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米国ニューヨークユダヤ博物館のシェフ「高齢のホロコースト生存者をコロナから守れ」食事を配達

佐藤仁学術研究員・著述家
ユダヤ人遺産博物館から配達しているシェフ(デビッド・テフ氏提供)

「パンデミックが落ち着いてからも配達を続けたい」

米国のニューヨークにユダヤ人遺産博物館というユダヤ人の文化、歴史、ホロコーストなどに関する展示をしている博物館がある。そこの名物シェフのデビッド・テフ氏は2020年4月からニューヨーク近郊に住んでいるホロコースト生存者の老人で外出できない人たちのために食事のデリバリーサービスを提供した。ニューヨークは戦前からアメリカでも最もユダヤ人が多い街だ。

ナチスドイツが第2次大戦時に約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。戦後、アメリカに移住してきたホロコーストの生存者たちも現在では高齢化が進み、ほとんどが80歳以上だ。そのため、一人で買い物に行くことも大変な状況だ。現在は新型コロナウィルス感染拡大防止のために外出制限があったため、生存者の家族が簡単に訪問して世話をすることも容易ではない。そこで、ユダヤ人遺産博物館の名物シェフのデビッド・テフ氏が料理を作って、そのような老齢のホロコースト生存者たちに食事のデリバリーサービスを提供開始した。テフ氏の祖父のアブラハム・リファ・ダヴィドヴィッチ氏と祖母のテシャ・エッシャー・テフ氏もホロコースト生存者である。

ホロコースト生存者をコロナから守れ

テフ氏は「祖父母のことを思うと、ホロコースト生存者の食生活がとても心配でした。祖父母が私を見てほほ笑んだ時に、何かしないといけないなと思いました。最初はコロナ感染を恐れてドアを開けてくれない人もいましたが時間が経つにつれて、多くの人がドアを開けて、心も開いてくれました。パンデミックが落ち着いてからも配達を続けたい」とコメントしている。1か月に560食をホロコースト生存者約80人に届けている。ホロコースト生存者の方もとても喜んでいる。

戦後75年が経過し、ホロコースト時代のことを知っている人たちは高齢化が進んできた。現在、欧米やイスラエルではホロコースト生存者たちの記憶が鮮明で体力があるうちに、当時の記憶を語り継いでもらい、2度とホロコーストの悲劇を繰り返さないために、ホロコーストの記憶のデジタル化を急いで進めている。

ホロコースト生存者は高齢化が進み、ホロコーストを体験した人たちは年々減少している。「ホロコーストは当時、実際にあった」と証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に拡散されることによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことにならないために、欧米やイスラエルでは多くの学校でホロコースト教育も導入されて、正しいホロコーストの歴史を後世に伝えようとしている。

イスラエルで新型コロナウィルスでの最初の死亡者が88歳のホロコースト生存者だったが、ホロコースト生存者は歴史の証人として貴重な存在である。ホロコースト生存者の高齢化が進み、当時の記憶も薄れていき、体力的にも証言を取るのが難しくなってきており、これまでにも多くの証言を集めて来たが、今後あと10年が勝負である。高齢のホロコースト生存者を新型コロナの感染による死亡から守ることはユダヤコミュニティにとっても重要な課題である。

食事を受け取ったホロコースト生存者(デビッド・テフ氏提供)
食事を受け取ったホロコースト生存者(デビッド・テフ氏提供)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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