会社更生法適用を避けてきたシャープ
シャープに台湾の鴻海精密工業が資金を提供する再建案が浮上し、急転直下の様相を呈してきた。これまでのシャープの行動を見る限り、経営陣は何も決められない。自己資本比率が10%を切ってもなぜか、銀行が2000億円モノ資金を投入してくれたため、会社更生法を地裁に適用しなくて済んだ。しかし投入してくれた資金は、社員の給料支払いや日常の運営などで消えていくだけだった。無駄に時間が過ぎ、結局再び自己資本比率が一桁台に落ちようとしていた矢先に、鴻海の郭台銘CEOがシャープにきた。今年になってから数回に及ぶ訪問で7000億円を提示したと言われている。
シャープが会社更生法を申請すると、銀行が出したお金は紙屑になってしまう恐れがある。会社更生法適用を申請するくらいなら、との思いで銀行は融資した。しかし、本質的に誤解している点は、液晶ディスプレイをハイテクと勘違いしている点ではなかろうか。液晶ディスプレイは今や、韓国のサムスンやLGでさえも縮小し、中国勢に任せようとしている。それをわざわざ日本の企業が作るべき製品なのだろうか。中国の液晶ディスプレイメーカーは、ひたすら生産し続け、今や在庫の山を築いているといわれるほどだ。
ただ、ここまでぐずぐずと会社更生法を適用せず、過ごしてきたからには、もはや鴻海提案を受けざるを得ないだろう。会社を鴻海に改革してもらうしか手はないだろう。台湾は低コスト技術を持っている。残念ながらシャープには、性能の良いものを高く作る技術はあるが、コスト競争力を高める製品作りの技術はない。IGZOの基本特許でさえ、シャープだけのモノではない。
しかも今さら、産業革新機構が日本勢だけでチームを組んでみても、うまくいくとは思っている業界人はいるだろうか?ここに大赤字を出した東芝の家電チームが加わり、IoTやビッグデータ解析、クラウドなどの技術で世界と勝てるような戦略を打ち立てるような話もあるようだが、勝つためには何が必要なのか革新機構はわかっているのだろうか?
ダメな企業に決定的に不足しているのは、グローバルな考えや実行能力、戦略を立てる力、ビッグなピクチャーを描ける能力、それを元に自社のロードマップを描く力などである。いわば自社のミッションを社員が共有し、ビジョンをイメージしているか。社員の心を一つの方向に向かわせているか。
少なくとも、鴻海と合弁で運営している堺ディスプレイプロダクツは、合弁前の赤字垂れ流しを立て直すことができた。2月6日の日経によると、少なくとも好調だという。シャープの経営陣がぐずぐずといつまでも決めるべきことを決めなかったために多くのエンジニアが退社し、シャープそのものの技術力も失われた。もはや待ったなしではなかろうか。
ただし、鴻海の郭CEOは超ワンマンの経営者で、台湾での評判はあまり良くないと言われている。今回は一応、社員も経営陣も温存すると譲歩したようだが、これはあくまでも買収するまでのこと。買収した後、シャープに技術が残っていなかったと判断されると、どうなるかわからない。
台湾のメディアが鴻海に対して批判的な記事を書くと、訴訟を起こされると言われており、台湾の記者はビビッて鴻海の記事を書きたくないという声も聞く。もちろん事実に基づいた記事を書けば問題ないはずだが、台湾の司法の仕組みが筆者にはわからないため、判断のしようがない。ただ、超ワンマンの経営者であることは間違いなさそうだ。だとしても、いつ地裁に会社更生法適用を申請しても不思議ではないほど、追い詰められたシャープには、もはや選択肢は残っていない。