政治と金で知事2人辞職、知事選3回150億円使っても東京都は「利権構造」を解決できないのか
図表: 東京都知事選挙主要候補「政治と金」関連政策一覧
都知事が2人辞職したのは「政治と金」の問題、利権構造の本丸を明らかにしろ
いよいよ都知事挙の投票日が2日後に迫った。
今一度、なぜ今回、都知事選が行われなければならなかったのかを位置付けてもらいたい。
あらためて言うまでもないが、舛添要一知事の「政治と金」の問題に絡んだ辞職によるものだ。
さらに言えば、その前の猪瀬知事が辞職したのも「政治と金」の問題だった。
一方で、こうして明るみに出た「政治と金」の問題は、枝葉の先の先の話であり、東京都にはこの裏で本質的な「利権構造」があると言われており、彼らはその構造の中でトカゲの尻尾切りにあったという指摘すらある。
今回の都知事選までの3回の選挙で都民の血税から約150億円が使われたにも関わらず、この「政治と金」の本質とも言える「利権構造」は解決されないどころか、その中身すら明らかにされない。
ようやく今回の選挙で、「都議会のドン」という言葉とともにこの「利権構造」が若干話題になったが、主要3候補含め、この問題に関してはどうも踏み込めていない印象がある。
は今回の選挙の争点の一つは間違いなく「政治と金」である。
今回は有権者の皆さんとこのことから都知事選について考えていきたい。
救世主となる「小池新党」はあるのか?
主要候補の中で、この利権問題に最も踏み込んだ発言をしているが小池百合子氏だろう。
小池氏のHPで政策を見ると「東京大改革宣言」「明日のために、今はじめる。」といったスローガンの元にある5つの主要政策の中の3つが「都政の透明化」「五輪*関連予算・運営の適正化」「都知事報酬の削減」とこの利権問題をはじめとしたいわゆる「政治と金」を意識したものになっている。
しかし一方で、「東京の課題解決と成長創出のために、3つの「新しい東京」をつくります。」と挙げられた「セーフ・シティ」「ダイバー・シティ」「スマート・シティ」とテーマ分けされて具体的に掲げられた政策の中にはこうした利権問題や「政治と金」に関する政策は全くなく、掛け声はいいものの具体的にどう実行するのか分からない。
中でも注目は「都政の透明化」と「五輪*関連予算・運営の適正化」である。
オリンピック利権は、今後数年の中では最も大きな利権であることは間違いない。
ただこうした抽象的な表現では何が「適正」なのかさえ明らかでない。
それ以前にこうした問題が最も重要な問題の一つだと提示しながらも、そもそも現状は「どう適正でないのか」さえも明らかにできないところを見ると、都政の透明化すら不安が残る。
出馬会見で話した「冒頭解散」は、色々と指摘は受けたものの政治的には非常に面白いとは思うが、これだけで改善するほど利権構造は甘くない。
有権者がこうしたことを小池氏に託すのであれば、小池氏が本当にできるのかはもちろんだが、本当にやるのかについてもしっかりチェックする必要があるように思う。
都知事選の真っ只中の7月17日、安倍晋三首相は山梨県の別荘で夏季休暇に入った。1週間程度滞在し、趣味のゴルフも楽しみ、英気を養うと報じられた。
先日、石原慎太郎元知事が暴言を吐いたと言われる会合には菅官房長官も出席していたようだが、官邸が増田氏を熱心に応援している様子もない。
小池氏陣営は、表面的には音喜多駿都議などを出しているが、裏選対には自民党国会議員たちの秘書たちが入っていると聞く。
鳥越氏が脱落しつつある中で、既に官邸にとってはどちらが勝ってもいい選挙になっている可能性が高い。
個人的には、大阪で橋下徹氏が維新を立ち上げたように、東京から「小池新党」という流れは第三極の必要性という側面からも大歓迎だが、実際には小池氏自身も自民党を離党しておらず、少なくとも選挙後に官邸とは手打ちになるのは明らかだ。
最も重要な問題は、その後の都議会自民党との関係性だ。
既に自民党からまことしやかに聞こえてくるのは、内田茂都議(千代田区)の政界引退で幕引き、都議会自民党と手打ちというシナリオだ。
こうなってくると利権構造は改善できないどころか、その構造自体も表に出ることなく終わる可能性がある。
仮に内田氏がいなくなっても結局人が変わるだけでこの構造が維持されることになる。
内田氏の娘婿である内田直之氏は千代田区議であり、内田氏が辞職、補欠選挙になれば内田家で引き継ぐ可能性もあるほか、そもそも内田氏が辞めないまま手打ちというシナリオさえ考えられる。
