ソニー、2019年の国内半導体メーカーの首位に
ソニーが半導体メーカーとして国内初のトップメーカーになろうとしている。2019年10月末にソニーが発表した2019年度上半期(4月~9月期)の決算によれば、イメージセンサを設計製造しているイメージング部門での売り上げ予想は1兆400億円であり、営業利益は2000億円を見込んでいる。この内、イメージセンサの売上額は8900億円を見込んでいる(参考資料1)。キオクシア(旧東芝メモリ)は、未上場企業であるため売上額を公開していないが、ある売り上げ予想では2019年度の売上額が7511億円であることから(参考資料2)、ソニーがトップになるのはほぼ間違いない。
ソニーの2019年度第2四半期(7~9月期)決算では、イメージセンサの売上額は2748億円で、前年同期比33.5%増となった。このためソニーは2019年度の売り上げ見通しを上方修正し、7月時点で8400億円から8900億円へと予想を500億円伸ばした。
キオクシアが集中しているNANDフラッシュメモリは、2019年世界市場では32%減とみられており、キオクシアが前年度比37%減となっているが、それほど不思議ではない。というのは、NANDフラッシュトップのSamsungが19年第2四半期の売り上げを伸ばして市場シェアを拡大したのに対して、第2位の東芝は6月に主力の四日市工場で停電事故があったことから、第2四半期の売り上げを落としたからだ。市場シェアが第1四半期にSamsungの29.9%に対してキオクシアは20.2%で追いかけていたのにもかかわらず、第2四半期ではSamsungが売り上げを16.6%伸ばしてシェアを34.9%に拡大したのに対して、キオクシアはその半分の18.1%まで落ちた(参考資料3)。
ソニー全体の中での半導体部門の位置づけはどうか。半導体部門であるイメージング&センシングソリューション部門は、2019年度第2四半期の売上額は前年同期比22%増の3107億円、営業利益は764億円で、営業利益率は24.6%と立派な業績である。しかし、ソニー全社は、前年同期比2.8%減の2兆1223億円とマイナス成長だった。中でも売り上げを11%減の4935億円と大きく落としたのは、テレビやスマホを製造しているエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション部門である。スマホは成長の余地がまだあるものの、テレビはもはやローテク。販売台数の減少によるとソニーは述べている。
CMOSイメージセンサの未来は明るい
今やソニーの成長分野となっているイメージング&センシングソリューション部門は、主にスマホ向けのイメージセンサを製造しているが、3107億円という部門全体の売り上げの中でCMOSイメージセンサが占める割合は極めて大きく、2748億円と88%強を占めている。つまり、ソニーの半導体といっても、CMOSイメージセンサというカメラの目となる製品に集中した1本足打法になっている。だから、ソニーの勝利は大丈夫か、という声がないわけではない。しかし、イメージセンサの将来は実は明るい。
なぜか。これまでのソニーはiPhoneを主体とするスマホのカメラを作ってきた。スマホはもはや頭打ち、という声もあるが、実はモバイルコンピューティングはまだ始まったばかり。ディスプレイやキーボードがついてしかも片手で持ち歩けるスマートフォンというモバイルコンピュータになって初めて、ユビキタスといういつでもどこでも常時接続が可能な時代になってきたのである。スマホはついでに通話もできるモバイルコンピュータだ。これがあれば、IoTモニター、家電のリモコン、クレジットカードの決済機など、アプリを追加すれば何にでもなる。汎用コンピュータそのもの。だから、今後も成長の余地は大きい。今はメモリ(DRAM)の値上げによってスマホも値上げされたために需要が落ち込んだにすぎない。
カメラの機能は、従来の2眼から3眼になった。長距離、中距離、短距離とそれぞれの得意な画像を撮れるようになったため、今年のスマホが伸びなかったが、ソニー半導体は大きく成長した。
