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知っておきたいつつが虫病とリケッチア感染症の合併症 - 皮膚から脳まで

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

つつが虫病とリケッチア感染症は、マダニやツツガムシなどの節足動物を媒介として感染する疾患です。これらの感染症は、皮膚症状だけでなく、時に中枢神経系に炎症を引き起こし、重篤な合併症を引き起こすことがあります。今回は、皮膚科医の立場から、つつが虫病とリケッチア感染症が中枢神経系に与える影響について解説します。

【皮膚症状から始まるつつが虫病とリケッチア感染症】

つつが虫病の原因となるツツガムシ orientalis は、皮膚に取り付いて感染を引き起こします。一方、リケッチア感染症の多くは、マダニやダニの咬傷によって感染します。どちらの感染症も、皮疹や発疹などの皮膚症状が初期症状として現れることが多いのです。

つつが虫病では、刺し口と呼ばれる特徴的な皮疹が見られることがあります。リケッチア感染症でも、日本紅斑熱やRocky Mountain spotted fever など一部の疾患では、点状の発疹が体幹部から四肢に広がっていきます。これらの皮膚症状は、感染の早期発見に重要な手がかりとなります。

【感染症が引き起こす中枢神経系の炎症】

つつが虫病やリケッチア感染症が進行すると、中枢神経系に炎症が波及することがあります。具体的には、髄膜炎や脳炎などを引き起こし、頭痛、発熱、意識障害、けいれんなどの症状が現れます。

つつが虫病による中枢神経系の合併症は、インドや東南アジアの流行地では細菌性髄膜炎の17.9%を占めるとの報告もあります。一方、リケッチア感染症では、中枢神経系の合併症は11%に及び、致死率は27%にのぼるとされています。

これらの中枢神経系の炎症は、感染症による直接的な組織傷害だけでなく、炎症性サイトカインなどの過剰な免疫反応によっても引き起こされると考えられています。マウスを用いた研究では、つつが虫病における脳内のTNFαやIFNγの上昇、リケッチア感染症におけるミクログリアの活性化などが報告されています。

【早期発見と適切な治療の重要性】

つつが虫病やリケッチア感染症による中枢神経系の合併症を防ぐには、早期発見と適切な治療が不可欠です。特に皮膚症状は初期の重要な徴候であり、流行地域では皮疹や発疹を見逃さないことが肝要です。皮膚科医としては、これらの感染症を常に念頭に置き、疑わしい症例では速やかに検査を行い、確定診断に努める必要があります。

抗菌薬による早期治療は予後を大きく改善します。ドキシサイクリンやミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択となります。重症例ではステロイドの併用も考慮されます。適切な治療により、多くの症例で神経症状は改善が期待できるでしょう。

つつが虫病やリケッチア感染症は、皮膚症状から全身の重篤な合併症までを引き起こす疾患です。皮膚科医としては、初期症状を見逃さず、中枢神経系の合併症も念頭に置いて診療にあたることが重要と言えるでしょう。

参考文献:

- Dittrich S, et al. Lancet Glob Health. 2015; 3(2):e104–12.

- Sekeyova

´ Z, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2019; 13(8):e0007469.

- Soong L, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2017; 11(7):e0005765.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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