為替市場で噂される「黒田ライン」の存在
外国為替市場でドル/円相場が7月8日の1ドル=120.41円をボトムに125円水準までの切り返しを見せる中、マーケットでは「黒田ライン」や「黒田バリア」が存在するか否かが話題になっている。
7月前半の円相場の急伸(=円高)を招いたギリシャ債務問題と中国株急落という二つのリスク要因が一応の収束状態を迎える中、為替市場では改めてドル買い・円売りポジションを構築する動きが活発化している。突発的なリスクオフの展開を強いられる可能性が後退する中、改めて日米の金融政策環境の違いがクローズアップされている結果だ。特に、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内利上げに踏み切るのが確実視される状況になる中、質的・量的金融緩和政策の展開を続ける日本銀行と、量的緩和の終了から更に一歩進めて利上げに着手しようとしているFRBの違いは明確であり、ドル/円は再び地合を引き締めている。
こうした中、125円の近辺水準で上値が重い背景として、「黒田ライン」の存在が意識されている可能性が指摘されている。黒田・日本銀行総裁は6月10日、衆院財務金融委員会の質疑応答の場で、当時の為替相場について「実効レートではかなり円安の水準になっている」と指摘した上で、「(これ以上の円安は)普通に考えればありそうにない」と発言した。これを受けて、マーケットでは日本銀行がこれ以上の円安は望んでいないとの牽制に入った可能性が警戒されており、この発言が出てくる直前の為替レートである1ドル=124円台後半から125円水準が「黒田ライン」と言われるようになっている。
ヘッジファンドなどの投機筋は急ピッチなドル高・円安に喜んでいたが、輸入企業のみならず輸出企業の間からも最近の急激な円安スピードには付いていけないとの声が上がり、円安による輸入物価の上昇が国民生活にも影響を及ぼすことも警戒される中、当局が市場との対話に乗り出したとの見方も浮上している。
実際に黒田総裁がどのような意図を以ってこのような発言を行ったのかは不明であり、その後はこの発言を打ち消すような動きも見受けられる。ただ、6月10日に瞬時に2円前後のドル安・円高となった衝撃は今なおマーケットに余波をもたらしており、124円台後半から125円水準が「黒田ライン」として、更なるドル高・円安が可能か否かの分岐点として意識されている。実際にここ最近のドル/円相場の高値を振り返ってみると、6月17日124.45円、24日124.38円、7月21日124.48円と、「黒田ライン」を意識したような値動きが観測されている。
ただ、最近の「黒田ライン」を意識した値動きとの見方に対しては、4~6月期の米企業決算がやや期待外れの内容でスタートしたため、米金利低下がドル安を促している影響に過ぎないとの見方もある。このため、「黒田ライン」の真価が問われるのは、改めて利上げ警戒・株高などから米金利上昇圧力が強まった時になる可能性が高く、実はドル高・円安の持続性・スピードについては今後も続く米企業決算の内容が重要かもしれない。