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ノンバンク金融仲介における投資としての融資の意義

森本紀行HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長
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 ノンバンク金融仲介とは、銀行等に固有の諸制約のもとで、銀行等が融資できない先に、投資運用業者等が融資することですが、さて、投資としての融資は、いかなる要件を充足すべきか。

ノンバンク金融仲介

 産業界や個人に資金供給するための代表的な方法として、遠い昔から、融資が利用されてきました。融資には、バンク、即ち、銀行等の預金取扱金融機関が行う融資と、バンクではないものが行う融資とがあって、金融安定理事会(Financial Stability Board、FSB)は、後者をシャドーバンキング(shadow banking)と呼んでいましたが、現在では、それをノンバンク金融仲介(Non-Bank Financial Intermediation、NBFI)という名称に改めています。

 ノンバンク金融仲介は、古くから、ノンバンクと呼ばれる事業会社が行っていて、ノンバンクには上場企業も少なくなく、その株式や社債、特に、貸付債権を流動化することで発行される資産担保証券は、投資運用業にとって、重要な投資対象となってきました。更に、現在では、投資運用業者自身がファンドを組成して、そのファンドから直接に融資を行うに至っています。

バンカブルではないもの

 バンクにとって、融資の対象となるものは、バンカブルであるといい、バンカブルではない法人や個人が数多く存在する事実は、金融排除と呼ばれます。この金融排除を解消するために、ノンバンク金融仲介が社会的に必要とされるわけですから、自明のこととして、バンクの融資対象がバンカブルであるのに対して、ノンバンク金融仲介の融資対象はバンカブルではなく、投資運用業の融資対象もバンカブルではありません。

 いうまでもなく、バンカブルでないものの全てがノンバンク金融仲介の対象になるわけではありません。当然のことながら、いかなる形態においても、融資の対象となり得ない法人や個人は存在するわけです。ノンバンク金融仲介の対象は、融資を受ける債務者の側の状況としては、バンカブルなのであって、単に、バンクの側の様々な事情によって、バンカブルにならないだけのことです。

バンクの経営努力

 バンクの代表は株式会社形態の銀行ですが、例えば、日本では、銀行によって金融排除された人々が協同組織形態のバンクを創立して、自助努力によって金融排除を解消しようとしたのであって、それが現在の信用金庫と信用組合の源流になっています。同様の展開は、諸外国にもあるのだと考えられます。

 また、金融庁は、常にバンクによる金融排除を問題視していますが、その前提には、事実として金融排除が存在して、そのなかには、銀行や信用金庫等のバンクの経営努力によって、解消し得る事案が少なくないとの現状認識があるはずです。しかし、金融庁の意向にもかかわらず、バンクの経営努力に限界のあることは認められるべきです。

高度に規制されているバンク

 バンクの融資の原資は預金であり、預金が金融システムの根幹を形成していることから、バンクは最高度に規制されざるを得ないわけで、そのことがバンカブルである対象の範囲を狭めてしまうのです。この点、金融安定理事会がシャドーバンキングをノンバンク金融仲介に呼び替えたことは、単なる名称変更なのではなく、高度な規制によるバンクの行動制約を前提にしたうえで、バンクの補完としてのノンバンク金融仲介を正面から認めたのだと考えられます。

 バンクの資金調達は、小さな自己資本を預金によって増幅した構造になっているために、融資において、とり得る信用リスクに限界が生じるのに対して、例えば、ノンバンク金融仲介のなかでも、投資運用業としてファンドを設定して融資を行う場合には、運用資金の全体が事実上の資本になるのですから、バンクよりも大きな信用リスクを負担できるわけで、その融資の自由度の高さは明らかなのです。

投資運用業の固有の付加価値

 そもそも、バンクは永続事業体として融資を行うのに対して、ファンドによる融資は、ファンドが有期で償還する点で、本質的に異なります。加えて、とり得る信用リスクが大きいだけでは、投資運用業に固有の融資の技法は成立しないわけで、そこには、ノンバンク金融仲介の本質として、バンクが融資できない事情が異なるのに応じて、その事情に即した固有の戦略がなければなりません。

 そこで、投資としての融資の基本的な戦略は、本来はバンカブルなのに、一時的な事情によって、バンカブルでなくなっている先に融資することになります。なぜなら、一時的な事情が解消して、融資先がバンカブルに戻れば、バンクからの借換え融資によって投資回収することで、バンクの補完としての固有の社会的意義を実現し、かつ、ファンドの有期性にも対応できるからです。

バンカブルにする責務 

 一時的にバンカブルでなくなるのは、典型的には、企業の経営努力によっては対処し得ない外部要因によって、業況が悪化している場合です。しかし、外部要因が明瞭で、その解消への道筋が見えていれば、自然にバンカブルになるはずで、そこに投資運用業者の付加価値創造を認めることはできません。むしろ、固有の投資能力としては、何らかの内部要因でバンカブルでなくなっている企業について、経営支援を行うことでバンカブルにする点に求められるべきです。

 この点について、バンクの経営努力によって、バンカブルでないものをバンカブルにすべきだというのは、金融庁の行政の根底にある考え方で、その正しさは否定し得ません。しかし、日本の場合は、バンクの機能が圧倒的に大きく、ノンバンク金融仲介との間で適切な機能分化がなされていないからこそ、バンクへの過大ともいえる要求が生じる面もあって、ノンバンク金融仲介の健全な発展によっても、問題は解決できるはずなのです。

バンクの経営効率

 バンクが複雑な組織構造をもつのに対して、投資運用業者は、小さく単純な組織構造のもとで、迅速に意思決定できます。例えば、不動産取引に要する資金の調達のように、時間が極めて重要な要素となっている事案について、投資運用業者は即座に意思決定できても、バンクは、審査に時間を要する、あるいは与信枠に余裕がないなどの理由で、意思決定できないことがあります。こうしたとき、投資運用業者は、即座に融資し、バンクが時間をかけて意思決定を終えたとき、バンクからの借換え融資で投資回収できるわけです。

 また、バンクの融資先には、多種多様な業種を含み、各業種の事業規模は大小様々であり、また、各事案の置かれた状況は様々に異なり得るわけですが、それらの全ての業種、全ての状況について、与信審査の能力を備えることは、必ずしも効率的ではありません。それに対して、投資運用業者は、高度な専門的能力を前提にして、バンクが対象にできない小さな領域に特化することで、バンクの補完としての社会的機能を果たせるのです。

情報の対称性

 信用金庫と信用組合の多くは地域を基礎とした協同組織ですが、信用組合のなかには、業種を基礎にして、同業者の相互扶助組織として設立されているものがあります。こうした業種別信用組合は、融資先との間に情報の対称性を成立させることで、銀行等にとってはバンカブルでないものをバンカブルにしているのだと考えられます。

 投資運用業者のなかには、融資先の業界の出身者を創業者に含むものが少ないのですが、そうすることで、業種別信用組合と同様の原理によって、情報の対称性を実現しているわけです。どの投資領域においても、投資運用業者の能力評価においては、運用担当者の経歴が重要なのですが、とりわけ、融資戦略においては、バンクに対する相対的優位を証明するに足る経験の厚みが必須の要件なのです。

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、1990 年1 月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。 2002 年11 月、HC アセットマネジメントを設立、全世界の投資機会を発掘し、専門家に運用委託するという、新しいタイプの資産運用事業を始める。東京大学文学部哲学科卒。

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