先住猫がいる家で【エイズキャリアの野良猫】を保護。それから16年経ってどうなった?
やまとちゃんとたけるちゃんが、当院にやってきたのは、16年前の4月でした。約600gという手に乗るぐらいの小さな子猫でした。
この子猫を保護したIさんのところには、先住猫のたくまちゃんがいたので、病気を持っていないかを調べてほしいというものでした。Iさんは、愛犬のモモちゃんと散歩中に、モモちゃんがカラスに突かれていた子猫を見つけて助けに行ったそうです。
Iさんのところには、たくまちゃんがいたのでカラスを追い払って帰るつもりでした。カラスがいなくなったので2匹の子猫を戻そうとしたら、モモちゃんが何をするのといわんばかりに怒って、そこから動かなかったそうです。それで、Iさんは、たくまちゃんのことを気にしながら、家に連れて帰りました。
子猫たちは、検査の結果、猫エイズウイルス(FIV)のキャリアだったのです。
もし、たくまちゃんに猫エイズが感染したら、どうしようか、と不安がありました。そうはいっても、子猫をもう一度、公園に返すこともできなかったので、どうにかして飼うことにしました。Iさんは、当時、この子猫はそう長生きはできないと思っていたそうです。その後、16年間、どのようにIさんは、過ごされたかを振りかえってみましょう。
猫エイズとは?
猫を飼っていない人でも、「猫エイズ」という言葉を見聞きしたことがあるかもしれません。エイズという言葉を見ると、ただものでない雰囲気が感じられます。実際に、猫エイズは猫の健康に大きな影響を及ぼします。
免疫不全症なので、さまざまな病気を併発しやすいという性質も持ちあわせています。それでは、猫エイズの特徴や症状、そして対策についてみていきましょう。
猫エイズの正式名称
正式には「猫免疫不全ウイルス感染症」や「猫後天性免疫不全症候群」と呼ばれます。
FIV(Feline Immunodeficiency Virus 猫免疫不全ウイルス)というウイルスによって引き起こされ、猫が免疫不全になる感染症です。人のエイズの原因とされるHIV(Human Immunodeficiency Virus ヒト免疫不全ウイルス)と同じく「レンチウイルス属」です。
この猫エイズは、猫同士の感染で、人には感染しましせん。
一度このウイルスが猫の体内に侵入すると、完全には排除できないので、ウイルスキャリアとして生活していかなければなりません。
猫エイズの感染経路は?
FIV陽性の猫とケンカをすることでうつります。
母子感染は、ほとんどないといわれています。FIV陽性の母猫に舐められるぐらいではほとんど感染しません。猫カゼのような飛沫による感染はありません。
猫エイズの症状
急性期
感染して最初の数ヶ月は、発熱や下痢をしたり、リンパ節が腫れたりしますが、次第に無症状です。
キャリア期
急性期が過ぎると健康な猫と一見して見分けがつかない無症状キャリア期に入ります。無症状キャリア期は一般的には4~5年続き、やがて猫エイズを発症します。
エイズ関連症候群 エイズ期
症状として一番多いのが口内炎です。よだれの量が増えて、口臭が感じられます。
また鼻炎、結膜炎、下痢のほかに、慢性の皮膚炎や外耳炎などの症状も現れます。その後、免疫力低下が原因で貧血が激しくなり、体重が激減し、ほかの病気を併発して死に至ることがあります。
つまり、Iさんのところの2匹のやまとちゃんとたけるちゃんは、キャリア期が、通常、4~5年といわれていますが、16年間も続いています。
Iさんの猫エイズの子の飼い方
3匹の猫は、全て雄なのですが、全員去勢手術をしています。
そして、たくまちゃんと別の部屋で飼っているのです。もちろん、やまとちゃんとたけるちゃんは、兄弟なので、同じ部屋にいます。
それでも同じ家なので、3匹が一緒になることもあるそうです。そのときは、必ず家族の人がいるときにしています。
猫エイズキャリアではないたくまちゃんとは、食器もトイレもわけています。
エイズキャリアのやまとちゃんとたけるちゃんは、発症することもなく16歳のいまでも元気にしています。そして、17歳のたくまちゃんも猫エイズに感染していません。
猫エイズキャリアを迎えたら
猫エイズキャリアだからといって、いまの時代は、数年の命というわけではありません。以下を守っていただければ、この症例のように16年間経っても発症しない子もいます。
□不妊去勢手術をする
□猫エイズキャリアの子とそうじゃない子を分けて飼育する
□猫エイズキャリアの子の食器はとくに清潔に保つ
□猫エイズキャリアの子は、ストレスがないようにする
□猫エイズキャリアの子は、具合がおかしいとすぐに来院する
猫の保護猫活動をしている人が、猫エイズキャリアの子は、なかなか里親が見つからないといわれていました。すぐに猫エイズが発症することもなく、このように16年以上、長生きをしている猫もいます。
Iさんは、「やまととたけるは、すぐに亡くなると覚悟して飼ったのですが、こんなに長生きしてくれています」と嬉しそうにしています。
やまとちゃんのカルテを見ると、初診時、608gと書いてありますが、いまでは5350gまでになり、脚の運びが悪いというようなシニア特有の病気で来院しているぐらいです。