Yahoo!ニュース

「えっ!兄嫁が相続人だって!?」「想定外の相続人」で大混乱~長引く遺産分けはロクなことがない

竹内豊行政書士
遺産分けを長引かせるとロクなことは起きません。(写真:イメージマート)

加藤二郎さん(仮名・48歳)は、父太郎さん(仮名・享年80歳)を5年前に亡くしました。母の花子さんは太郎さんより先に亡くなっていたので、相続人は子どもの二郎さん(二男)と長男・一郎さん(仮名・53歳)の二人でした。太郎さんは亡くなる3年程前から終活を行っていて、遺産は預貯金の2千万円のみで不動産など処分に困るようなものは一切ありませんでした。

兄弟仲はまずますで、二人とも特に遺産を早く取得する必要性もなかったので遺産分けはまだしていません。しかし、二郎さんは家のリフォームや息子が大学の医学部に入学したこともあり何かと入用になってきたので「そろそろ遺産分けをしよう」と決意しました。

話し合いが円満にまとまる

「親父の遺産分けをしたい」と一郎さんに告げると、「そうだな。いつまでも銀行に置いておいても仕方ない。せっかく親父が残してくれたのだから有効に使わせてもらおう。お前は夫婦で親父の介護をしてくれたから俺が500万円、お前が1500万円ということでどうだろう」と言ってくれました。二郎さんはもちろん異論はなかったので、この内容で1週間後の夜に、一郎さんの自宅でお互いに「遺産分割協議書」に署名押印をして遺産分けを成立させる約束をしました。

兄の突然の死亡

約束の日の昼過ぎ、兄嫁の礼子さんから「夫(一郎さん)が今朝死亡した」と連絡が入りました。なんと一郎さんは日課の早朝ランニングをしている最中に、突然倒れてそのまま帰らぬ人となってしまったのです。二郎さんは愕然とするしかありませんでした。

兄嫁からの宣戦布告

一郎さんの四十九日が終わってから数日後、兄嫁・礼子さんから二郎さんに電話が入りました。「おじいちゃん(太郎さん)の相続の件ですけど、夫(一郎さん)が死亡したので私と息子が夫に代わって相続人になります。夫は『500万円でいい』と言ったようだけど、私は納得できません。改めて話し合いたいと思うので、よろしくお願いしますね」と一方的に言って電話を切ってしまいました。実は、太郎さんは一郎さんが礼子さんと結婚するのに反対だったのです。「ひょっとしたらそのことが影響しているのかもしれない」と二郎さんは思いました。そして、これから先のことを考えると気が沈んでしまいました。

「再転相続」が発生

このように、被相続人(死亡した人)の遺産分割が終わらないうちに、相続人が死亡すると、「相続人の相続人」が死亡した相続人に代わって相続人になります。このような相続を「再転相続」といい、「相続人の相続人」を「再転相続人」といいます。

ご紹介したケースでは、本来、相続人は子どもの一郎さんと二郎さんの二人で、それぞれの法定相続分は2分の1でした。一郎さんの死亡により、一郎さんの2分の1の相続分は、一郎さんの相続人である妻・礼子さんと一人息子・信一郎さん(太郎さんの孫・二郎さんの甥)が再転相続人として2分の1の半分ずつ(=1人当たり4分の1)引き継ぐことになります。したがって、太郎さんの遺産は、子の二郎さん、一郎さんに代わって一郎さんの妻・礼子さん、そして一郎さんの子・信一郎さんの以上3名で協議して決めなければならないのです。

さっさと遺産分けすべきだった

再転相続が発生すると、一般的に被相続人との関係性が薄い人が相続人になります。そうなると、話し合いがややこしくなり円満にまとまらない可能性がどうしても高くなってしまいます。再転相続は被相続人の死亡から年月が経てば経つほど起こる可能性は高くなります。

ご紹介したケースでも被相続人が死亡してから5年間も遺産分けを行っていませんでした。再転相続を発生させないためにも、遺産分けはできるだけ速やかに行うことをお勧めします。

※この記事は、筆者の実務経験を基に作成したフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事