交通事故から大切な子どもの命を守るために。新型コロナウィルスの影響に配慮した“普段通り”の対策を。
人口10万人当たりの歩行中の交通事故死傷者数について、最も多い年齢は新一年生である7歳児です。例年ですと、5月以降に子どもの交通事故による死傷者数が増加します。ただし、本年度は、新型コロナウィルスの影響により、例年とは異なる様相を呈する可能性があり、普段通りの対策を再度確認する必要があります。
◆子どもの交通安全への影響は
2020年3月末までの交通事故発生件数(速報値)は82,729件であり、前年の同じ時期と比べて、12,393件少ない状況となっています(警察庁調べ)。この減少の原因については詳細な分析が必要ですが、コロナウィルスの影響で、例年とは異なる生活を余儀なくされ、外出の自粛により、歩行や自動車などの利用の機会が減り、道路上での事故のリスクが減少したことも理由の一つと考えられます。
子どもの交通安全に話題を転じると、図に示すように、新一年生の交通事故は、例年、入学後の5月から増加する傾向にあります。この理由として、子ども自身が登下校に馴れて交通事故のリスクを小さく評価してしまうことや、4月まで実施していた保護者や教職員皆様などによる引率や立哨、さらには集団登下校などの機会が減ることで、未熟な新一年生が一人もしくは新一年生同士で登下校する状況が増えるなどの制度的な問題が原因として挙げられます。
出典)公益財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA):「特集 小学一年生が登下校中に遭った死傷事故」
(https://www.itarda.or.jp/contents/146/info121.pdf)より
図 歩行中の死傷事故 月別死傷者数
ただし、先述のように、今年はコロナウィルスの影響で、時差通学、または、休校期間の延長により学校に登下校する時期や時間が例年と異なるため、新一年生の交通事故の傾向が変わる可能性があります。
ひき逃げで中1死亡 コロナ禍の今「交通事故」から子どもの命を守るには
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20200508-00177475/
◆アクシデント・マイグレーションの可能性
事故の多い道路を対象に交通規制などの対策を実施した場合に、その道路の事故は減るものの、近隣の道路の交通量が増えて事故が増加する現象を、アクシデント・マイグレーション(Accident Migration)と呼びます。
今年は期せずして、時期のアクシデント・マイグレーションが起こるかもしれません。つまり、今回のコロナウィルスの影響による登下校の時期や時間などの学校行事の変更によって、今後、新一年生が交通事故に遭いやすい時間帯や月も、例年とは異なってくることが予想されます。
◆子どもの交通事故低減のための総合的な対策を
今年のような混沌とした状況の中で、子どもの交通事故のリスクを低減するためには、例年行っている対策を再度確認することが求められます。
ここで、リスクとは、交通事故のような危険事象や損失が生じる可能性や不確実性を意味し、発生する確率と発生した場合の損害の大きさによって評価されるのが一般的です。交通事故のリスクをゼロにすることは難しいですが、限りなくゼロに近づけることが、私達交通参加者の役割であり、一つの対策ではなく、いくつもの総合的な対策が必要になります。
<ドライバーの皆様へのお願い>
予測していたものに対してドライバーがブレーキを踏むまでの反応時間は0.7秒くらいであるのに対して、飛び出しなどの予測をしていなかったものには、約1.3秒の時間を要するとの報告例があります。反応時間の値そのものは状況により大きく変わりますが、この報告を参考にすると、60km/hで走行した場合、0.6秒(1.3秒と0.7秒)の差は約10mの距離に相当します。
この結果から、コロナウィルスの影響のもと、子どもの登下校の時期や時間帯が通常とは異なり、普段は家庭や学校にいる時期や時間帯でも、子どもが飛び出す可能性を予測しておくことが重要と言えます。例えば、子どもの飛び出しが予想されるような場所を、移動前に把握しておくことが望まれます。また、子どもの飛び出しが予想される場所では、速度を抑えて運転する必要があります。
<保護者、教職員、および地域の皆様へのお願い>
例年であれば、4月の入学とともに、新一年生は適切な歩き方を道路上で実践的に学習する機会が与えられます。ただし、今年のように外出の自粛が続く場合、子どもたちが道路の歩き方を勉強できる日数にも限りが生じます。そこで、機会があるごとに、新一年生の道路の歩き方を、下記のURLなどを参考にしてチェックしてみましょう。
新一年生の交通安全。学校や家庭での安全教育、何をどのように教えるのか?
https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtaniakira/20200324-00167485/
また、学校再開などの行事が各地で異なることから、各所の状況に応じた安全確保の取り組みを行うことが重要になります。例えば、外出自粛の要請が長く続くようであれば、お家の中でも実践できる教育手法を活用すると良いでしょう。お家の中で実践できる手法の例として、日本交通心理学会学校・家庭部会では、玩具を用いた安全教育の方法を近々ホームページ上で公開する予定です。
最後に、学校が再開された際には、外出の自粛に伴って長い間部屋に閉じこもらなければならなかった子どもの心理、つまり、外出自粛が解けた際の開放感や、ようやく学校生活が始まることへの期待感と不安感に起因する不安全行動が事故へと結びつかないように、見守りや立哨活動などを行い、危険な行動が誘発されないようにすることが大切になります。
上記の対策は、コロナ禍の状況ではなくても、子どもの安全確保のために重要な“普段通り”の対策ですが、登下校の時期や時間帯の変更に伴い、もう一度確認しておきましょう。