革新系の首長が当選後に与党に翻る、またはオール与党の構造の上に乗っていくケースは決して稀ではない。
こうした状況は筆者自身も経験しており、ブレーンとして政策形成から選挙戦略まで一手に引き受けた松戸市長選挙では、市民運動と当時の民主党の上に乗った選挙構造を作って当選、その後ブレーンとして部長職で市役所に入ったが、結局は自民公明両党に迫られブレーンの首を切り、その構造の中で選挙で掲げた公約も大きく転換させた。
こうしたことは、自分が直接間接的に関わった首長の中にもそれなりの数でいる。
選挙で勝ったとしても、その後の行政運営の中では、議会との対立構造の中では動かなくなるものが多いからだ。
小池氏は当選すれば、自ら党首となって「小池新党」シナリオと、都議会自民党と手打ちをして「安定都政運営」シナリオを両天秤にかけ、大阪のように一気に転換できそうなら「新党」、そこまでいかなさそうであれば「手打ち」と選択していくのだろう。
その辺りは政策でも言動でも絶妙に通り抜けているような印象を受ける。
仮に新党を作ったとしても、その新党は官邸とは連携していくであろうことも紹介しておく。
東京都の有権者たちは、当然こうした可能性は考えながら投票しないと、いつものように「こんなはずじゃなかった」という2度ある事が3度ある可能性がある。
利権問題の解決に機能してこなかった野党は変われるのか?
「政治と金」の問題に政策の中で最も書かれているのは、鳥越俊太郎氏だ。
「あなたに 都政を 取り戻す」「『住んでよし』『働いてよし』『環境によし』を実現する東京を!」といったスローガンの下に「都政への 自覚と責任」として、「都政は、都民が汗水たらして働いて納めた税金で成り立っています。この原点を忘れた都知事が、2代続けて政治とカネの不祥事で都政を混乱させました。私は「納税者意識」を胸にとめ、都民の負託に応えます。第2の舛添問題を起こさせない体制をつくります。」としている。
具体的には、「知事の海外視察費用・公用車利用のルールを見直します。」「知事の視察等の情報公開を徹底します。」「政治資金規正法の見直しを東京都から国に働きかけます。」を行うらしい・・・。
金にクリーンな政治にしていくということは、いいことだとは思うが、東京都知事のポジションを目指す人が、東京都政における「政治と金」の問題で最も重要な問題が「海外視察や公用車の利用」などだと思っているとしたら、そこはズレているとしか認識できない。
ましてや鳥越氏はジャーナリストだった方だ。
最近のマスコミ報道には、「本当にそれが本質的な問題なのか?」と思うことが多々ある。
ネタがなくなると重箱の隅を突つくように枝葉の問題を取り上げる。
末端の記者が紙面の恥に書く記事ならいいが、仮にも東京都知事のリーダになろうという方である。
本当にこれが最も大事だと思っているのだとすれば、もう少し事の本質を認識してから選挙に出られたらどうかと思う。
ただ、もう一つの可能性もある。
鳥越氏は東京都の利権問題の本質を理解しながら、「支持基盤との関係で言えない」という可能性である。
鳥越氏を推薦しているのは、民進党、共産党、社民党、生活の党・・・である。
55年体制下の社会党ですら日中は野党として議会では対立構造を見せながら「夜は自民党」と揶揄されるような議会の裏側の構造もあった。
とくに自治体議会の中では、地域によってはオール与党構造で野党がほとんど機能していない議会も多い。
こうした構造の中では、利権構造さえも同じ穴のムジナといった事だってありえる。
利権体質について「ダーティなのはいつも自民党。野党はクリーン」というのはいささかステレオタイプな幻想のようにも思う。
業界団体との利益供与、口利き・・・可能性があるのは与党ばかりとは限らないのではないだろうか。
東京都議会までそうだと言うつもりはないが、仮にクリーンだったとして、これまで東京都の「利権問題」について、ここまで正せなかった責任は野党にもある。
「ムダをなくしつつも、平和の祭典としての五輪を成功させます。」とオリンピックにも触れているが、どうもこの書きぶりは政権交代した2009年の民主党マニフェストの基本とされる「税金の使い道を変える」「無駄遣いの根絶」を思い出す。
結局こうした現状認識の甘さと、具体的な根拠のない政策提示が、国民から大きな問題だと指摘されたのではなかっただろうか?
