モデル小林サラの母、ケイコ・フォレスト。「溶岩が目の前に。ハワイ島火山噴火が教えてくれたこと」その2
ジャングルで育った話題の17歳のモデル、小林サラの母親、ケイコ・フォレストさん。
名古屋出身、弁護士事務所の秘書としての何不自由ない生活を捨て、単身アメリカに移住。10ヵ月かけてアメリカを歩いて横断。その後、北カリフォルニアにあるメンドシーノ国有林で暮らし、メキシコ人男性とメキシコにて結婚。カリフォルニアで二人の娘を家族だけで水中出産。9年前から、ハワイ島のプナに移住。
「ヤナの森の生活」の著者であり、ジャングルで、電気も水道も通っていない生活を送る。ジャングルの奥地の広大な敷地に、女手一つで数年かけて、「THE VILLAGE」という洗練された施設を作り上げ、ジャングルスクール「nest」を運営。食べられるジャングルとして、フルーツなどの植物を育てる。
ジャングルでも、東京でも、一瞬にしてなじめる小林サラを育てた母親とは?
自身のチャレンジングな生き方が、子育てにどう影響していくのか。
ジャングルの中で、ワイルドに力強く生きながら、一方で、おしゃれにエレガントにも生活できる。
2018年5月、キラウエア火山が噴火、プナ地区の住宅地にも溶岩が噴出。周辺住民は避難を余儀なくされた。
大自然の驚異にさらされ、容赦なく刻一刻と変わりゆく光景を目のあたりにして、何を感じ、どう生きる決意をしたのか。
現場に住む火山噴火のリアルを語る。
溶岩が目の前に。神話の目撃者として語り継ぐために
――― ハワイ島のキラウエア火山が5月(2018年)に噴火しましたが、実際に、家の近くまで、溶岩が流れていたんですか?
ケイコ そう、家から10分ぐらいのところ。
――― 家を失った人たちもいる。
ケイコ そうなんですよ。狭い村なので全員がお友達みたいな感じで、全部でお友達のうちが700軒ぐらいなくなったり。あと溶岩が道に流れちゃった人なんかは、おうちがまだあるんですけれど、道がないからおうちに帰れなかったり。
――― そういう人たちは、その土地が好きで移り住んできた人たちなんですよね。
ケイコ そうですね、うん。
――― でも、一生懸命建てた家がなくなったりしたら、「ああ、私たちの家が、、、」ってすごくショックというか、落胆してしまっているんではないですか。絶望的な気持ちになりますよね。
ケイコ まあ、そういう場所で暮らしているので覚悟はみんなしてるんですよ。もう4回溶岩に流されて4軒目で、一番最初はすごい立派な家建てたんだけど、3回目からはもうだんだんシンプルになっちゃった、ベニヤ板がはってあるような家に住んでる人とかもいたし。
――― いつどうなってもいいようにと。
ケイコ でも今回は、忘れちゃってた。溶岩がもう来ないみたいな気持ちになっちゃってた、あまりにも長い間来てなかったら。そしたら急に来たのでね、みんなも。危険なエリアだったんですよ、元々その爆発が起こった場所は。最初からそこの不動産屋さんも「ここは危険なエリアなので安いんですけれど、何が起こるか分かりませんよ」っていうので買ってるエリアだったので、そういうことは覚悟してただろうけど、人間って、長い間何も起こらないと一生起こらないような気分になっちゃうからね。
――― 油断しちゃうというかね。
ケイコ そう。それが突然来たので。
危険なエリアだとわかっていたのに油断していた
――― でも、その住み慣れた家だったり、いろいろ作り上げてきたものが一瞬にしてなくなったとしても、人間ってやっぱりたくましいものですか。
ケイコ その溶岩があまりにも美しくて、雄大で。人間が生まれてからいろんな景色の場所に旅するでしょ、きれいな場所が好きでね、みんな、それを見たくて。だからといって、流れている溶岩とか見られないじゃないですか。
――― 見られない、見られない。
ケイコ そう。だから、そういう貴重な体験が、自分のおうちがなくなってくかもしれないっていう恐怖と同時に与えられたんですよ。だから、みんな、それを目にしてしまった時に、やっぱりそれがものすごい雄大で美しくってというね。
――― 噴火とか、溶岩って、もう光り輝いているわけですか。
ケイコ そうなんです。自然に対する畏敬の念みたいなものが、やっぱり不思議と出てきてしまう。
――― 自分は、生きてるんじゃなくて、生かされてるみたいな? 自然の中の一部だったんだみたいな。
ケイコ そう。
――― 目の前に溶岩の川が。何度ぐらいあるんですか、それは。
