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知念里奈 歌手からミュージカル女優への地平を開き15年「最新の自分が好きと思える自分でいるために」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「昔よりも今の自分が好き。いつもそう思っていたい」(Photo/島田香)

20周年記念ライヴには、MAXやナインティナイン・岡村隆史など豪華なゲスト駆け付け、夫・井上芳雄と初デュエットも

『知念里奈 20th Anniversary Singles & My Favorites』
『知念里奈 20th Anniversary Singles & My Favorites』

現在はミュージカルを中心に活躍している知念里奈が、2016年にデビュー20周年を迎え、2017年2月には32曲収録のベストアルバム『知念里奈 20th Anniversary Singles & My Favorites』を発売。このアルバムには、約20年前のシングル候補曲でお蔵入りになっていた「好きだったよ」が、新録で蘇り収録されている。そして同11月30日に7年ぶりとなる単独公演『知念里奈 20th Anniversary Memorial Concert』を、東京国立博物館 平成館大講堂で行った。コンサート前にはブログで「これが最後の単独コンサートになるかなという気がしています。 お祭りです」と綴り、一部、二部を合わせて800人のファンと共に、歌い、踊り、楽しんだ。ますます冴え渡る圧巻のボーカルで、懐かしいオリジナルナンバーや、これまでに出演したミュージカル『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』の代表曲など17曲を披露。駆け付けたゲストも豪華だった。

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一部には知念が「いつかメンバーに入れてほしいと思っていた」ほどの憧れの存在でもある、事務所の先輩MAXが登場し、コラボレーション。MAXのヒットメドレーでは練習を積んできた見事なダンスを披露した。またミュージカルシーンからは、中川晃教が参加し、デュエットを聴かせてくれた。2部には知念のファンを公言し、デビュー曲「DO-DO For Me」を愛してやまない、ナインティナイン・岡村隆史がトークゲストとして登場。アンコールでは夫・井上芳雄がサプライズで登場し、二人の出会いの場となったミュージカル、『ミス・サイゴン』のナンバー「SUN & MOON」を、初デュエットし、客席から大きな拍手が贈られた。

「コンサートとミュージカルでは使う喉のポジションが全然違うので、歌えるか不安だった」

このコンサートの数日後、知念にインタビューする事ができ、コンサートの事、ミュージカルの事、プライベートの事、そしてこれからの事、色々な話を聞かせてもらった。「スケジュールの都合で、20周年記念コンサート開催まで時間がかかってしまった」と説明してくれたが、7年ぶりの単独公演で、ミュージカルのフィールドからポップスのフィールドに舞台を移して歌うという事に、難しさはなかったのだろうか。「正直に言うと、舞台をやっているほうがずっと楽でした(笑)。それは大きな作品の中での自分は、その一ピースで、その中で役割を果たせば、3時間の本番は作品自体にメッセージがあるので成立します。でもコンサートは、全員が自分を観に来てくれていると思うと、みんなが喜んでくれているという事は、一体どういうことなんだろうって改めて考えてしまったり…。やっぱり20年前の歌はキーも全然違いますし、使う喉のポジションが全然違うので、ポップスがメインの前半は、ずっと高いキーで歌って、後半のミュージカルナンバーを歌う時に、音が深いところまで響いているのか、心配でした」。

「最後のコンサートと思って臨みましたが、こんな素敵な時間が過ごせるならまたやりたい(笑)」

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しかし憧れのMAXとの共演は、本当に楽しみにしていたようで、「あれが一番楽しかったかもしれません(笑)」と、語ってくれた。集まったファンも歌を一緒に口ずさみ、振り付けを真似したり、終始笑顔で声援を送り続けていた。「みなさんが今も歌詞を覚えてくれていて、ビックリしました。私は実質5年しか歌手活動をしていなかったのですが、逆にその時歌っていた曲が、青春の思い出になっているファンの方もたくさんいて、今でも応援してくれる事のありがたみをすごく感じました」と、今も応援し続けてくれているファンに感謝していた。そして改めて自分の歌と向き合ってみて、その気持ちに変化があったようで「最後だと思ってやりましたが、お客さんの笑顔を見ていると、こんな素敵な時間が過ごせるのなら、またやりたいなって思いました(笑)」と、“次”を期待させてくれた。

1996年歌手デビュー、2003年ミュージカルデビュー。「最初は畑違いのアイドルが来たと見られて、お客さんの目も厳しかった」

知念は1996年10月に歌手としてデビュー後、2003年に『ジキル&ハイド』のエマ役で初舞台を踏み、以後『ミス・サイゴン』のキム、エレン、『レ・ミゼラブル』のコゼット、エポニーヌ、ファンテーヌなどの大役を次々と演じ、今やミュージカルシーンに欠かせない存在となっている。実は知念は、デビュー前にレッスンを積んでいたダンススクールで、ミュージカルの勉強をしていた事もあり、ミュージカルにチャレンジする事には抵抗がなかったという。2003年『ジキル&ハイド』では、鹿賀丈史の婚約者役という大役をいきなり与えられ、苦闘の日々が始まった。「ポップスしか歌ったことがないから「裏声って何?」というところから始めたので、先生達から教わることがたくさんありすぎて、でもできない自分が悔しくて、お稽古中にトイレで何度も泣きました。舞台をやりながらボイトレにも行っていました。やらないといけないという使命感で一杯でした。畑違いのアイドルが来たという感じで捉えられ、お客さんの目も厳しかったです」と、当時の苦悩を語ってくれた。

