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メラノーマの早期発見に向けたスマートフォンの可能性と課題を専門医が解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【メラノーマの早期発見に向けた取り組みと課題】

メラノーマは皮膚がんの一種で、早期発見が予後を大きく左右する疾患です。しかし、皮膚科医の予約が取りにくいことが早期診断の妨げになっているのが現状です。こうした中、フランスでは皮膚科医への受診までの時間を短縮するために、かかりつけ医がスマートフォンで撮影した疑わしい皮膚病変の写真をメールで皮膚科医に送信する取り組みが行われました。

この研究では、通常の診察を行うグループと、スマートフォンで写真を送信するグループに分けて比較が行われました。結果として、切除が必要な皮膚病変を持つ患者の皮膚科受診までの時間は、両グループで有意な差はありませんでした。一方で、切除が不要な皮膚病変の場合は、写真を送信したグループの方が受診までの時間が短縮されました。

【テレダーマトロジーの可能性と限界】

テレダーマトロジー(遠隔皮膚科医療)は、スマートフォンやインターネットを活用して皮膚科医と連携を取る新しい医療の形です。特に、離島や過疎地など皮膚科医が少ない地域では、テレダーマトロジーの活用が期待されています。また、AI(人工知能)を用いた皮膚がんの自動診断システムの開発も進められており、将来的にはスマートフォンを使った皮膚がん検診が普及する可能性もあります。

ただし、現時点ではテレダーマトロジーにはまだ課題も多いのが実情です。例えば、写真の画質や皮膚科医の判断の正確性など、質の担保が難しい点が挙げられます。また、テレダーマトロジーのシステム構築や医療費の適切な設定なども検討が必要です。

【スマートフォンを活用した皮膚がん対策に向けて】

今回の研究結果からは、スマートフォンを用いたテレダーマトロジーが皮膚がんの早期発見に直結するとは言えませんでした。しかし、今後さらに研究を重ね、質の高いテレダーマトロジーの基準を確立していくことが重要だと考えられます。

また、一般の人でも自分の皮膚の変化に気づき、必要な時に皮膚科を受診できるよう、啓発活動を行うことも大切です。スマートフォンのアプリなどを使って、自分で皮膚の状態をチェックする習慣を身につけることもおすすめです。

皮膚がんは早期発見・早期治療が何より大切です。スマートフォンなどのテクノロジーを上手に活用しながら、皮膚科医との連携を深めていくことが、皮膚がん対策の鍵になるでしょう。

参考文献:

Bouton C, Schmeltz H, Lévèque C, Gaultier A, Quereux G, Dreno B, Nguyen JM, Rat C. Early diagnosis of melanoma: a randomized trial assessing the impact of the transmission of photographs taken with a smartphone from the general practitioner to the dermatologist on the time to dermatological consultation. BMC Health Serv Res. 2024;24(1):660. doi: 10.1186/s12913-024-11106-9.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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