ケイコ 1,000度ぐらいあるから骨も溶けちゃうような。
――― もう、そういうのが流れてるのが家の近くにあって、逃げたい気持ちと、さすが自然は素晴らしいっていうのも思うんですか。
ケイコ そうなんです。うちには溶岩は来ないでほしいって。流れてくるものだから、お願いだから止まってほしいって思ったところで、来てしまう。そういう恐怖と紙一重というか、そういう状況を私のご近所さんたち、村の人たちはみんな味わったんですけど。もちろん私も含めてね。
――― やっぱり、ハワイ島っていう特別な場所で、自然に対する畏敬の念や火山の女神ペレを崇める信仰があったとしても、やっぱり人間だからパニックにもなるし、執着もありますよね。
ケイコ そうですよ。今までそこが生活の糧だったので、お仕事も同時に失っちゃうわけなので、みんな、これから路頭に迷ってどうすればいいんだろう、そういう恐怖はありました。でも神話が身近にある場所で生まれ育った人たちだったから、クプナ(高齢者)のおばあさんの話に耳を傾けるんですよ。
――― 高齢者の言葉を敬って聞く。
ケイコ そう。クプナがすぐさま言ったのが「神話っていうのは、私たちがこういう自然の脅威を目の当たりにした時に、体験を得てできたものだ。それを目撃した人が次の代、その次の代っていうふうに知恵として語り継がれてきたものだから、私たちに今、起こってることは」と。彼女たちの人生の間でも見たことがないような大きい爆発だったらしく、おばあさんたちが、長老たちがね、「これは新しい神話の目撃者になる時だから、しっかりとそれを目撃して、私たちの心の動きとか、そうなった時にはどうするとか、そういうことが新しい神話を作っていくんだ」って言われたんですよ。
――― おおお。
ケイコ 「私たちは新しい神話の目撃者として、これをしっかりと見て、その体験を次の世代とその次の世代に語り継いでいけるように、しっかりとここにいなさい」って言われて。
――― なるほどお。じゃ、家を失う人もいれば、ガスが流れてきて息が苦しいということも全て体験として。
ケイコ そうなんです。語り継いでいく形にね。
あんなに離れたくない、大好きなジャングルから離れてみたら新境地が
――― でも、お友達でジャングルが好きでそこに住み続けたくても危険地域で住めなくなってしまう人もいるんですよね。
ケイコ そうなんです。私が書いた本で「ヤナの森の生活」っていう、フランス人の、パリで生まれ育ったんですけれどジャングルが好きで、ジャングルにもう20年ぐらい住んでるおばあさん(ヤナ)の本を書いたんですけれど。その人がやっぱり動物をいっぱい育ててて、畑もやってて、なかなか遠くには行けない。今までいつも誘っても「私は守るものがいっぱいあるから、ここの生活が好きだし、ここからは出られない」って言ってたのに、緊急事態で避難勧告が出て追い出されたんですよ。その時に、新しく住んだお友達のうちが朝日と夕日と全部見える丘の上の滝の近くのおうちで、そしたらもう全然空気も違うと。
――― 今まで住んでいたジャングルとは違うと。
ケイコ 高原だから。朝起きたら朝日を見られて、夕日を見られてみたいな、ジャングルのこもった感じじゃないからね。すっごく素晴らしい体験をしているって言って(笑)。
――― あんなに、ジャングルしか住むところがないのよぐらいになってた人が、追われて行った先の土地で、新境地を見つけるっていう。
ケイコ そうなんですよ。他のお友達も、最初の新しい場所が見つかるまでの1カ月ぐらいはもうほんとに悲しみに暮れた顔をして、全部失っちゃったって言ってたんですけれど、そのお友達も新しい居場所がちゃんと与えられたんですよ。そしたら、そこはジャングルみたいに溶岩の上にないから、土がいっぱいある場所だったみたいで「畑をまた作り始めたんだけれど、手が土にすーって入っていくんだよ」とか言って、何かうれしそうにしてて。
――― そっか、今までは岩盤みたいな。溶岩の固まったところの土地だったのに。
ケイコ そうそう。そこに、ジャングルを作ってたんですよ、私たちはね。
――― それが、ほんとの土のところで。
ケイコ だから、人はもうみんな何か、そういう体験するために生まれてきているからね。一つの場所が心地よくなっちゃうと、人はもう次に動かないじゃないですか、なかなかね。でも、意外と新しい体験をしてみたら違ったっていうか、何かをやる前って怖い、人間って一番怖いんですよ、恐怖を感じるのって何かをする前。
――― する前ね、うんうん。
