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少女時代の“お手本”相手に証明したメンタルの成長。大坂なおみがシャラポワを下す!

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

○大坂なおみ 6-4,6-4 M・シャラポワ

 その選手は、「子どものころから対戦したいと願い続けてきた3人の一人」だったと、大坂は笑顔で明かしました。

 3人の内訳は、一人は永遠の憧れのセレナ・ウィリアムズで、もう一人はセレナの姉のビーナス。そして残る一人こそが、この日の対戦相手である、マリア・シャラポワでした。

「ただ、申し訳ないんだけれど……」と、決まりの悪そうな笑みと共に大坂は白状します。

「私が見たシャラポワの試合はほとんど全て、セレナとの対戦なの。だから私はいつもセレナを応援していたわ」

 それでも、いかなる状況下でも怒りや落胆の感情を顔に映すことなく、あらゆるボールを全力で追うシャラポワの姿に、幼い大坂は感動したのだと言います。

「セレナのプレーとシャラポワのメンタリティを兼ね備えた選手になれたら、すごくクールだろうな……」

 テレビの中の選手たちに敬意と憧れを募らせながら、いつの日かその選手たちと戦う未来を、彼女は思い描いていました。

 時が流れ、20歳になった大坂とシャラポワとの対戦は、インディアンウェルズのセンターコートで実現します。

「彼女は、全てのポイントでファイトしてくる。私も同じように全てのポイントで全力を尽くし、なおかつ決めに行くべき場面を見極めていこう」

 そう自分に言い聞かせた大坂は、唸り声と共に叩き込まれるシャラポワの強打を、時に丁寧に打ち返し、時に自慢のフォアで強烈に打ち抜きます。圧巻は第1セットの第5ゲーム、シャラポワのスイングボレーをカウンターで打ち返し、見る者の度肝を抜くウイナーを奪った場面。そして精神的な成長を示したのが、いずれのセットもリードした状態から追いつかれるも、最後には再びブレークし突き放せたことです。

「以前の私だったら、追い上げられた時点でイライラしていたと思う。自分のメンタリティが強くなったことを示せたのが、すごくうれしい」

 試合後に大坂は、勝因として真っ先に自身の内面の変化をあげます。それはまさに幼き日の彼女が、シャラポワに憧れ学ぼうとしていたことでした。

 今大会のドローが決まった時、大坂は初戦の相手がシャラポワであると知った時点で、それ以外は見ようとしなかったと言います。だから2回戦の相手がラドワンスカだと知ったのも、シャラポワに勝った後のこと。テニス界随一のテクニシャンであるラドワンスカは、シャラポワとは正反対のプレースタイルとも言える選手。かつては大坂が苦手としたタイプの対戦相手でもありますが、彼女は心が浮き立つような笑顔で言いました。

「次の試合もすごく楽しみ。毎日、異なるタイプの選手と対戦できるのが、テニスという競技の素晴らしい点だもの」。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookeより転載。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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