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オリンピック年に捧げるパリの展覧会「ファッションとスポーツ」が面白い。

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
パリ装飾芸術美術館で開催中の「ファッションとスポーツ」展(写真はすべて筆者撮影)

2024年夏、オリンピックがフランスの首都パリに100年ぶりに戻ってきます。

この歴史的な瞬間を前に、パリ装飾芸術美術館では、ファッションとスポーツの関係性を探求する革新的な展覧会「MODE ET SPORT」が開催されています。

古代から現代に至るまで、ファッションとスポーツがどのように互いに影響を与え合い、時には融合してきたのかを紹介するこの展覧会。パリならではの芸術的洗練と、オリンピック開催年ならではのダイナミズムが同時に感じられる一大イベントとなっています。

ルーヴル美術館に隣接するパリ装飾芸術美術館の壮麗な建築を舞台に色鮮やかな衣装が勢揃い
ルーヴル美術館に隣接するパリ装飾芸術美術館の壮麗な建築を舞台に色鮮やかな衣装が勢揃い

展覧会場の最初のコーナーには、1924年パリオリンピックのポスターが飾られている
展覧会場の最初のコーナーには、1924年パリオリンピックのポスターが飾られている

展覧会では、450点以上の衣装、アクセサリー、写真、スケッチ、雑誌、ポスター、絵画、彫刻、ビデオを通じて、スポーツウエアの進化とファッションへの影響を走馬灯のように概観することができます。

1905年のオールブラックスのユニフォーム
1905年のオールブラックスのユニフォーム

1964年東京オリンピック、聖火リレーの最終ランナーが着用していたウエア
1964年東京オリンピック、聖火リレーの最終ランナーが着用していたウエア

会場はスポーツの歴史を年代順に辿るように設計され、テーマ別のセクションで構成されています。古代のスポーツが裸体と結びついていたことから始まり、中世の騎士のトーナメント、近代スポーツの発展、そして女性の解放に至るまでの物語が次々に展開します。

水泳や自転車がもたらした社会的変化、戦間期のスポーツウエアの誕生、そして冬季スポーツやサーフィン、スケートボードといったスポーツがファッションに与えた影響など、豊富な例が紹介されています。

ベルエポックの時代の女性のスポーツウエア。テニスやゴルフの時でもやはりコルセットを身につけていた。ただし、通常のものよりも融通のきくリボン素材のコルセットが編み出された
ベルエポックの時代の女性のスポーツウエア。テニスやゴルフの時でもやはりコルセットを身につけていた。ただし、通常のものよりも融通のきくリボン素材のコルセットが編み出された

1930年代になると、同じ競技でもウエアが様変わり。「ラコステ」のスポーツウエアが登場したのがこの時期
1930年代になると、同じ競技でもウエアが様変わり。「ラコステ」のスポーツウエアが登場したのがこの時期

ファッション界の巨匠たちがスポーツ界に目を向け、その要素をハイファッションにどのように取り入れていったのかも見どころです。現代においてジョギングパンツやスニーカーが日常的なファッションアイテムとしてどのように定着したのか。そういった時代と文化の変遷もこの展覧会を通して感じ取ることができます。

右は2022年冬季オリンピックでカザフスタンの旗手が着用していた衣装。中央は2002年冬季オリンピックで4カ国の公式ユニフォームを担当した石岡瑛子氏のデザインでスイスのスキー選手の衣装
右は2022年冬季オリンピックでカザフスタンの旗手が着用していた衣装。中央は2002年冬季オリンピックで4カ国の公式ユニフォームを担当した石岡瑛子氏のデザインでスイスのスキー選手の衣装

「コンセントレーションコート」と呼ばれ、選手が競技前に精神集中できる大きなフードが特徴的。ポケットに音楽プレーヤーも内蔵できるという
「コンセントレーションコート」と呼ばれ、選手が競技前に精神集中できる大きなフードが特徴的。ポケットに音楽プレーヤーも内蔵できるという

重要なファッションアイテムになったスニーカーのコーナー
重要なファッションアイテムになったスニーカーのコーナー

ルネ・ラコステがテニスプレイヤーからファッションの世界へ進んだこと、エミリオ・プッチがオリンピック選手からファッションデザイナーへと転身したことなどが象徴する通り、スポーツとファッションが交差することで生まれた創造性は枚挙にいとまがありません。この二つの世界は個別に存在するのではなく深く結びついており、互いに影響を与え合いながら進化し、新しい時代を作ってきました。

競技場のトラックを舞台に有名ファッションデザイナーたちの自由な発想による作品が展開する
競技場のトラックを舞台に有名ファッションデザイナーたちの自由な発想による作品が展開する

筆者が実際に訪れてみて印象的だったのは、まずその演出です。展覧会のメインコーナーは、さながら競技場のトラックのようで、そこに有名ファッションデザイナーたちの作品がずらりと勢揃いしています。また、プールのシーンを天井に展開させるなど、遊び心に富んだ演出によって、来訪者を飽きさせない工夫がされています。

歴史資料や衣装だけでなく、ビデオ映像がところどころに据えられているのも小気味よいアクセント。ともすると静的になりがちな展覧会に躍動感をもたらしています。

かつてのさまざまなスポーツシーンのビデオが、展覧会のアクセントになっている
かつてのさまざまなスポーツシーンのビデオが、展覧会のアクセントになっている

また、機能性を最大限に追求することから生まれた革命的素材を観覧者が直に触れられるコーナーなどもあります。つまり、視覚以外の感覚器官を刺激し、人々があたかもその歴史に参加しているような気分にさせる工夫があちらこちらにちりばめられているのです。

2009年の世界選手権、43の世界記録更新の立役者になった水着の新素材を直に触れられる
2009年の世界選手権、43の世界記録更新の立役者になった水着の新素材を直に触れられる

この展覧会は、ファッション愛好家だけでなく、スポーツファン、歴史家、文化人類学者、そして単に美しいものを愛するすべての人々にとって魅力的なものです。パリを訪れる機会があれば、このユニークな展示を体験し、ファッションとスポーツが織りなす豊かな物語に触れてみてください。2024年という記念すべき年の鮮やかな記憶になることでしょう。

展覧会「MODE ET SPORT(ファッションとスポーツ)」
パリ装飾芸術美術館
2023年9月20日〜2024年4月7日

こちらの動画の前半でもこの展覧会の様子を紹介しています。ぜひご覧ください。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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