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ポジション別日本代表の優先順位(2)ハリルの選手起用で考える、守備的MFは永遠に「長谷部頼み」なのか

杉山茂樹スポーツライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

ポジション別ハリルジャパンの優先順位(2)

●SB編

起用された選手=酒井宏樹、長友佑都、酒井高徳、藤春光輝、太田宏介、内田篤人、遠藤航、米倉恒貴、丹羽大輝、槙野智章

招集されたが出場機会のなかった選手=宇賀神友弥

 解せないのは内田だ。2015年3月、もともと右膝に不安を抱えていた内田。ブンデスリーガで後に大手術をすることになる右膝のケガに見舞われていながら、その直後に行なわれたハリルジャパンの初戦と第2戦に出場した。いったいこれはどういうことか。適切な判断だったのか。傷を深くしたのではないか。あれから2年半が経過。内田はブンデスリーガ2部でようやく再スタートを切ったが、どのレベルまで回復できるのか。日本代表にとって、内田の戦線離脱ほど痛いものはない。

 アギーレジャパンが出場した2015年のアジアカップに、スタメン出場を飾ったのは長友と酒井高だった。従来の内田のポジションには酒井高が入った。その後、ハリルホジッチが監督に就任すると争いは激化。従来から出場機会のあった酒井宏に加え、太田、藤春、米倉、丹羽などが、左右のSBに起用された。

 中でも期待を抱かせたのが藤春。スピードがあるためカバーエリアが広く、長友のライバルになるかと思われた。だが、U- 23のオーバーエイジ枠で出場したリオ五輪(2016年8月)で、大きく評価を下げてしまう。第2戦でオウンゴールを献上。第3戦ではスタメン落ちの悲哀を味わったばかりか、以降、ハリルジャパンにも呼ばれなくなってしまった。

 結局、勝ち残ったのは海外組の3人。長友と2人の酒井だ。優勢なのは長友と酒井宏だが、酒井高には右も左もこなす多機能性がある。2017年3月のタイ戦には、守備的MFとしても出場。23人枠から外れにくい立ち位置を確保している。

 長友の代表試合出場数は現在97。100の大台は目の前だ。それは所属のインテルで、ポジション争いに苦しみながらも、最低限の出場機会を確保してきたことと大きな関係がある。

 ここ1、2年は綱渡りの状態にあるが、先のオーストラリア戦では、浅野拓磨の決勝弾を呼ぶ俊敏なアシストプレーを披露。日本を救う価値あるプレーを見せた。現在31歳。サッカー選手の寿命は延びているとはいえ、インテルでの出場機会は気になる問題。本番までの9カ月、安泰でいられる保証はない。

 アギーレジャパン以前の日本の平均的なボール支配率を60対40とすれば、現在は40対60だ。それはハリルジャパンの「縦に速いサッカー」に起因する。スピードが上昇すれば、ボール操作ミスは自ずと増える。

 SBの活躍度も支配率と深く関係する。サイドは真ん中よりボールを奪われにくい。そうした特徴のある両サイドを有効活用した分厚い攻めは、ハリルジャパンに不足している要素だ。

 アギーレジャパンとの比較でいえば、SBの基本ポジションが低い。攻撃に絡みにくい設定になっている。特に右の酒井宏。ボール回しに関わる機会が少ない。専守防衛になりがちで、いささか古臭く見える。中盤が広く空いてしまう理由でもある。SBが活躍するサッカーこそ、小柄な日本人が目指すべきサッカーだと思うのだが。

 期待したい新戦力は、車屋紳太郎だ。4-2-3-1の3の左は、乾貴士にせよ、原口元気にせよ、宇佐美貴史にせよ、右利きが揃う。バランスを考えれば、SBに欲しいのは、攻撃に深みが出せる左利きだ。左サイドが右利き2人では、攻撃はどうしても浅くなる。左利きの左SB。その中では車屋が一番になる。もっとも、所属の川崎Fのサッカーはハリルジャパンとは対照的な遅攻型。ない物ねだりであることも確かだが。

 一方の右サイドは、内田の復帰を願うばかりだ。

●守備的MF編

起用された選手=長谷部誠、山口蛍、今野泰幸、青山敏弘、谷口彰悟、藤田直之、柏木陽介、遠藤航、大島僚太、永木亮太、小林祐希、井手口陽介、原口元気(※)、柴崎岳(※)

