『人生が終わるまであと何回、心躍る試合に参戦できるのか』ACL決勝第2戦 浦和レッズvsアルヒラル
■久しぶりの5万人でみんなソワソワ
まあ、確実にレッズサポパワーを甘く見ていたところはあった。いつもの南側自由席ではなく、バックスタンドの指定席を買ったので、試合ギリギリに行ってもよかったのだが、せっかくの「大イベント」なので、と試合開始2時間前くらいには埼スタに到着。すでに、自転車で来る道々で、レッズのレプリカ着てる自転車に次々に抜かれている。風は強い追い風で、いつもよりスピードが出る。
追い風を 走るレッズの バイシィクル
広場が人であふれていたのは予想内として、広場の男子トイレすら、長い列ができてたのは予想外。それにMDPを買おうとしたら、こっちも長い行列。
入り口も混乱してた。「シーズンチケット指定席」と「一般販売席」の列が別なのに、どこが最後尾で、どっちに並べばいいのかがよくわからない。係員じゃなくて、サポーターの一人が臨時に整理したりしてて。
考えてみたらコロナ発生以降、埼スタが満員になりそうな試合って、ほぼなかったからかもしれない。コロナ前なら、5万人以上入るような時でも、もっとスムーズにさばいていたような気もする。
入場の ゲートで迷う コロナ後
スタンドに入ってすぐ、MDPの売り場に行ったら、こちらはスイスイ買えた。なぜ外と中でこんなに違うのか不思議なくらい。
連休中だけあって、子供を連れたファミリー層が多い。それと、マスクをした人がめっきり減った。全体の三分の一くらい。売店の店員やスタッフは全員がマスクなので、その人達を除けば、もっと少ないかもしれない。ようやく思い切り応援ができるようになった一つの証と見ることも出来る。
私が買った席は、南側バックスタンドの、コーナーのすぐ前。だからコーナーキックが間近で見られる。
オーロラビジョンにはDJやMCが次々と登場したりして落ち着かない。スタンド見渡すと、アウエーエリアの一画だけがガラガラだが、さすがにレッズサポじゃないのだから、サウジからそんなにアルヒラルサポが来るはずもなく、これは仕方ない。よく集まった方だ。まあ、観客6万人は難しいな。
当然、アルヒラルの先発メンバー発表はブーイングの嵐だったものの、監督のディアスへのブーイングはさほどではなかった。Jリーグ元年の時の得点王、といった過去の栄光はもうあんまり浸透してないのかもしれない。
あとはトロフィープレゼンターとしての阿部勇樹の登場だ。前2回のACL優勝ではピッチに立った選手なわけだし、「クラブの歴史」を体現できる人物としてこれほど相応しい人はいない。2017年、ラファエル・シルバがビュンと足をのばして決めた決勝点を思い出してしまった。
ACL 歴史を背負って 阿部勇樹
■貴重な試合と時間を噛み締めながら
試合が始まる。前半はレッズがこちら側のゴールに攻めてくるのだが、もっぱら反対側のエリアで展開されていて、なかなかこっちに来ない。ただすぐ後ろに座っていた中年男性は、
「いい。これでいい。レッズは点をとられなければいいんだから、まず固く守る。相手の方がかさにかかって攻めてくれば、必ずスキができる。プラン通りだ」
勝手に一人で納得してる。そういうもんかな、と聞いているうちに、20分過ぎ、危ないシュートを西川が止める。おいおい、プラン通りにしちゃ、相当ヤバかったぞ、とアセる。
二度ほど、私たちのすぐ目の前でのコーナーキックはあったものの、ビッグチャンスとはならず。
まあ30分くらいには興梠の惜しいシュートもあったが、全体としては明らかに敵に押されて、40分過ぎも西川のファインセーブで得点を阻止。ホントにこれが「プラン通り」かよ、とまた首をかしげるが、とにかく0-0で来てるわけだから、結果オーライだ。
2度3度 プラン通りに 肝冷やす
さて、後半始まってすぐだ。レッズが私達からは遠いサイドを攻める番になってきて、守りから攻めに転じていきなりのチャンス。見事決まって、こっちはてっきり興梠のヘディングかと思いきや、オーロラビジョン見て、興梠は触ってなくて、いわばシャドーシュート。相手のオウンゴールだったのを知る。ありゃありゃ。でも決まればいいのだ。
こういう点の取り方が出るからには、明らかにレッズ側に「運」が来てる。あの1点で、ほぼ「レッズ優勝」を確信。西川も当たりまくってるし、点を取られる気がしなくなって来た。
興梠の シャドーシュートで 運開き
とはいえ、最後の10分間くらいはさすがにビビッた。もう、すぐ目の前で攻められてるんだから。また西川のファインセーブもあったし、この試合のMOMについて聞かれたら、観客の大多数は「西川」と答えるだろう。82分ごろのシュートもよく止めた。あそこで同点にされていたら、完全に流ればアルヒラルに行く。そもそもむこうの攻撃陣は強い。
あとで、レッズ側が枠内に放ったシュートがゼロだったのを知り、これこそ「プラン通り」の最終形だったんじゃないかと改めて思う。無理して攻めない。とにかく点を取られない。
結果として1点でも入っててくれれば大成功。タイトルを取るために、徹底したリスク管理をした上での試合運び。うまくツボにはまった。
勝利して、授賞式も見て、レッズ選手たちの挨拶もうけて、スタンドを出ると、空は今夜の勝利に相応しい満月。ああ、あと人生が終わるまで、何回、こういう心躍る試合に参戦できるのかな、とつい考えてしまった。私は今、68歳。レッズが10年に1回ACLを取るとしても、せいぜいあと1~2回か。きょうは貴重な時間だったな。
満月の 下で歓喜の ACL
家帰ってテレビのスポーツニュース見たら、また大谷はグランドのゴミ拾った、とか大谷ニュースを延々と繰り広げ、ACL決勝ニュースは30秒くらい。よく、こんな報道姿勢を続けて内部から反発が起きないんだな、とそっちの方が不思議なほどだ。正直、テレビ業界も衰退産業ってことか。
山中伊知郎
1954年生まれ。1992年に浦和に引っ越して来て、93年のJリーグ開幕時にレッズのシーズンチケットを取得。以後31年間、ずっとシーズンチケットを持ち続け、駒場、ならびに埼スタに通う。2021年より、レッズ戦を観戦した後、「川柳」を詠むという「レッズ川柳」を始める。現在、去年一年の記事をまとめた単行本『浦和レッズ川柳2022』(飯塚書店)が好評発売中。代表を務める「ビンボーひとり出版社」山中企画では、昨年9月、お笑い系プロダクション「浅井企画」の元専務・川岸咨鴻氏の半生を追った『川岸咨鴻伝 コサキンを「3億年許さん」と叱責した男』をリリース。11月上旬には『タブレット純のローヤルレコード聖地純礼』も発売。今年4月には、漫才協会在籍30年の浅草芸人・ビックボーイズ・なべかずおが半生を振り返る『たまらんぜ! 芸人人生七転び八転び』を出す。