ケイコ それは大人っていう証拠だから。恐怖っていうのは、怖いっていう気持ちは、子どもは持ってないじゃないですか、割とね。
――― 無邪気ですからね。怖い物知らずというか。
ケイコ でも、大人はその恐怖心を持ってて、でも新しい体験をしてみたら「あれ? 意外と楽しかった」とか「こんな簡単だった」とか、そういうことって多いから。
――― 今のケイコさんの考え方が、サラちゃんに多分引継がれてて、同じこと言ってました。サラちゃんも、東京にいたら東京の良さがあるし、ジャングルはジャングルの良さがあるし。
ケイコ そう、私がびっくりするぐらいに、すぐになじめる。私なんかは時差ボケがあったり、ちょっと2~3日は調整日が要るんですよ。新しい場所になじむのに時間かかるんです。
――― だけど、サラちゃんは。
ケイコ 行った日から、表参道を普通に歩いてるから「サラちゃん、こういうの何も感じないの?」って言ったら「いや、サラはどこにいても一緒」って言うから(笑)。
――― そこが、すごいですよね。やっぱり、人間っていかに環境に影響され、そこに依存というか、執着があるか。それを外してみたら、意外とどこでもやっていけるっていう。
ケイコ そうなの。
――― それが天変地異みたいなことが起きてしまって、でも機会を与えられたと思えば、それも一つのチャンス、新しいチャレンジに向かうためのっていうことなんですかね。
ケイコ そうなんですよ。
30年かけて作った、100本のフルーツの森が一瞬にして溶岩に飲まれ
――― そういう土地をやっと開拓して畑を作った人、何十年もかけて作った人がいて。
ケイコ そう、お友達なんか30年もね、100本以上のフルーツの森を作ってた人のお庭も一瞬でなくなったんですよ。ジュラシック・パークの世界になっちゃった。最初悲しんでたけれど、別のお友達もやっぱりそういう感じでね。その時に私は、そこに移り住んだ時に、そういうエコの暮らしをしているってことがいいことって思ってたんですよ。いいことをしていれば守られるとか、そういう考えがあったんですよ。ちょっと判断してたの、いいこと、悪いこと。都会の暮らしは悪いとか。自然の中でエコに暮らすといいとか。
――― 自然に寄り添ってる、自然を大切にしてますみたいな感じで、いいことをしてると思ってた。
ケイコ うん。でも、そうじゃないんだってことを、今回ほんとに体験した。
――― いいことをしていたら守られるとか、そういうことじゃなくて。
ケイコ いいことしたって思い込んでただけで、それは一瞬にしてなくなってしまう。人間の体と一緒で、生まれてきて死んでいく、それはいつか分からないっていう、自然も移り変わるもの。だから、台風が来て、洪水も起こる、土砂崩れも起こる、雪崩も起こる、火山だけじゃなくていろんなことが起こっていく。それでも、どこに意識を持っていくかってことだと思うの。多分、そこに、体験する、そしていいことばっかじゃない、生ぬるいことばっかじゃない、つらいとか悲しいとか苦しい体験を得た後に人間って強くなるから、その強くなった自分がどういう新しい人生を歩み始めるのかって、そういうことだと思う。だから、そこで、なくしてしまった、じゃあ次にどうするって。なくしてしまったものが大きければ大きいほど強くなって、新しい人生は始められるわけだから、そういう発想の転換。
――― 本当にそうですね。サラちゃんが、噴火後に、お友達を連れてハワイに帰ってみたら、自分が紹介したかった場所が全部行けなくなっちゃって、どこも行けなくなっちゃったと。でも、その先にまた何か新しい土地ができていたりね。
ケイコ そう、そうなんですよ。新しいビーチができてね。今までは岸壁でなかなかゴツゴツしててみんな泳げなかった場所が、ものすごくきれいな黒砂ビーチになってたんですよ、ながーい。
――― へー。だから、今までのあったものはなくなるけど、今までなかった新しいものができるとか。
ケイコ そうなんですよ。
――― それが、すごいですね。自然って、破壊だけじゃなくて、新しく作るってこともしてるってことでしょ。
ケイコ そう、もちろん、常に。
――― すごいですね。そういうことを体感しながら、日々生活をしているわけですね。
その3につづく
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●娘、小林サラインタビュー
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