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【動画とグラフで徹底解説】マツダ ロードスターの進化ぶりが凄い 9年目のMCでここまでやる理由とは

高根英幸自動車ジャーナリスト
大掛かりなマイナーチェンジを受けたマツダ ロードスター。筆者撮影

マツダ ロードスターが新しくなった。といっても、見た目はほとんど変わっていない。オーナーでなければ気が付かない程度の、灯火類とホイールのデザイン変更くらいだ。現行のNDロードスターがデビューしたのは2016年だから、すでに8年が経過している。

ところが、中身はかなりの進化を遂げていた。今回のマイナーチェンジ(以下MC)で主査を務めたマツダの商品本部 齋藤茂樹氏から説明を受ける。

「そもそもサイバーセキュリティ法に対応するためにエレキプラットフォーム(電子制御の基本システム、E/Eアーキテクチャなどとも呼ばれる)を一新する必要があったんです」と斉藤氏。これを機会にこれまでできなかったことを盛り込み、商品としての鮮度を改めて高めようというのが、今回のMCなのだ。

「それにスモールランプのLED化も従来の仕様のままでは変換器が必要ですが、それでは車重が重くなってしまう。だから今までできなかったんですが、今回プラットフォームを一新したことで、これも可能になりました」(齋藤氏)。

今回のMCで主査を務めた齋藤茂樹氏(写真中央)。筆者撮影
今回のMCで主査を務めた齋藤茂樹氏(写真中央)。筆者撮影

ヘッドライトユニットはポジションランプ(デイタイムランニングランプも共用)とウインカーもLED化されたことで、一層精悍な印象になった。スタイリングは相変わらず端正でスポーティ、以前として古さを感じさせないから、一層魅力的になった。

ヘッドライトは従来と同じだが、それを囲むデイタイムランニングランプとウインカーがLED化されて表層の拡散板のデザインもあり、顔つきが一層精悍で高級感も高まった。筆者撮影
ヘッドライトは従来と同じだが、それを囲むデイタイムランニングランプとウインカーがLED化されて表層の拡散板のデザインもあり、顔つきが一層精悍で高級感も高まった。筆者撮影

「液晶も大きくしたかったんですけど、これまでは既存のディスプレイのレイアウトに限界もあって、新しいディスプレイを作ってもらうのも難しかったんです。でも今回、液晶メーカーに無理を言ってスマホみたいなディスプレイを作ってもらいました」と齋藤氏。

8.8インチの液晶はベゼルレスで長方形のスッキリしたフォルム。フロントウインドウの視界をまったく妨げず、見やすい。これまでより横長なので、感覚的には縦方向が狭く感じるが、これは横に広いからそう感じるだけで、慣れが解決する部分。この仕様変更はインパネとメーターカウルの金型まで作り直したから実現できたことだ。

新しいディスプレイが組み込まれたインテリア。タンの内装色も上品で、ソウルレッドクリスタルメタリックとの組み合わせは官能的ですらある。筆者撮影
新しいディスプレイが組み込まれたインテリア。タンの内装色も上品で、ソウルレッドクリスタルメタリックとの組み合わせは官能的ですらある。筆者撮影

乗り味の変化ぶり、ここまで洗練されるとは!

操安の部分でも進化は大きい。むしろ操安の部分での進化ぶりが大きいのだ。何しろ、今回のMCではEPS(電動パワーステアリング)を一新してきた。制御を見直したというレベルではなく、ステアリングラックのケーシングやモーターも作り替え、Wピニオンギアの位置を最適化することで、ラックエンドのブッシュを廃止することができたのだとか。これによりブッシュ部分で発生するフリクションを解消させている。

従来型(左)のステアリングラックと新型(右)の比較。ピニオンギアの位置が反転しているため分かりにくいが、EPSの組み付け部をラックエンドに近付けることでフリクションロスを軽減している。写真マツダ
従来型(左)のステアリングラックと新型(右)の比較。ピニオンギアの位置が反転しているため分かりにくいが、EPSの組み付け部をラックエンドに近付けることでフリクションロスを軽減している。写真マツダ

それでも物理的なフリクション低減は5%しかないと言う。つまり、運転してフリクションが低減されていると感じているのは、実はEPSの制御によるものなのだとか。

「これまでは4社のサプライヤーさんからEPSの供給を受けても、サプライヤーごとに制御のパラメータやロジックが違いすぎて、同じ感触に仕立てるのが難しい部分もあったのですが、内製化によって理想のステアフィールを追求することができました」。そう語るのはマツダの車両開発本部 操安性能開発部で首席エンジニアを務める梅津大輔氏。

写真中央が車両開発本部 操安性能開発部の首席エンジニア、梅津大輔氏。筆者撮影
写真中央が車両開発本部 操安性能開発部の首席エンジニア、梅津大輔氏。筆者撮影

これまでは4社から異なるEPSの供給を受けて、同じステアフィールに近付けるのは至難の業だったが、そこで得たノウハウによりパラメータの要素を最適化して、理想に近い構成とすることができたそうだ。