今後はクルマや産業機器に
今後は、クルマや産業機器、IoTセンサへの応用が本格化し始める。クルマでは、自動運転に必要なクルマや人物自転車等の検出に使うカメラ、自動運転は今後2030年までに本格的に発展していく。事故のないクルマ作りに欠かせないからだ。しかも、1台のクルマ(大衆車)に10台以上のカメラが搭載されるようになる。高級車ではすでに10台程度搭載されている。フロントカメラ(1~2台)、リアカメラ(1~2台)、サラウンドビューカメラ(4台)、死角検出カメラ(1~2台)、ドライバの顔検出カメラなどに使われている。
しかも、要求はスマホとは大きく異なる。例えばトンネルに入るときや出る時の外界のまぶしさに対処するためダイナミックレンジを広くして暗い所も明るい所も同時に見えるようにする。LEDライトを人間の目で見る時と同じようにフリッカーがなく見えるようにする。もちろん、カメラだけでは見えない吹雪や濃霧にはレーダーやLiDARを用いるなどの複数の手段が必要であるが、カメラがなくなることはなく、むしろ増える方向だ。
産業機器ではマシンビジョンというカメラが活躍する。ロボットに装着すれば、モノをつかむためのカメラとなり、製品や中間製品の外観検査では、良否判定するためのカメラになる。機械学習やディープラーニングとコンビで使えば、自動外観検査になる。産業機器では製品などが流れ作業で動いているため、エリアセンサだけではなくリニアセンサとしても使える。可視光だけではなく赤外線を吸収する材料をフォトダイオードに使えば暗闇でもはっきり見えるようになる。
赤外線センサの波長をグレーティングなどで少しずつ変えれば、物質の成分を検出するスペクトロスコピー機器にもなる。それもモバイルの分光分析機器が可能になる。
すでに使われているが、IoTセンサとして河川の水量や自然の観察などにももちろんカメラとしても、犯罪を防ぐ監視カメラとしても用途は広い。
応用が増えるだけではない。カメラ技術も進む。例えば、色の3原色であるRGB(赤緑青)フィルタのセンサの横に赤外線センサも並べて配置するエリアセンサでは、通常の2次元画像に分析用センサが追加されることになる。この構造だと、透明な袋に入れた塩と砂糖を簡単に見分けることができる。
さらに、ベルギーの半導体研究所であるIMECが先週東京で講演した時のことだが、これまでのカラーフィルタに代わって有機材料によるR/G/Bの吸収膜を重ねることで新しいCMOSイメージセンサができる。すでにパナソニックが有機CMOSイメージセンサとして発表しており、センサの小型軽量化をさらに進められる。加えて、分析用のAIチップやメモリなども3次元実装により重ねることでモバイル分析機器が可能になり、税関検査などで麻薬や外来ペットなどの侵入を防ぐことにも使える。
医療機器では、5Gと360度イメージセンサを使った遠隔手術や、体内飲み込み型の内視鏡などの用途の他、全盲の患者でも見えるようになる技術にも使える。CMOSイメージセンサチップと、薄膜固体リチウムイオン電池や演算プロセッサをコンタクトレンズに装着し、センサ出力を視神経と手術でつなぐ。今の医療では回復できない全盲患者の眼を半導体技術で治療できる可能性が出てきたのである。
こういった将来像を今からでも描ける以上、ソニーのCMOSイメージセンサの未来は明るい。ビジネス的にCMOSイメージセンサの1本足打法が心配なら、センサと組み合わせて自律的に動くロボットや工場の自動化を推進するAIチップの開発もありうる。今後の将来がむしろ楽しみになる。ソニーのファンドであるThird Pointが半導体部門をソニーから分離せよと要求するのは無理もない。ソニーのモノづくりで唯一成長が期待できる部門だからだ。
参考資料
1. 2019年度第2四半期連結業績概要(2019/10/30)
2. キオクシア(旧 東芝メモリ) 売上高と業績推移のグラフで財務諸表の内訳を比較分析 2019(2019/11/07)