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元夫と和解した福原愛さん きょうだい離ればなれが中国では珍しくないワケ

中島恵ジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

卓球女子で2大会連続メダリストとして活躍した福原愛さんが15日、以前から長男をめぐり対立していた元夫で、台湾の元卓球選手の江宏傑さん側と和解したことを報告。記者会見でコメントを発表したことが波紋を広げている。「容姿が変わった」「元夫に完敗した」などのコメントが日本のSNSを賑わせている。

一方、同日、中国のSNS、ウェイボー(微博)でも中国語で報告。約540万人のフォロワーに向けて発信した。福原さんの発表に中国のファンは「愛醤(愛ちゃん)を永遠に支持します」「これからもがんばって」などのコメントが多数投稿されており、その応援ぶり、注目度は以前とあまり変わらないように見える。

福原さんに対して厳しい日本の世論に比べて、中国ではいまも福原さんを温かく見守っているファンが少なくないようだ。

福原さんのウェイボーの投稿(筆者によるスクリーンショット)
福原さんのウェイボーの投稿(筆者によるスクリーンショット)

もちろん、福原さん自身のファンで、何があろうがずっとファンだという人もいるだろうが、それ以外に、筆者が知るところ、中国ではきょうだいが親の都合で離ればなれで暮らしているケースは珍しくなく、そのこと(離ればなれ)自体に強い憤りや大きな疑問を感じている中国人は、日本に比べれば少ない、ということも関係あるかもしれない。

むしろ、日本とは異なり、ファンの中には母親側の立場になり、「どうしても子どもと一緒にいたかったのだろう」という同情心さえ持つ人もいるようだ。

親の都合で一緒に暮らせない子ども

今回の一件は2022年7月、面会のために福原さんに長男を引き渡したのに、その後音信不通になり、長男を約束通りに返さなかった福原さん側に大きな問題があったことは言うまでもないことだ。だが、中国では、親のエゴや勝手な都合できょうだいが離ればなれになることに、あまり疑問を感じない人がいる。

子どもの立場ではなく、常に自分中心で物事を考えているからだ。そういう意味で、福原さんの感覚は「中国的」ともいえるかもしれない。

筆者が知るある中国人女性もそうした一人だ。その女性は30代。大都市に住み、長男は5歳になる。夫婦仲もよく、いつもSNSで家族3人の楽しそうな写真を投稿していた。コロナ禍の2年前に長女を出産。これからは家族4人の写真がSNSで見られるのかなと思っていたが、出産後、なかなか長女の写真は投稿されない。

長女の出産後も、いつも長男の写真しかSNSに載らないのだ。おかしいと思っていたら、春節の写真でようやくそのワケがわかった。共働きの女性が大変であるため、長女は女性の両親、つまり祖父母のもとに、出産後ずっと預けられており、親子が離ればなれで暮らしていたからだ。

春節の際、2歳のかわいい盛りの娘は祖母が抱っこし、女性一家と一緒に写真に写っていたが、祖父母の家は女性の家から数百キロ離れているため、めったに会うことはできない。いつもSNSの動画で話しているそうだが、聞いてみると「娘は私にあまり懐かない」と話していた。

本人は「今後、生活が落ち着いたら、娘を引き取って一緒に暮らす予定だ」と話し、とくに長く離れてことを気にしている様子ではなかったが、女性は病気で療養中というわけでもなく、経済的にやむを得ない事情があるわけでもない。

長男もすでに5歳で、最も手がかかる時期を過ぎている。中国では一般家庭でも、お手伝いさんを雇うことが容易なため、なぜすぐに引き取らないのか筆者は疑問だった。

日本人とは異なる感覚

このケースの場合、きょうだいが無理やり引き裂かれたというわけではないが、中国は祖父母が子育てを手助けすることが「当然」という風潮の社会なので、きょうだいを別々の環境で育てるということに、疑問も持たない人はけっこういる。

祖父母と同居していて、家にお手伝いさん同然の人(祖父母)がいるので、母親の中には仕事のあと、気兼ねなく、週3~4回も友だちと食事するという人もいる。

幼い子どもがいても、独身時代と変わらない自由な生活ができるとその人は喜んでいたが、日本ではなかなか受け入れにくい感覚だ。

福原さんのケースで気がかりなのは、すでに6歳を超えた長女のことだ。物心もつき、いま、家族に何が起きているのか、薄々気づいていることだろう。大人が本人に隠し、何ひとつ伝えなくても、子どもは敏感に察知している。

子どもの心の傷は絆創膏やクスリでは治らないし、目に見えない。いまは弟とお父さんと一緒に暮らす日々に戻ったと思うが、台湾に戻った弟と長女が、今後は離ればなれにならないことを祈るばかりだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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