なお、サプライヤーを1社ないしは2社に絞り込めばいいのでは、と思われる読者も多いだろう。梅津氏によれば、サプライヤーを絞り込むのは安定供給に対するリスクが生じるだけでなく、価格交渉の点においても供給を受ける側が不利になるリスクも生じるそうだ。

そんな質疑応答を踏まえて再び試乗に戻ってみると、なるほどEPSの制御の煮詰めが素晴らしかった。まるでフリクションを低減したような感触に仕上げている。

比較のために従来型にも乗ってみると、あれほど素晴らしいと思えていたNDロードスターのステアフィールなのに、フリクションが多くグニャグニャしているように感じてしまう。それでいて中立付近での収まりも悪く、フラフラしやすい。

それと比べると新型は軽いのに中立がピシッと出て、シャキッとした感触なのである。

「ステアリングを戻す力をアシストして、フリクション感を軽減し、センターへと戻る力を強めています」と梅津氏が説明したことが身体で理解できた。

新型の電動パワーステアリングは操舵感が軽くなっただけでなく、ステアリングを戻した時に中立での収まりがよくフラフラしない。筆者撮影
新型の電動パワーステアリングは操舵感が軽くなっただけでなく、ステアリングを戻した時に中立での収まりがよくフラフラしない。筆者撮影

最初に新型に試乗した時には、「ここまで操舵感を軽くしなくてもいいのではないか。もうちょっと手応えを感じる操舵力にした方が好みだ」と思っていたのだが、EPSでフリクション感を解消しているとなると、話は別だ。

この軽快で繊細なステアフィールは、この軽さになったからこそ実現できたものだった。もっとも従来型も乗り換えた直後は前述のフリクション感や鈍さを感じたものの、10分も走っていれば慣れて気にならなくなる。元々のステアフィールのレベルが高いからこその比較試乗だった訳だ。

新型もいいが、馴染みが進んだ従来型のエンジンも魅力

従来型の実力の高さを感じさせる事象は、他にもあった。パワーユニットは新車の硬さもあり、馴染みが進んだ従来車の方が回転フィールがいい印象を受けたのだ。

今回のMCではエンジンに関しても、日本のハイオクガソリンに最適化した制御とすることで、高回転域では全体的にトルクが高まっており最高出力で4ps向上しているそうだ。確かに3000rpmを超えてからは若干新型の方が元気の良さを感じた。これはパワー感だけでなく、スロットルの制御も改善して追従性を高めていることも影響していそうだ。

ただし今回は比較用の従来型が走行8000km台と、丁度フリクションが抜けてきた頃からか、新型に対して遜色なく、回転フィールも滑らかだったので明らかなアドバンテージは感じにくかった。

新型(左)と従来型(右)の加速力の比較。表左上の数値が加速力のピーク。3000rpmから4000rpmあたりまでの加速Gでも新型が高い数値を示している。筆者作成
新型(左)と従来型(右)の加速力の比較。表左上の数値が加速力のピーク。3000rpmから4000rpmあたりまでの加速Gでも新型が高い数値を示している。筆者作成

「今回のMCでは、やりたいことをやれました」。そう齋藤氏は語って満足げな笑みを見せてくれた。

8年が経過しているにもかかわらずここまでコストをかけて作り直したのは、8年で金型代が償却したことも関係しているだろうが、思い切ってここまで作り替えたことで、この先にも通じる魅力を手に入れたのだ。

ともあれ今回のMCで、NDロードスターは更なる魅力を手に入れた。しかもほとんどの仕様は従来モデルには応用できないから、従来のNDロードスターオーナーにとっては、悩ましい問題かもしれない。新型に乗り換えるも手だが、その費用でコンピュータチューンや吸排気系のモディファイをするなど、他にも選択肢はありそうだ。それくらい、NDロードスターはベースとして優れたクルマということなのである。

今回のMCでドライバーの運転支援技術やコネクテッド技術も進化し、クルマ好きが幅広い年齢に広がることにも対応している。これなら既存のロードスターやスポーツカーに乗っている高齢ドライバー、スポーツカーにまた乗りたいと思うドライバーにも訴求力がある。

「出来る限り電動化を遅くすれば、電池が高性能になって小型軽量化できる。だからこのNDで、2030年まで引っ張りたいですね」と語る齋藤氏。正統派のスポーツカーはまだまだ、作り続けることができそうだ。自動車メーカーも時代の変化に抗いながら、次のスポーツカーを見据えている。そんな印象を受けた取材だった。

自動車ジャーナリスト

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。芝浦工業大学機械工学部卒。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、様々なクルマの試乗、レース参戦を経験。現在は自動車情報サイトEFFECT(https://www.effectcars.com)を主宰するほか、ベストカー、クラシックミニマガジンのほか、ベストカーWeb、ITmediaビジネスオンラインなどに寄稿中。最新著作は「きちんと知りたい!電気自動車用パワーユニットの必須知識」。

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