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沖縄で蔓延する「ブラックバイト」 国際通りのかき氷やで酷い事例も

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 学生であることを尊重しないアルバイト=「ブラックバイト」。大内裕和中京大学教授が提唱したこの言葉については、筆者も普及に一役買い、今や多くの人が知るところだろう。

 特に、このブラックバイトの広がりが懸念されているのが沖縄県だ。同県では、飲食・観光業が盛んだが、それを支えているのが大学生のアルバイトだからである。

 また、沖縄県では本土よりも「ブラックバイト」に対する認知が進んでおらず、しかも、「規制が揺い」という実態も、問題に拍車をかけている。

 例えば、本土では商店街でのキャッチを禁止する動きが進んでいるが、沖縄の観光地では実質的に無規制のままだ。

 キャッチセールスでは、学生アルバイトが「個人事業主」扱いにされ、完全歩合制となっているなど、労働法違反広がっている。

 そして、このような違法労働を強いる企業の少なくない割合が、「本土から進出した企業」なのである。彼らは沖縄の地域経済の発展に貢献するのではなく、地元の学生を都合よく搾取している。

 今回は、筆者も関わり、ユニオンを通じて解決に至った、本土から沖縄に進出した企業によるブラックバイトの事例を紹介したい。

そもそも「ブラックバイト」とは

 そもそも「ブラックバイト」とは、「学生であることを尊重しないアルバイト」のことである。近年、学生に対するアルバイトの拘束力が強まる中で、ゼミ合宿の予定が学生同士でどうしても合わなかったり、講義やゼミをアルバイトで休む学生が増えている。

 特に、コンビニエンスストアや居酒屋チェーン店などでは人手不足が慢性化しており、学生が深夜営業の「中心的戦力」とされており、試験や就職活動の日程と重なっても休むことができないという事態も起きている。

 実際に、「ブラック企業対策プロジェクト」が2014年に、全国の大学生4702人を対象に実施した調査では、学生が働く業種は下記の通りだった。

  • 「(居酒屋・ファストフード店・チェーンのコーヒー店を除く)その他のチェーンの飲食店」(29.3%)
  • 「居酒屋」(18.7%)
  • 「学習塾・家庭教師」(15.6%)
  • 「その他小売(パン屋、弁当屋など)」(15.5%)
  • 「コンビニ」(15.0%)
  • 「スーパー」(10.8%)

 このように、学生は主に「外食業」「小売業」「学習塾」で働いている。

 また、同調査によれば、約3割(29.0%)の学生が週あたり20時間以上就労している。そして、アルバイトのために試験や課題の準備時間が取れなかったことがある学生は、全体では約4割(39.9%)に上る

 アルバイトのために授業を「たびたび欠席する」もしくは「ときどき欠席する」学生は1割弱(8.3%)、勤務時間帯が「24時を超えて5時まで勤務あり」の場合、2割(20.4%)に達する。

 こうした結果からは、学生が長時間労働により学生生活を圧迫され、しかも、深夜営業に充当されることでその問題が拡大していることが見て取れる。

沖縄の労働問題に関するデータ

 次に、沖縄の労働問題に関連するデータを見ていこう。

(1)第三次産業への偏重

 沖縄が全国のなかで特殊なのは、観光業を中心とする第三次産業に産業構造(主としてサービス業)が偏重しているということだ。

 産業3部門の就業者数は、日本全体で第一次産業3.8%、第二次産業23.6%、第三次産業67.2%であるのに対し、沖縄ではそれぞれ4.5%、13.8%、73.5%となっている(「平成27年国勢調査」)。

 先ほど述べたように、学生アルバイトはこれらのサービス業に多く、その分野でブラックバイトが問題となってきたのである。

 沖縄労働局が2016年に県内の大学生等2667人に対して行った調査によれば、沖縄の学生のアルバイトが多い業種は下記のとおりである。

  • (コンビニ、スーパーを除く)その他の販売店 27.0%
  • 学習塾 15.4%
  • スーパーマーケット 15.0%
  • 居酒屋 13.6%

 まさに、「ブラックバイト」が多い業界に学生アルバイトが集中していることがわかる。

(2)サービス業で違法労働の割合が高い

 沖縄で特に「ブラックバイト」が深刻であると思われるのは、サービス業が多いことに加え、同業界での「違法労働」が本土よりも多いからだ。

 沖縄労働局の平成30年7月30日付プレスリリースによれば、労働基準監督署が定期監督を実施した事業場での労働基準関連法令の違反率が82.5%と全国(68.3%)と比較して際立って高い

 また、業種別違反率においては、接客業で最も高く90.4%。違反事項は労働時間が最多で21.0%、割増賃金が17.7%と続く。

 これらの労働法違反の主な原因としては、本土以上の人手不足があると思われる。人手不足により少数の労働者へ負担がしわ寄せされ、時間外労働が増えているのだろう。

 さらにそこに、本土以上に劣悪な環境を強いる業者の慣行や経営者の差別意識があわさって、さらなる被害を引き起こしているものと考えられる。そのような事情が推察できるのが、次のケースである。

本土の会社員が副業として開いたかき氷屋

 冒頭で述べたように、沖縄県では本土では規制が強まっているキャッチセールスが無規制など、学生の扱われ方に対し、劣悪な事例が問題化している。

 当事者のAさんは沖縄の大学に通う3年生。学費の足しにしたいと思い、アルバイトを探していた。そこでネット上の求人で見つけたのが、新規開店する那覇中心部「平和通り」のかき氷屋だった。

