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レバノンだけでなくシリアでも無線機爆発が相次ぐ中、恐怖を煽りイスラエルの協力者として振る舞う反体制派

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

シリアで9月18日、前日に続いて謎の爆発が相次いだ。

反体制派系ニュース・サイトのサウト・アースィマは、午後9時22分にフェイスブックを通じて、首都ダマスカス(ダマスカス県)郊外のマシュルーウ・ドゥンマル地区で爆発音が聞こえたと報じた。

damascusv011、2024年9月18日
damascusv011、2024年9月18日

レバノンで前日に続いて無線機爆発

爆発の原因は明らかではなかったが、隣国レバノンでも9月18日の午後、前日に続いて、イスラエル軍によると見られる通信機器を使用した攻撃が相次いでいた。

爆発は、レバノンのヒズブッラーが拠点とする首都ベイルート南部郊外(ダーヒヤ)、ベカー県、南部県、ナバティーヤ県の各所で、保健省の発表によれば、9人が死亡、300人以上が負傷した。

9月17日の爆発は、ページャー(ポケベル)によるものだったが、18日の爆発は無線機(トランシーバー)だった。爆発の仕組み、そしてイスラエルの関与の有無は明らかではない。だが、レバノンの通信省によると、爆発したのは、ICOM社のIC-V82型無線機で、同機種は、治安機関の承認を経て通信省が行う販売許可が下りておらず、国内の代理店で販売されていないものだった。

これに関して、ロイター通信も爆発した無線機の内側に「ICOM」、「Made in Japan」と書かれているなどと伝えた。

恐怖と不安を煽る反体制派

前日の爆発で犠牲者の葬儀が行われているさなかで発生したこの爆発事件と、マシュルーウ・トゥンマル地区の爆発との関係は不明だ。

だが、マシュルーウ・トゥンマル地区で爆発が発生すると、反体制派のメディア活動家らは、シリアの人々に心理的な揺さぶりをかけるかのように、即座にイスラエルの攻撃だと断じ、前日の攻撃で高まっていた恐怖と不安をさらに煽った。

シリア南部で活動しているという活動家のヌール・アブー・ハサンなる人物は午後9時39分、X(旧ツイッター)で、車輛のなかで無線機が爆発したことによるものだとするポストをアップした。

そして、この地区がイラン・イスラーム革命防衛隊の顧問やヒズブッラーの司令官らが居住する建物に隣接していると指摘、イスラエルの関与を示唆した。

また、「シリアのアル=カーイダ」として知られ、自由と尊厳の実現をめざす「シリア革命」の旗手を自任する国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)の支配下にあるイドリブ県内での戦況に詳しいメディア活動家の「第80監視団アブー・アミーン」も午後9時38分、Xで、マシュルーウ・ドゥンマル地区にあるアップ・タウン・ショッピングモール近くで車1台のなかで無線機が爆発したとするポストをアップした。

シリア北東部でも爆発が発生

謎の爆発は、「イランの民兵」が展開するシリア南東部のダイル・ザウル県でも相次いだ。

反体制派系のXアカウントのムラースィルーン・ネットは、午後10時26分、イラク国境に近いダイル・ザウル県ブーカマール市近郊の砂漠地帯で、無線機かページャーによると見られる爆発が発生したと発表した。

英国で活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団も、レバノン国内で無線機の爆発が発生したのとほぼ同じ時刻にマヤーディーン市のアラバ(ラフバ)の城塞に設置されている通信システムの拠点とブーカマール市近郊の砂漠地帯にあるヒズブッラー拠点で複数回の爆発が発生したと発表した。

それ以外にも、レバノンのメディア・サイトのレバノン・ファイルズが午後12時51分、ダイル・ザウル県でページャーが爆発し、イラン・イスラーム革命防衛隊のメンバー19人が死亡したと伝えた。アマーン・コムなるサイトも、アレッポ市でもページャーの爆発でヒズブッラーのメンバーが負傷したと伝えた。

イスラエルの心強い協力者

イスラエルの関与の真偽は定かではない。だが、シリア人権監視団は、複数筋から得た情報として、前日のページャーの爆発によって、シリア中部、北部、東部でヒズブッラーとイラン・イスラーム革命防衛隊のメンバー複数人が死傷したと発表したとしつつも、遠隔装置によると見られるページャーの同時爆発が発生したのは、レバノンとの国境地帯から30キロ以内の地域に限定され、それ以外の地域では爆発は確認されていないと発表した。

パン・アラブ系のニュース・サイトであるアラビー・ジャディードなどは、首都ダマスカスの複数筋の話として、シリア政府が軍および治安機関のすべての部隊に対して、無線機を使用せず、その電源を落としたうえで、有線でのみ通信を行うよう要請したと伝えた。

国内で緊張感が高まるなか、反体制派による情報拡散は、いつどこで誰の通信機器が爆発するか分からないという恐怖を煽り、厭戦ムードを高めるうえできわめて効果的であり、イスラエルにとっては心強い協力者だと言える。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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