「歌の世界に戻る事は考えなかった。当時はファンの事を考える余裕がなかったというか、自分がミュージカルをやりたいという気持ちが強すぎたのかもしれない」

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でも、舞台が終わる頃には、「この世界で続けたい」という気持ちに変わっていた。ミュージカルデビュー作でその才能を見せつけた彼女の元には、その後出演のオファーが次々と届くようになった。「むしろ歌の世界に戻るという考えは、あまりなかったのかもしれない。もっとミュージカルをやらないと、だって私できていないんだから、という気持ちが当時は強かったと思います」。それまで歌手・知念里奈の事を応援していたファンについては、どう思っていたのだろうか?「舞台を観に来てくれた方もいましたし、そういう知念里奈を観たいわけではないという方も、たくさんいたと思います。でも正直、あまりそこは考えたことがなかったです。あの時は自分がやりたいことばかりを考えていたのかもしれません(笑)」と、歌の世界では見いだせなかった事にミュージカルで出会い、そこが自分の“性分”に合っている場所だという事に気づいた。「歌の世界って、それこそ歌が抜群に上手いとか、踊れるとか、自分で曲を書ける才能があるとか、ビジュアルが良かったり、そういう色々な要素にお客さんがついてくれますが、舞台ってそこが一番じゃないというか、できるかできないかだけなんです。不確定要素がたくさんある歌の世界にいたので、自分の頑張りだけではどうにもならない事がたくさんあって。たぶんそれを5年やっている中で感じていたので、自分が表現することについて、全責任を自分で持てる舞台の世界が、私の性分にはすごく合っていたのだと思います」。

「「自分が好きだと思える表現」を追い求めて、常に自問自答している」

ミュージカルの世界に飛び込んで早くも15年。歌手として活動していた時間よりも遥かに長くなった。今の知念の立ち位置から、どうミュージカルと向き合っているのかを聞くと、「当たり前ですが、オーディションもありますし、みなさん歌も演技もうまいのですが、どの表現が好きか嫌いかというのは、色々な舞台を観ている中で、私個人にも好みがあって。じゃあ自分自身はどうなのか、という事を常に考えながら舞台に立っています。自分が好きだと思える表現をできる自分になるために、今自分はどうなの?っていつも自問自答しながらやっている感じです」。

愛らしいルックスと、凛とした中にもかわいらしさを感じる声から繰り出す情感溢れる歌は、彼女の武器だ。歌手時代、様々なタイプの歌を歌っていた事もあり、器用に色々な役をこなす事ができる。「これからやってみたい作品はありますか?ってよく聞かれるのですが、あまりなくて、それはもうご縁でしかないです。例えば「レ・ミゼラブル」でも、今3役目をやらせていただいていますが、女優さんによっては、役にこだわりを持って、他の役はやらないという方もいらっしゃるみたいですが、そこは私は全然こだわりがなくて。観慣れたお客さんが、急に私が全然違う役をやると戸惑わないだろうか、という部分は考えますが、新しい役の性格や、歌う曲について興味が出てきたり、その役についてもっと知りたいという思いの方が強くなるという事に、この前気づきました(笑)」と、好奇心の強さが、ミュージカル女優道を突きつめていくための、重要な要素になっているようだ。

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知念は12月13日に放送された『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)にも久々に出演し、「限定!! ミュージカル・スペシャルメドレー!!」と題して、生田絵梨花、石丸幹二、井上芳雄、昆夏美、新妻聖子、山崎育三郎ほか ミュージカル界のスターと共に歌い、その圧倒的な歌のうまさは大きな話題を集めた。「ミュージカルは聴き手の心を豊かにしてくれるナンバーがたくさんあるので、そういう曲を知ってもらう機会が増えるは嬉しいですね。でも私は、16年ぶりに出させていただきましたので、いつの間にそっちの世界に行ってたんだ、というような意見がたぶん多いと思いますけど」と、笑って答えてくれたが、それは今の彼女の充実ぶりを表しているということだろう。妻として、母として、そして女優として忙しい毎日を送っている。「息子は小さい頃から私の舞台を観ていて、私はもちろん一生懸命やっているのですが、彼には楽しいことをやっているようにしか見えないようです(笑)。だから「仕事に行くから、何時頃帰ってくるね」って言うと、「へぇ、また仕事?いいね」って、そういう感じなんですよ(笑)。拍手とか浴びてちゃってさ、という風に思っていて(笑)」と、嬉しそうに語ってくれた。

「今は小さな幸せを感じる事が幸せ。"普通”を大事にしたい」

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そして家族の存在が役にもいい影響を与えてくれるという。「仕事を終え、家に帰ると一回一回リセットされるので、役を引きずる事もなくなりました。若い時はそうなりがちでしたが、今は帰った瞬間に現実=家事が待っているので、役に入り込んでそのままというのは全然なくなりました」。そして、家事をこなしていると、自分の時間がほとんど取れない今、ちょっとした事に幸せを感じ、それがまた幸せで「普通を大事にしたい」とも教えてくれた。「家族の事をやっていると、自分の事ってほとんどできなくて、顔を洗っているのが幸せに思えるくらい(笑)。なので時間をとって自分のためにボイトレに行くとか、マッサージに行くとか、その時間がすごく幸せに思えます(笑)」。

「いつも、去年の自分より今年の自分が好きと思える自分でいたい」

そんな、公私ともに充実の時を迎えているミュージカル女優・知念里奈が、常に心がけている事を聞くと、「私が歌手をしていた頃とは時代も違いますし、今はその時よりも自分の事が好きって思えるんです。それは大人になったからかもしれませんが、自分としては毎年そう思いたいし、毎年頑張って、去年より今年の自分の方が好きだなって思える自分でいたい」と、大きな瞳を輝かせながら、最高の笑顔で話してくれた。

知念里奈 「OTONANO」特設ページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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