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森会長会見は「決してやってはいけない」典型例

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
会見で話す森会長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 自らの不適切発言の謝罪・撤回を目的に五輪組織委の森会長が4日に開いた記者会見は、会見目的を意識しない、開き直り・逆ギレ・逆質問・暴露・強引打ち切りという「決してやってはいけない」会見の典型例だった。

 3日に「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」などの発言が大きな批判を招いていたことを受け、4日急きょ記者会見が開かれた。冒頭、森会長は3分程度の時間を使い、メモを読み上げる形で、

発言につきましては、オリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な表現であったと、このように認識をいたしております。そのために、まず深く反省をしております。そして発言をいたしました件につきましては、撤回をしたい。それから、不愉快な思いをされた皆さまには、お詫びを申し上げたい

 などと自身の発言を謝罪・撤回した。また、辞任については否定した。会見は冒頭コメント3分弱を含む、質疑応答を含めて20分足らずだった。

 冒頭発言は文字で見る限りにおいて、それほど違和感は持たないかもしれない。ただ、自身が何をどのように発言したことを「不適切な表現」と考え、何を「深く反省」しているのかがはっきりしない。そこで、質疑応答でそのあたりを確認する質問が相次いだが、これが異様なやりとりになった。

<開き直り・逆ギレ・逆質問>

 最初の質問は辞任についてだった。

問:発言によって国内外からたくさんの批判があがっている。辞任をするという考えは浮かんだか?

森:辞任するという考えはありません。私は一所懸命こう献身的にお手伝いをして7年間やってきたわけですので、自分からどうしようという気持ちはありません。皆さんが邪魔だと言われれば、仰るとおり老害が粗大ゴミになったのかもしれませんから、そしたら掃いてもらえばいいんじゃないですか?

 と、冒頭コメントからは全く雰囲気の異なる、最初から開き直りのような答えだった。少なくとも「深く反省」しているような印象は一切ない。

 続く質問は、IOCへの説明について聞くものだった。

問:発言について森会長からIOCに説明する意思は?

森:それは必要ないでしょ。今ここでしたんだから。昨日のは流して(報じて)、今日のは出さないという訳じゃないんでしょ?皆さんが打たれれば、分かるじゃないですか?

 と逆ギレ気味に返している。

 さらに、「やはり会長は女性は話が長いと思うのか?小池都知事は人によると言っているが」との質問の途中で、「私も話が長い」などとかぶせる形で質問を遮った。

 そして、

問:オリンピック精神に反するという話をされてたが、そういった方が組織委会長をされていることは適任なのか?

森:さあ? あなたはどう思いますか?

 というやりとりになった。このような逆質問、しかも不快感をあらわにしたものは、通常の説明会見でも多くは見られない。謝罪会見ならなおのことだ。

<記者会見の意味>

 森会長としては、謝罪して撤回したんだから、それでいいだろう、という考えだったのかもしれない。しかし、それは根本的に間違っている。

五輪組織会長が記者会見で謝罪せざるを得ない状況というのは

1)「発言」が日本のスポーツ界、国際的に見れば日本社会を象徴する考えではないことを示すことと、

2)オリンピック・パラリンピックの「代表」として森会長本人が適任と認められるのかを確かめてもらうこと

が必要な状況なのだ。

「発言」をなかったことにするだけでは済まされない状況なのである。

<暴露して、会見打ち切り>

その認識がおそらく一切なかったのだろう。最後の質問で本人は意識せず、たいへんな暴露をした。

 森会長は、「女性が多いと会議が長い」というのは自分の考えではなく、「人から聞いた話」だと説明した。それについて、

問:女性が多いと会議が長いという話がよく上がっているということか?

森:そういう話はよく聞きます。

問:それはたとえばどういう競技団体・・・?

森:それは言えません。

 短いやりとりだったが、この発言で、「本人の認識・考え」ではなく、「日本のスポーツ界」の話になってしまった。

 もちろんこの瞬間に冒頭コメントの謝罪・撤回は何の意味ももたなくなったのだ。

 司会者も「これはまずい」と思ったのだろう。会見はこれを最後に打ち切られた。

 これだけ大きな注目を集める会見が、わずか20分で幕を閉じた。コミュニケーションというものが成立していないと感じられた会見だった。

 記者会見は、メディアと対決する場ではない。少なくともそこで誠実な姿勢で対話・説明ができるようでなければ、メディアを通して見る国民からはオリンピック・パラリンピックを開催する代表とは見てもらえないだろう。

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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