45歳。彼氏がいたらいいけど、仕事で追い込まれているときに邪魔されたくない~スナック大宮問答集78~
「スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催150回を超えた。のべ3000人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めてオンラインで対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***トモコさん(仮名。独身、45歳)との対話***
24歳で上京。「華やかな現場に行きたい。芸能人に会いたい!」と思っていたあの頃
――トモコさんはフリーランスのTVディレクターさん。フリーライターの僕とやや似ている業界と働き方ですね。マスコミ業界に入ってどれぐらいですか?
24歳で東京のテレビ番組制作会社に入社したので、もう20年を超えています。最初の頃はオモチャのマニアをひたすら取材するマニアックな情報番組を作っていました。あの頃は若かったので、「もっと華やかな現場に行きたい。芸能人に会いたい!」と思って上司に直訴。そういう情報番組に異動しました。この年齢になると、マニアックな番組を自由に作りたいなと思いますけどね。
――情報番組を作ることが得意なんですね。
若い頃はスポーツ番組を担当していたこともあります。私はそもそもスポーツにあまり興味がないし、あの世界は積み重ねがものを言います。あの選手とこの選手の対戦歴などを細かく知っておくことが必要です。私はとても太刀打ちできないと思いました。いろんなことを調べることは好きなので、ある町の「地元の人だけが知っている名所」などを調査して伝えるのは好きです。
――その仕事をするうえで大事にしていることはありますか。
チームの熱量を上げるために、ディレクターである私がなるべく熱心に楽しそうに振る舞うことを心がけています。一般の人に面倒なことをお願いしたりするので、「こいつのためならしょうがないな」と思ってもらわなければなりません。制作スタッフも含めたみんなが、どうやったら楽しく動いてくれるかということを常に考えています。
本当に忙しいときは連絡してほしくない。それをわかってもらえる関係性を築くのが億劫です
――5年ほど前にフリーランスになったそうですね。いかがですか。
私の場合はフリーになって良かったです。人間関係のストレスがゼロになりました。どうしても嫌な仕事は断ればいいだけですから。暇なときでも、「この人と仕事をしてもストレスが溜まるだけだな」と思う場合は、「スケジュールが重なっていて……。すみません」と嘘をついて遠慮しています。一緒に仕事をする人を選べるし、選んでもらえる。会社員だとそうはいきません。あと、最後に勤めた会社とも仲良くしているので、いよいよのときはまた雇ってくれるかなと思っています(笑)。
――トモコさんは仕事能力が高いだけでなくて人柄もいいのですね。スナック大宮へのお申し込みメールでは「しばらく恋愛はご無沙汰状態です」とありましたが、どれぐらい恋人がいないのでしょうか。
10年弱はご無沙汰しています。彼氏がいたらいいなとは思いますが、仕事が忙しいときに振り回されたくないんです。電話やメールすらしてほしくないほど追い込まれるので……。それをわかってもらえる関係性を築くまでに時間と労力がかかると思うので、恋愛はちょっと難しいですね。
でも、仕事とは関係のない場所で気軽に話せる友だちが作れたらいいなと思ってスナック大宮に参加させてもらいました。
――スナック大宮は僕の読者交流宴会なので、マスコミ業界の参加者は少数派です。と言うか、多数派の業界や世代がなくて、既婚者も含めていろんな人がひとりで参加してくれています。
私は見知らぬ人が集まって沈黙が続くと、「盛り上げなくちゃ。私が頑張らなくちゃ」と思ってしまいがちです。……職業病かもしれません。でも、スナック大宮の方々はみなさん大人で、全員が少しずつ頑張っていましたね(笑)。だから、とても楽しめました。
3日間寝ずに働いて、仲間と焼肉を食べに行ったりしていました。今はもう無理です
――それは良かったです! 「仕事とは関係のない場所で気軽に話せる友人」はできましたか。
電車が遅れて途中からの初参加だったので、まだ友だちと言えるほどの人はいません。でも、普段は飲み交わさないような人たちのお話を聞けたのは面白かったです。社会人になって東京に出て来てからは、同じような業界にいる話しやすい人たちとつるみがちでした。いろんな人がいて世代もバラバラのスナック大宮は人間観察の場としてもいいですね。
――トモコさん、それも職業病ですよ(笑)。今後も東京で一人暮らしをしながら今の仕事を続けられそうですか。
体力的にすでに無理がきています。私は「夏休みの宿題をギリギリまでやらないタイプ」なので、忙しいときはずーっと働いています。若い頃は3日間ぐらい寝ずに働いて、仲間と焼肉を食べに行ったりしていました。変なテンションになって楽しかったです。でも、今は無理。徹夜をすると体調が復活するまでに時間がかかるようになりました。
今後はディレクター以外の仕事も模索していかなくちゃと思っています。自分に何ができるのかはいろいろやってみないとわかりませんけどね。例えば、情報番組のディレクターがどんなキーワードでネタを探しているのかはわかるので、取り上げて欲しいお店や個人のお手伝いはできるかもしれません。
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先細りが見込まれるマスコミ業界。自分の「得意」を活かして模索しよう
以上がトモコさんとの対話内容だ。仕事の先行きについて模索しているのは48歳の筆者も同じなので、トモコさんに先行事例を伝えるつもりでここに書いておきたい。
まず「本業」であるライター業は当然ながら続けていく。紙媒体が減っている状況で出版社からの仕事が増えるとは思えないが、筆者が住んでいる愛知県蒲郡市には企業広報などの潜在的な需要はある。東京などの大都市と違って競合はほとんどいない。経営者からスピーチ原稿を書いてほしいという依頼もときどき受けている。
トモコさんも製造業の多い東海地方出身だ。形だけでも地元に事務所を設立して幼馴染などのつてをたどれば、広報コンサルティングの需要を掘り起こせるかもしれない。価格は高くせず、美味しいものを現物支給してもらう、などの関係性も面白いと思う。
筆者の場合は、ライター業に加えて「宴会業」も柱にしていくつもりだ。すなわち、本稿で紹介したスナック大宮である。メールでの連絡が原稿を書くより好きな筆者には、読者一人ひとりの出欠を取ることがまったく苦にならない。食事会の幹事をすることは趣味でもあるので、「寂しい思いをする人がいない和やかさ」に関しては、たいていの異業種交流会やコミュニティに負けない自信がある。それでいて筆者自身が楽しく、多少の利益を得られて(イベント収入としてちゃんと税務申告をしています)、取材先を確保できたりするのだから一石二鳥かつライター業との相乗効果もある。
調べて伝えることが好きで、人の話をよく聞いて、感じもいいトモコさん。テレビディレクターの仕事を減らしても、新しい仕事を少しずつ開発できると思う。その過程で、業界以外の友だちもでき、恋愛に発展することもあるかもしれない。またスナック大宮に遊びに来て欲しい。