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中共老幹部が認めた「毛沢東の真相」――日本軍との共謀

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

筆者が『毛沢東 日本軍と共謀した男』の内容を全て北京にいる中共老幹部に告げたところ、絶賛してくれた。「誰かが書かなければならなかった。中国人も書き始めたが、日本側の決定的証拠がなかった」と彼は言った。

◆党史の闇を明らかにしようとする動き

いま中国では水面下で、中国共産党(中共)の歴史、すなわち「党史」に関する闇を明らかにしようという動きが出ていると、老幹部は言う。隠された党史の証拠は奥深い档案(ダンアン)庫(ファイルがしまってある倉庫)に眠っており、扉は閉ざされたままだそうだ。

生き証人がまだ存命のうちに、なんとか抗日戦争中の中共の動き、特に毛沢東の言動に関する証拠を引き出そうと、国内外の研究者が綱渡りのような奮闘を続けている。

注目されている本の中に謝幼田氏が書いた『中共壮大之謎――被掩蓋的中国抗日戦争真相』(中共が強大化した謎――覆い隠された中国抗日戦争の真相)(2002年、明鏡出版社)がある。謝幼田氏は1980年に四川省にある社会科学院で仕事をし、1987年からアメリカのスタンフォード大学フーバー研究所に行き、長いことスタンフォード大学の客員教授をしていた中国人歴史家だ。

筆者が『毛沢東 日本軍と共謀した男』の執筆を始める寸前に、その日本語訳『抗日戦争中、中国共産党は何をしていたか……覆い隠された歴史の真実』(2006年、坂井臣之助訳、草思社)までがあることを知った。そこには筆者が独自に描こうとしていた中共スパイ・潘漢年や袁殊らのことが、中国側の視点から描かれている。

謝幼田氏は、「毛沢東は中共スパイを日本外務省の岩井公館や日本軍部の梅機関に派遣して、国民党軍の軍事情報を高く売り渡し、中華民族を裏切っていた」という事実を、戦闘を中心に書いている。岩井公館や梅機関に関しては11月16日付の本コラム「毛沢東は日本軍と共謀していた――中共スパイ相関図」をご覧いただきたい。

謝幼田氏の本に関しては中国語のネットには数多く転載されており、たとえば「中国最大の売国奴は誰だ?」(余傑氏)などがある。

2015年11月21日付けの「自由中国」にも、謝幼田氏の本の論考が掲載されている。

謝幼田氏以外にも、中国の著名な歴史家であり思想家でもある辛コウ(サンズイに景と頁)年氏は、毛沢東の秘書だった李鋭が「(抗日戦争中)毛沢東は日本軍と協力して国民党軍を挟み撃ちしようとした。だから、日本軍に、より多くの地域を占領させてこそ“愛国”だ(その方が日本軍とともに国民党軍を挟み撃ちしやすい)」とさえ言ったとして、いかに毛沢東が日本軍と共謀していたかを証言している。これは2015年9月4日の「抗日戦争中、誰が本当に国を守ったのか?」に載っている。

当時の従軍記者の手記なども公開されており、多くの情報が「日中戦争期における毛沢東の真相」を明らかにするようになった。

中国大陸のネット空間の検索サイト百度(baidu)で検索しても、2014年8月3日という割合に最近のものとして、「毛沢東は日本の侵略に感謝していた」という論考が、削除されずに残っている。

驚くべきは、この内容が決して中共流の「毛沢東のユーモア」といった弁明的論考ではなく、「なぜ感謝したか」が、前述の李鋭の言葉とともに、「毛沢東と日本軍との共謀」という文脈で書かれていることだ。毛沢東の医者だった李志綏氏が書いた『毛沢東回顧録』の中にも、毛沢東が言った「もし日本が中国を侵略していなかったら、われわれは国共合作をすることができず、そうなると我々は発展することができずに最後の勝利を得ることはできなかった」という言葉があると記してあると、指摘している。 

さらにこの「毛沢東は日本の侵略に感謝していた」の記事には、抗日戦争時に戦死した国民党軍側の将軍206人に対して、八路軍(中共軍)は1人しかいないとして、その名前を全て列挙している。マレーシアに渡った華人が書いたもののようだが、それが中国大陸のネット空間で削除されてないことは注目に値する。

◆日本側資料を結びつけたのは初めて

李鋭は、筆者が尊敬する中共老幹部の中の一人だが、今も直接連携を保っている別の老幹部は、「これまで中国側の証言は数多く掘り起こされているが、実は日本側にその記録があるかないかが、最も大きな関心事だった」として、筆者の発掘を高く評価してくれた。前述の「毛沢東は日本軍と共謀していた――中共スパイ相関図」に述べたように、岩井公館の岩井英一氏が『回想の上海』(「回想の上海」出版委員会による発行、1983年)という本の中で、潘漢年が日本軍側に「中共軍との間の停戦」を要望したことが明記してあるのを発見したからである。

これこそは多くの歴史家が待っていたものだよ、と励ましてくれた。早く中国語に翻訳してくれと頼まれたほどだ。

中国ではいま、心ある中共老幹部や歴史家たちが、封印されたままの党史の発掘に力を入れている。もう存命者がいなくなり、証言できる人間も少なくなりつつあることも、その焦りを強めている原因の一つだろう。

抗日戦争時に誰が戦ったかは歴然としている。

中国共産党内でも、8月3日の本コラム「兵力の10%しか抗日に使うな!――抗日戦争時の毛沢東」に書いた事実は、(秘かな)基本的認識になっていると、老幹部は言った。「中共軍は国民党軍の1000分の1も、日本軍と戦ってやしないよ!」と語気を荒げた。

また筆者が「兵力の10%しか抗日に使うな!――抗日戦争時の毛沢東」で注目した「洛川会議」以外に、もっと決定的な会議があると、当時の「ある秘密会議」の名称を教えてくれた。

これは中国共産党員も開けない扉の中に封印されているそうだ。そのことを指摘する老幹部の勇気には感心した。

むしろ、ほんの一部ではあるが、日本人の方が中宣部(中共中央宣伝部)のプロパガンダに洗脳されてしまったままでいるという側面は否定できない。中共老幹部のように真正面から中共の党史に向かい合う必要がこんにちまでなかったため、自分の歴史認識が洗脳されていることにさえ気づかない人が、一部にだが、いるのではないかと懸念する。

中国人歴史家たちも命がけで筆者と同様の事実を別の角度から書いており、100歳前後の中共老幹部が正直に「日本軍と共謀していた毛沢東の真相」を肯定していることに注目し、既成概念の殻を破る勇気を持ちたい。

(なお、言うまでもなく、それによって決して日中戦争における日本軍の行為を正当化するものではない。客観的な目で事実を直視し、正しい歴史認識を持とうと言っているだけである。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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