日雇い、短期、そして自営業…雇用期間や形態別の平均世帯所得をさぐる(2022年公開版)
雇用契約期間による所得の違いは、どの程度生じているのだろうか。その実情を厚生労働省の定点観測調査「国民生活基礎調査」(※)の公開値から確認する。
次に示すのは、直近2020年分(今調査最新分は2021年に調査が実施されているため、1年を通した所得が確認できるのは2020年分までとなる)における、雇用期間や形態別の平均世帯年収。全世帯とは「世帯あたりの平均所得金額推移をグラフ化してみる」でも精査している、今調査の調査対象母集団全世帯における平均。雇用者世帯は給料や賃金を受けている世帯(自営業者や年金生活者のみの世帯は該当しない)。常雇用者世帯は契約期間の定めが無いか一年以上の雇用者世帯となる。なお2020年は新型コロナウイルス流行の影響で調査そのものが実施されなかったため、2019年分の値は存在しない。
全世帯が564.3万円なのに対し、雇用者世帯はそれよりも高く、703.4万円となる。これは全世帯では年金生活者や仕送りによる生活者も含まれるため。特に昨今では年金を主な所得とする高齢者世帯が増加しているため、全世帯平均値は減少する傾向にある。
また雇用期間別で見ると、常雇用者世帯が734.1万円なのに対し、1か月以上1年未満契約は435.0万円、日々・1か月未満では296.2万円と明らかな差異が生じる。これは短期間契約による雇用が1年を通して行われている=就業できる=所得が発生するわけではないことを意味する。
自営業はその内容によって所得の額もケースバイケースとなることは容易に想像できるが、少なくとも今調査の限りでは、平均値として算出されているのは637.4万円。全世帯よりは多いが、常雇用者世帯よりは少ない。
これをデータが取得可能な1985年分以降について、その変化を見たのが次のグラフ。
一部イレギュラーが生じている年もあるが、今回精査した区分においては、おおよそ所得の順位に違いは無い。日々・1か月未満契約雇用者世帯がもっとも低く、次いで1か月以上1年未満契約、自営業者、そして常雇用者世帯の順。雇用者世帯の値が常雇用者世帯に近いのは、世帯数において日々・1か月未満契約雇用者世帯や1か月以上1年未満契約が少なく、常雇用者世帯が多分を占めるため。
他方、経年変化で見ると、常雇用世帯や自営業は前世紀末あたりまでは順調な伸びを示していたが、それ以降は漸減。今世紀に入ってから100万円前後のダウンが確認できる。常雇用者は正規・非正規ともに該当するため、非正規雇用者の増加が平均額を押し下げたと考えれば道理は通る。
常雇用でない雇用者は意外にも所得額の減少は見られない。やや上下に振れている面もあるが、むしろ漸増しているとも受け止められる。とはいえ、常雇用者世帯と比べれば額面的には低いことに違いはない。生活の上での苦境さは否定できまい。
またこの数年に限ると、自営業者の所得上昇が目にとまる(2018年では大きく下げたが)。2017年では雇用者世帯すら追い超している。現役引退後の高齢者が再就職の形で自営業の生業をスタートし、それが上手くいっている他に、仕事そのものの多様化が後押しをしているのかもしれない。
■関連記事:
【正規社員と非正規社員の賃金差の実情をさぐる(2020年公開版)】
【男性22.3%・女性56.4%は非正規…就業者の正規・非正規社員率(最新)】
※国民生活基礎調査
全国の世帯および世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2021年6月3日に世帯票、同年7月8日に所得票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収され、集計されている(一部は密封回収)。回収の上集計が可能なデータは世帯票が4万2717世帯分、所得票が5142世帯分。今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2021年分)は簡易調査に該当する年であり、世帯票・所得票のみの調査が実施されている。
また1995年分は阪神・淡路大震災の影響で兵庫県の分、2011年分は東日本大地震・震災の影響で岩手県・宮城県・福島県(被災三県)の分、2012年は福島県の分、2016年は熊本地震の影響で熊本県の分、2020年は新型コロナウイルス流行の影響で全体のデータが取得されておらず、当然各種結果にも反映されていない。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。