(※は他のポジションでも出場)

招集されたが出場機会のなかった選手=高萩洋次郎、加藤恒平

 2014年ブラジルW杯。ザッケローニは4-2-3-1の2を、長谷部を軸に遠藤保仁、青山、山口の4人で回した。続くアギーレは当初、長谷部と遠藤を外して戦った。2018年W杯を34歳で迎える長谷部と38歳で迎える遠藤。常識のある監督なら、両者の起用を躊躇するのは当然だった。

 しかし、メディアの論調に屈したのか、コンフェデレーションズ杯出場を狙いたい協会からの要請なのかは定かではないが、アギーレは彼ら2人のみならず、2018年W杯を35歳で迎える今野までをもアジア杯(2015年1月)のメンバーに加えた。守備的MFはベテラン選手の3人体制で臨んだ。

 その後、就任したハリルホジッチはベテラン3人のうち遠藤を選ばず、今野についても就任2試合目のウズベキスタン戦(親善試合)以降、招集を見送った。

 長谷部だけを残し、彼を軸にチーム作りをスタートした。焦点は、4-2-3-1の2で彼とコンビを組む相手探しに絞られた。国内組だけで戦った東アジア杯を経て、ハリルホジッチが見出したのはブラジルW杯に出場した山口蛍。以降7試合中6試合に先発した。

 その山口が故障すると、今度は柏木に白羽の矢が立った。スタメンで4試合、交代で2試合出場を飾った。だが2016年10月、メルボルンで行なわれたオーストラリア戦を最後に、パッタリと呼ばれなくなる。切り捨てられたという印象だった。GK西川周作、CB森重真人同様、逆鱗に触れることがあったのだろうか。

 しかし、それ以上に理解に苦しむのは、最終予選の初戦UAE戦にいきなり先発させた大島僚太の起用法だ。アジア杯でアギーレジャパンがPK負けしている上昇ムード著しい相手に、これが初代表となる若手をいきなりスタメンで抜擢。そこで大島がPKを献上する反則を犯すと、後半の早い時間にさっさとベンチに下げる始末。大島の代表キャップは結局、この1試合のみに終わった。招集メンバーにさえ加えられなくなった。

 1人の若手の将来を潰しかねない采配ミス。以降の予選の戦いを苦しくした采配ミス。糾弾されてしかるべき采配ミスだった。こうした事件が起きると、チームは落ち着きを失う。監督と選手の信頼関係に大きな溝が生まれる。

 その後、長谷部とコンビを組むことになったのは結局、山口。これにより山口・長谷部で落ち着くかに見えた。ところが今度はUAEとのアウェー戦(2017年3月23日)を前に、肝心の長谷部がブンデスリーガの試合で負傷する。

 この中心選手不在の緊急事態を救ったのは、代表チームを卒業したつもりでいた今野だった。2ー0は、今野なしでは語れない勝利と言えた。

 だが、長谷部が復帰すれば今野は不要になる。年齢を踏まえると、2人を同時にピッチに送り出すことはできない。

 2017年8月31日。勝てば本大会出場が決まるオーストラリアとのホーム戦のピッチに、キャプテン長谷部はなんとか立つことができた。4-2-3-1から4-3-3に変更された布陣のアンカー役として。しかし、この試合で長谷部は、大丈夫かと首をひねりたくなる大きなミスを繰り返す。2018年の本番まで彼は持つのかと、見る側を不安に陥れた。

 予選最後のサウジアラビア戦(アウェー戦)は、長谷部に代わり、山口蛍がアンカー役を務めた。だが山口は、中心選手を補助するプレーが得意な選手。アンカーとして操縦桿を1人で操作する器の大きさはない。長谷部不在を多くの人が嘆いた。わずか5日前、技術的に日本で最も危なっかしく見えたベテラン選手は、一転、頼もしいキャプテンとして崇められることになった。

 この長谷部頼みの現実に、日本の限界が見える。

 分岐点は2015年アジア杯にあった。そこでベテランに頼った流れが、いまに至るまで影響を及ぼしている。

 4-3-3なのか4-2-3-1なのかにもよるが、長谷部に代わる選手をいち早く探すべきだろう。谷口、田口泰士。さらに内田をここにコンバートするという手もある。守備的MFはチームのヘソ。ここに不安を抱えるチームに多くの期待はできないのである。(つづく)

(集英社 Web Sportiva 9月16日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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