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BBCの著名司会者がスキャンダルの渦中に 大衆紙の報道がきっかけ 真実は未解明

小林恭子ジャーナリスト
BBCのヒュー・エドワーズ氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 (「英国ニュースダイジェスト」の筆者コラムに補足しました。)

 今年5月、英民放大手ITVの司会者フィリップ・スコフィールドが、自分よりも30歳も若い男性同僚と不倫関係を持ち、同僚や関係者には事実を否定したことが暴露され、スコフィールドは朝の情報番組「ディス・モーニング」の司会役を降りる事態となった。

 7月に入って、今度はBBCでスキャンダルが発生した。同月7日、大衆紙サンはBBCの司会者が3年間にわたって性的に露骨な写真を未成年に要求し、合計3万5000ポンド(約640万円)を支払ったと報道したのである。

 現在20歳のこの若者は、当時は17歳の未成年。未成年者のわいせつな写真を撮影する、所有するなどの行為は刑法に違反する可能性がある。

 若者の母親が「サン」紙に語ったところによると、若者は受け取った金銭を高純度の麻薬クラック・コカインの購入に使い、常習者になってしまった。このまま続けば「子どもは死んでしまいます」と母親。8日付では、この司会者が自宅で下着姿になり、若者を待ち構えている写真の存在が伝えられた。

 母親は5月、この件でBBCに苦情を申し立てたが、その後も司会者が番組に登場し続けたことでBBCの対応に不満を抱き、サンに情報を提供した。

 サンもBBCも司会者の名前を特定しなかったため、ネット上で憶測の情報が広がった。とうとうBBCの複数の著名司会者たちが「自分ではない」とソーシャル・メディアなどで宣言せざるを得なくなった。

 初報道から2日後の9日、BBCは司会者の番組出演を停止し、ロンドン警視庁に連絡をとったことを発表。

 10日、事態は思わぬ方向に進んだ。性的写真を求められたとされる若者の弁護士が、自分は母親の主張には同意せず、サンの報道内容には信憑性がないとする手紙をBBCに送ったからだ。

 11日、警視庁が調査を始めたため、BBCは内部調査を一旦停止する。

 同日、別の20代の若者がデート・アプリでこの司会者と知り合い、その関係を公にしようとしたところ、司会者に脅されたとBBCに伝えた。サン紙はほかの若者たちと司会者の疑惑の関係も報道した。

BBCの対応に問題はなかったのか

 司会者の名前について憶測が高まるなか、5月に母親から苦情を受けた後、BBCは果たして十分な対応をしていたのかが問題視されるようになった。BBCの調査チームが2度、母親側に連絡しましたが返答がなかったので、保留状態になっていたからだ。

 苦情について司会者に直接連絡を取ったのは7月6日で、サンが報道前にBBCに連絡を取ったことがきっかけだった。

 BBCのティム・デイビー会長は従業員宛メールの中で、司会者の名前を公表しないのは「個人のプライバシーの尊重」と書いた。サンを含めほかのメディアも個人名を特定しなかったのはプライバシー保護や名誉毀損に関わる厳格な法律があるせいといわれている。

とうとう、司会者名が判明

 BBCに対する負のイメージが広がり、BBCのほかの司会者への疑念の目が強まるなか、12日、司会者の名前が判明した。BBCテレビの夜10時のニュースの司会者ヒュー・エドワーズ(Huw Edwards)だったのである。妻のヴィッキー・フリンドさんが声明文を発表し明らかにした。昨年9月のエリザベス女王の死を伝えたエドワーズ氏は、最も著名なBBCの司会者の1人である。

 声明文によると、エドワーズ氏は「重大な精神的病を患っています」。今回の報道によって打撃を受け、病院に入院中。報道内容についてはエドワーズ氏が回復次第、自ら説明する意向だ。すでに警視庁は「犯罪が行われたことを示す証拠はない」と発表しており、これを受けてBBCは内部調査を再開した。

 一方、3人のBBC職員がエドワーズ氏から「不適切な」メッセージを受け取ったと番組「ニューズナイト」が報道したが、先の件も含め、真相はまだ明らかになっていない。

 果たして、最初の報道は本当だったのか。

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Huw Edwards(ヒュー・エドワーズ)

BBCのジャーナリスト、司会者。ウェールズ出身の61歳。BBCテレビの主要ニュース番組、総選挙特別番組、王室関連報道など重厚な番組の司会者として知られる。1984年、BBCで見習いとして働き始め、BBCウェールズの政治記者に。24時間放送のニュース番組「BBC 24」での落ち着いた司会で高い評価を得た。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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