 このかき氷屋が魅力的だったのは、沖縄の最低賃金が762円なのに対し、時給1100円と比較的高い時給を謳っていたからだ。普通、大学生が従事するサービス業のアルバイトは最低賃金ギリギリであることは少なくない。

 こうしてAさんは求人に応募し、オープニングスタッフとして採用された。

 このかき氷屋を経営するのは株式会社で、社長Bは本土の映像制作会社で働いているという。彼は「副業」として、沖縄でかき氷屋を営もうというわけだ。

 この社長Bは普段現場に来ることはないため、Aさんと他の店員は社長Bと電話で連絡を取りながら、店の運営を行なっていた。このかき氷屋にはイートインスペースがなく、他店に劣り、かき氷の売れ行きはあまり良くなかった。時給が高かったこともあり、店員の中では給料が支払われないのではないかという不安が広がっていたという。

 Aさんも同様に不安に感じ、1ヶ月でこの店に見切りをつけ、退職した。その際、社長に連絡を取り、退職の同意を得たが、特にトラブルになることもなかったという。

一切の賃金を支払わず、暴言を吐く

 しかし、Aさんが退職した後、一切の賃金が支払われないという状態に陥った。

 退職前の不安が的中してしまった格好だ。高い時給を設定し、賃金をそもそも払わないというやり口からは、本土から「副業」としてビジネスを展開し、失敗したら責任を取らずに撤退しようという「計画」が合ったのではないかとさえ疑われる。

 ここで、Aさんは諦めなかった。

 まず、店のシャッターの下に未払い賃金の請求書を挟んだ。しかし、これには特に反応がなかったため、シャッターそのものによく見えるように貼り付けてみた。そうしたところ、商店街の他の店の人が気づき、店員経由で社長Bに伝わった。

 元店員の未払い賃金請求に気づいた社長は、Aさんに対して誹謗中傷のメッセージを立て続けに送ってきた。特にひどいのは、「クソ田舎もんが調子に乗るな」というものである。さらに、Aさんの電話には、早朝から非通知で62件もの着信が入っていた。

 これらの行為は経営者としてあるまじきものだ。「クソ田舎もんが調子に乗るな」という暴言には、沖縄の人々に対する蔑視感が滲み出ている。また、非通知の着信を62件も入れてくるなどは、社長Bによるものか確認できないとはいえ、彼による行為であれば、もはや常軌を逸している。

 こうした誹謗中傷や嫌がらせを受けながらも、Aさんは労基署にも相談に行った。しかし、労基署は調査を行うのみで、未払い賃金を支払わせることはできなかった。

 結局、未払い賃金が支払われなかったことでAさんは学費の支払いに困り、別のアルバイトを行うことで補填するしかなかったのだった。

ユニオンに加入して未払い賃金を取り返す

 そうした中で、私が沖縄の大学の授業でゲストとして招かれた際、ちょうど授業に出席していたAさんに相談され、Aさんをブラックバイトユニオンに紹介することができた。労働法を担当する教員も、「いつも暗い顔をしている」とかねてから心配していたという。

 即座にAさんとユニオンの学生スタッフで行動を開始した。店に行って賃金支払いの申し入れを行おうとしたが、店は閉まっていた。近所の人に聞くと、経営難のためか、一週間に1日程度しか開店していなかった。

 そのため、会社に賃金請求を直接送るしかないということで、会社の登記などを調べ、請求書を郵送で送付した。

 その数日後、社長Bから未払い賃金を支払うとの回答があり、実際にAさんの口座に振り込まれたのだった。

 ただ、社長BはAさんに対して、勝手に辞めたことによる損害、制服代のレンタル代、シャッターの器物損壊の損害などを名目にした、根拠のない損害賠償請求書を送ってきた。これもブラックバイトを辞める時に脅すための典型的な手口である。

 尚、このような損害賠償は成立しないため、請求が来ても基本的に無視すれば良い。

 いずれにせよ、今回のケースは学生たち自身の労働組合(ユニオン)の力によって、未払い賃金が勝ち取られた事例となった。

 労働組合法上、会社は労働組合の交渉を拒否することはできず、誠実に対応する義務が発生する。それは学生アルバイトのユニオンであっても、まったく変わるところがない。

 今回の経営者のように、当事者に不誠実な態度を見せていたとしても、労働組合の要求に対しては対応しなければならないのである。 

おわりに:相談窓口の充実の必要

 今回の事件では、本人が諦めなかったことでユニオンにつながることができ、未払い賃金を勝ち取った。

 かき氷屋の経営者は、沖縄の人たちを自分の都合のいいように使って金儲けをしたかったのかもしれないが、そのような人権無視、地元社会無視の経営は許されてはならない。今回のような闘いは沖縄の産業をまっとうなものにしていく一歩だと言える。

 そのためにも、一人ひとりの権利行使が重要である。ブラックバイトで未払い賃金などの労働問題に苦しむ学生は、諦めずにユニオンにぜひ相談してほしい。また、相談対応を担うボランティアや労働組合の結成など、地域の「自主的な取り組み」の広がりを応援したい。

 今回の事件の経緯については、現地沖縄で報告集会が開催される。当事者による経緯の説明や、ユニオンスタッフによる解説などを行うという。関心のある方はぜひ参加してみて欲しい。

【報告集会の詳細】

ブラックバイト先から給料を取り返してみた! ~ブラックバイトユニオン報告会~

日時:2019年8月23日(金)18:20開始(18:10開場)

場所:てんぶす那覇会議室1・2(〒900-0013 沖縄県那覇市牧志3丁目2−10)

主催:ブラックバイトユニオン(総合サポートユニオン・ブラックバイト支部)

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

ブラック企業ユニオン 

03-6804-7650

soudan@bku.jp

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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