメディアで言い訳する場など与えられなかったとコメントした。性犯罪者のワインスタインとコスビーは刑事裁判で有罪となっているので同じではないが、言っていることには納得できる。また、裁判で負けたにもかかわらず、まだメジャーネットワークの番組でデップのことをDV加害者と呼び続けるのは新たな名誉毀損に当たるのではとの疑問の声も聞かれる。

 だが、当のハードは、「ジョニー・デップのDV被害者」を一生の役と決めたようだ。デップの名誉をさらに毀損することなど、恐れてもいない。本を書くという話もあるし、控訴においても早くも動きがあった。ハードの弁護士が、ヴァージニア州の裁判所に、控訴の準備に向けて書類を提出したのである。控訴のハードルは高いと言われるが、彼女はひるまない。ハードが負けを認めることは、絶対にないのだ。彼女による「辛い話」を、我々はまだまだ聞かされていく。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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