鳥越氏を推薦する都議会議員は、民進党系が14.7%、共産党が13.8%あり、生活者ネットの2.4%まで加えれば30.9%をも占める。
増田氏を応援する都議の数に比べれば少ないが、それでも38人もの都議会議員が応援していることになる。
「疑惑追及」と言えば、野党の専売特許という側面もある。
こうしたことを考えると今回の「利権追及」という側面から見ると鳥越氏のみならず、これまでの野党の都議会での活躍についても物足りなさを感じる。
裏返せば、この集団に任せて大丈夫だろうかという心配にもつながる。
図表: 東京都議会議員構成割合(会派・選対)
組織選挙で猛追するが、都議会圧倒的多数の当選後の諸刃
都議会の構成は自民党が45.5%、公明党が18.7%の第2党で、増田氏を推薦する自公だけで全体の64.2%を握る。
一方で小池氏を表面的に応援しているのはかがやけTokyoぐらいなのでわずか2.4%程度だろう。
知名度とイメージ選挙で先行する小池氏だったが、その組織力で一気に増田氏が詰めていると言われている。
鳥越氏が週刊誌によるイメージダウンで沈んだ票は、当初そのまま小池氏に上積みされて圧勝かとも言われたが、現状はむしろ増田氏が詰めて差はわずかになってきている。
これだけ増田陣営が猛追しているので、事実関係は分からないが、小池陣営には先述の国会議員事務所だけでなく、自民党都議からも造反が出てきているとの報道もある。
公明党も両にらみで保険をかけ始めているとも言われており、実体的な都議の応援体制は、「5:4:3」くらいまで平準化してきている可能性もある。
ただこうしたデータから見れば、それでも組織的には増田寛也氏が圧倒的に有利であったことは間違いない。
こうしたイニシアティブは、選挙だけでなく、当選すれば安定した都政運営が約束されている。
各種指摘はあるものの岩手県知事として実績を見ても、行政手腕はおそらく候補者の中では図抜けている可能性がある。
政策を見ても、少なくともHP上の政策比較では他を圧倒している。
特に、経済政策や都市計画での具体的な提示は、その後の進み方も見える。
ただ一方でこうした都議会圧倒的多数の構造によって生まれた知事には、諸刃の剣の部分もある。
その象徴が「利権構造」の改善についてだ。
増田氏の政策を見ると「増田ひろや3つの実現」「東京の輝きを取り戻すために」のスローガンのもとに細部に至るまで細かな政策提示を行っているものの、今回の都知事選を行うことになった根幹である「政治と金」の記載が一切ない。
「利権構造に支えられた候補」というレッテル貼りはやり過ぎだとは思うが、今回の選挙は、猪瀬知事、舛添知事の「政治と金」の問題による辞任から起きていることを認識しておかなければならない。
図表: 歴代都知事の任期
江戸府から東京府、東京市を経て東京都になり、始めて東京都知事が公選となったのは1947年の地方自治法施行後からだが、つい先日のことと思い出す石原慎太郎都知事まで東京都知事はたった6人しか務めていない貴重な役職だった。
その間の平均任期は11年という長期政権だ。
短命知事の発端は、石原慎太郎知事の4期目からである。4選から1年後の2012年、衆院選に出馬するため知事を辞職。
その際に後継指名されたのが、当時副知事だった猪瀬直樹都知事だった。
最近はこのことを忘れ暴言を吐かれているようだが、元はと言えば、石原知事が任期途中で投げ出して後継指名した猪瀬知事の辞任が元凶だ。
猪瀬知事は僅か1年で辞任、その後任の舛添要一知事も2年で辞任と、都知事は一気に短命となった。
このことにより、2011年から東京都では、5年で4回と、ほぼ毎年、都知事選挙をやっていることになる。
1度の都知事選に約50億円かかると言われており、5年で200億、1年でならしても40億にも昇る。
200億もあれば、それこそ待機児童問題なんてどれだけ解消されるんだという額である。
この短命政権に終止符を打つということを考えても、都民には200億円の価値を出す選挙にしてもらいたいと思う。
各調査から現状を見ると、調査によっても分かれるが、概ね「22:20:16」といった感じだ。
まだ投票先を決めていない無党派が多く、増田陣営、鳥越陣営は組織の引き締めを図るとともに、小池陣営も含めて三つ巴で無党派に働きかけていくことになるだろう。
この点から考えると、詳しくは別の機会に書くが、今回の都知事選挙の結果を18歳も含めた若者の票が左右しかねない状況になってくる可能性すらある。
無責任に有権者を煽れば、その意味でも「面白い選挙」になりつつあるのは間違いない。
今回の選挙において重要なのは「投票する候補者の選択」だけではない。
今回取り上げた「利権構造」で言えば、当選後どうやって知事を逃げずにやらせられるかという構造を作ることもこの選挙で問われているのではないかと思う。
いずれの候補を選ぶにしても、その主役は、候補者ではなく、都民である。