快適さNo.1球場! 故郷の埼玉県所沢市で、西武ライオンズの球場が抜群に「大人向け」だと再発見した
たまのスポーツ観戦は快適に楽しみたい。ナゴヤドームと西武球場のアクセスを比較する
筆者は1976年に西武鉄道のお膝元である埼玉県所沢市で生まれた。社会人になってから念願の東京23区民になったが、2012年に結婚相手の都合に合わせて愛知県蒲郡市に引っ越した。所沢どころではない田舎なので、都会生活への憧れなどは持ちようがない。
地方においては、特に筆者のようなよそ者は受け身では何のレジャーも人間関係も得られない。昭和の残像が色濃い街並みや人間、または山や海といった自然の中に面白さを見出して、自ら働きかける必要がある。筆者は自分の生活圏に関するフリーペーパーを勝手に作って配布するなどして地域に馴染んでいるつもりだ。
だからこそ、地域外ではある程度はお金を使ってでも受け身で楽に遊びたい。観劇やスポーツ観戦などはその代表例だろう。筆者は車の運転が苦手なので、愛知県随一の都会である名古屋のナゴヤドームまで電車で行く。このアクセスがはっきり言ってよろしくない。
蒲郡駅から地下鉄のナゴヤドーム前矢田駅まで1時間以上かかるのは仕方ない。しかし、ここからがちょっと苦痛だ。ナゴヤドームのホームページには「【1番出入口】から徒歩約5分」と書いてあるが、電車を降りてからその出入口にたどり着くまで同じぐらい歩かなければならない。合計10分。行きはウキウキしているのでいいけれど、問題は帰路。球場で酒を飲んでから混雑した道をまた歩いて満員電車に乗るのは正直言って嫌になる。
車両からゲートまで徒歩2分。「球場前」の駅名に恥じない好立地で帰路も心配なし
久しぶりに西武球場で観戦をして「これぞ大人向きの球場だ」と再発見したことを述べたい。まずは往路で利用した西武多摩湖線と山口線。多摩湖駅あたりから車窓には丘陵の林と湖(多摩湖)が広がり、観戦前から開放感と非日常感に浸ることができる。なお、ナゴヤドームは球場に入るまでは無個性なビル、工場、ショッピングモールを見るしかない。
電車が西武球場前駅に着いてから驚いたのは球場のゲートがすぐそこにあること。地上駅なので、階段を上り下りする必要もない。電車を降りてからゲートまで歩いて2分。「球場前」ではなく「球場内」駅と改名してもいいぐらいだ。
この近さは行きより帰りに効果を発揮した。並んだり混んだりするのが嫌いな筆者は帰りの21時31分発の臨時特急「スタジアムエクスプレス」を予約しておいた。9回の表で楽天イーグルスに逆転された瞬間を見届けたのが21時20分頃。そこからゆっくり歩いても電車には十分間に合った。車内でネットを見て西武ライオンズの負け確定を知ったけれど、新型特急車両「ラビュー」の座席は心地良くてイライラしようがない。池袋駅まで30分ほどで到着。都内の宿泊場所までストレスフリーの帰路だった。
球団と鉄道を擁する西武グループ。試合が終わる時間を見越して変則ダイヤで運行する
「西武球場は都心から遠いとよく言われますが、ターミナル駅からの所要時間で比べていただきたい。大宮さんも感じられたように、他球場と比較しても決して遠くはありません。改札からゲートまでの距離の近さは12球団で随一です。しかも、ゲートでは荷物検査を抜き打ちでしか行っていません。開場前に行列ができていても、開場すればすぐに中に入っていただけます」
熱く語ってくれるのは西武ライオンズの広報部長である赤坂修平さん。所沢出身で大学卒業後は西武グループの前身とも言えるコクドに入社し、同社のアイスホッケーチームの応援団長をしていたこともある生粋の西武マンだ。
観客にとってのメリットは駅から球場までの近さだけではない。赤坂さんによれば、同じ西武グループである球団と鉄道は当然ながら密接に連携している。その日の試合が終わる時間を見越して変則ダイヤを決定して臨時電車を用意するのだ。
「試合が終わった瞬間に車両がバババッと並んだ状態にすること。駅職員の腕の見せ所です」
帰りの時間に臨時電車がたくさん出ることがわかっていれば、帰路も焦って駅に向かう必要はない。すし詰め状態になることも少ないだろう。
プリンスホテル出身の営業部長がこだわる「西武クオリティ」。ホスピタリティ研修とは?
西武球場自体にも筆者のようなワガママな大人向けと思われる要素がある。2021年に大規模な改修を行い座席のほぼすべてをリニューアル。内野席は疲れにくいふかふかのシートで、外野席は立って応援しやすいように前後の席とのスペースを広くとってある。
食事を楽しみたいけれど行列はしたくはない筆者にとって、約70店舗という球場グルメの多さも嬉しい。テレビ番組で取り上げられたピザ店などは長蛇の列だが、それによって他の店舗はさらに利用しやすくなっていると感じた。筆者の座席近くの店舗は常に空いていて、「球場飯」としては十分に美味しかった。
そして、店舗スタッフがやたらに感じいい。迅速に作業しながらも、親しみを感じる接客をしてくれるのだ。その点を指摘すると、赤坂さんが嬉しさで身を乗り出すようにして種明かしをした。西武グループにはホテル事業もあることが効いているようだ。
「プロ野球のホームゲームは約70試合しかありませんが、出店していただいている店舗の方々には『西武クオリティ』のお客様サービスを提供してもらっています。それを担保するために、プリンスホテル出身の営業部長が企画したのがホスピタリティ研修です。身だしなみを含め、相手に好印象を持っていただける方法などの講義、ロールプレイなどを行っています」
このホスピタリティ研修は店舗の責任者やアルバイトリーダーを対象に年2回行っており、参加は必須。単に「ありがとうございます」だけでなく、「試合を楽しんで行ってくださいね」などと客に声をかけられる接客を目指しているという。
いくつかの土地に住んで大人になった。だからこそ、西武球場の快適さと温かさが身に染みる
蒲郡に移住して11年。暮らしには安心と静けさがあればいいし、飲食店が近所になければ自分で好きな料理を作ればいい。再び都会に住みたいとは思わなくなった。「住まば都」ではないのだ。
新鮮な食材は地方のほうが安く手に入るし、物々交換を楽しむことができる。車の運転など苦手なことは他の人に頼めばいいし、その代わりに自分ができることは提供している。年齢を重ねて、都会の楽しさも地方暮らしの豊かさも知り、図太く生きられるようになったのだと思う。
だからこそ、自然豊かな場所にあるのにアクセス抜群な西武球場の快適さや温かさが身に染みる。華やかさはないけれど、本当の意味での顧客サービスを実感できる。故郷にこんな球場があるのがちょっと誇らしい。大人になってよかったと思うのはこういうときである。