甘利前幹事長小選挙区落選のショック 大物議員の「まさか」はなぜ起きたのか
衆院解散総選挙から1週間が経ちました。今週には特別国会が召集され、新たな衆議院議員の下で再度首班指名が行われます。岸田内閣の旗揚げ直後の総選挙は野党共闘など様々なみどころがありましたが、終わってみれば世代交代が印象に残る選挙でした。
特に注目されたのが自民党前幹事長である甘利明候補の小選挙区落選です。1996年の小選挙区比例代表並立制導入以降、自民党の現職幹事長が小選挙区で負けるのは初めてのことで、南関東ブロックで比例復活したものの、結局党幹事長を辞任することとなりました。党総裁が総理大臣となる自民党において、党務全般を預かる幹事長ポストというものは「大臣2つ分」とも呼ばれるほど大きなポジションであり、自民党自体が小幅の議席減だったにもかかわらず甘利氏が辞任するに至ったところにも、幹事長ポストの重さがにじみます。
なぜ甘利明前幹事長は小選挙区で負けてしまったのか
上記のビデオは、筆者が取材した甘利明前幹事長によるマイク納め式(10月30日)の様子の一部です。選挙戦序盤から応援弁士として各候補の応援に入っていた甘利前幹事長ですが、中盤以降厳しい結果が伝えられると、一転して選挙区に舞い戻って地元遊説を再開しました。また選挙ポスターなどのデザインが不評を買うやいなや選挙ポスターを刷り直すなど、追い上げのための刷新をはかりました。
街頭演説では、たすきや選挙カーに「自民党幹事長」の肩書きを入れて、演説内容も党全体や日本全体について言及する立場がみられるなど、幹事長としてのポストを意識した内容になっています。これ自体は、自民党幹事長というポストの重さや、党幹事長というポストを取るまでの(党総裁選などの)経緯を考えれば、致し方ない側面もあるでしょう。
一方、小選挙区の戦いというのは、1996年の小選挙区比例代表並立制導入以降、今回で9回目です。特に野党共闘が選挙区の多くで成立した今回は与野党が接戦となる小選挙区が多かったこともあり、「無党派層」を抱き込めた陣営に勝利の女神が降臨したといっても過言ではありません。では「無党派層」を抱き込むにはどういった戦略が必要なのでしょうか。
その答えは無数にありますが、やはり重要なのは「内輪感」を出さないことです。自民党は組織に支えられた政党であることから、今回のような選挙戦では「守勢」に回りがちです。そうなると組織固めをしっかりして守りに入ることになりますが、組織固めを行っていく作業の過程は、「内輪感」にも見えることがあります。やはり「無党派層」を抱き込む攻めの姿勢に対し、「内輪感」が見える「守り」になれば、ジリ貧になってしまうことは否めません。
また、やはり応援演説など地元を二の次にしてしまったことも大きく響いたとみています。報道各社で出回った各種調査や党調査などでは、当初から必ずしも甘利氏の情勢は良くなく、接戦以上の戦いになることは分かっていたはずです。党幹事長という役職から人事掌握をするために全国行脚を行う必要もあったのは事実でしょうが、結果的には足をすくわれるという結果になったことを踏まえれば、裏目に出たと言えます。
ただ、これは甘利氏だけに言えることではありません。立憲民主党では「無敗の男」と呼ばれる中村喜四郎氏が小選挙区で落選しました。選挙期間中こそ地元べた張りでこれまで同様の選挙戦を展開していたものの、立憲民主党入りした後は全国の選挙に応援に駆けつけるなどといった動きもあり、構図としては似ているかも知れません。
政治とカネの問題にはとことん厳しい公明党
もう一つ触れなくてはならないことに公明党の存在があります。
意外かも知れませんが、公明党の支持者は必ずしも「小選挙区は無条件で自民党に100%入れる」という訳ではありません。各種出口調査などによれば、一般的に公明党支持者は情勢調査ベースで60〜70%、出口調査ベースで80〜90%が自民党候補者に投票すると回答します。ただ、そこに行き着くためには、それなりの政治教育が必要であり、自民候補者(小選挙区)や公明候補者(比例ブロック)は揃い足で連立政権の重要性やこれまでの自公政権の実績を訴えるわけです。
公明党には宗教団体である創価学会という大きな支援団体はあるものの、必ずしもすべての自民党候補者に一律に投票しているわけではありません。特に「政治とカネの問題」をはじめとする不祥事に対しては非常にシビアなところがあり、今回もそういった不祥事を起こした候補が軒並み接戦区で落としている背景には、公明党支持者の離反があるとみています。
もっとも、公明党自身も遠山清彦元衆院議員の一連の不祥事をはじめ、現在も報道されている融資仲介疑惑などがあり、この点には留意が必要な状況です。自民党にとっては切っても切れない友党・公明党は(一般的に)小選挙区で1万5千票程度を持つ存在だと言われており、5000票差以内の接戦区が多かった今回の衆院総選挙では、自民党候補者が公明党支持者を抱き込めたかどうかも極めて重要な鍵だったと言えます。
いずれにせよ、甘利前幹事長にとっては、選挙戦序盤に地元を離れてしまったことと選挙戦全体のブランディング、くわえて公明党支持者の離反が小選挙区での落選結果となったと言えるでしょう。