ローカル鉄道 都会の人は知らない乗車マナーのローカルルール
まもなく新入学の季節を迎えます。
新入学生、特に高校1年生になる皆様方は、初めての電車通学となる人が多いのではないでしょうか。
定期券の使い方に不慣れな皆様方は、初めて使う時に戸惑いを覚える方もいらっしゃるでしょう。筆者も高校生になって電車通学を始めたときに、定期券を駅員さんに見せるタイミングに戸惑ったことを思い出します。(当時は自動改札ではありませんでした。)
さて、田舎のローカル鉄道では、高校生になって初めて定期券を使うのはもちろんですが、初めて一人で電車に乗るという方も多く居ます。
ふだん、子供のころから親の車に乗って出かけることが当たり前という地方都市で生まれ育った人たちは、高校生になって初めて一人で電車に乗るという方がほとんどと言っても過言ではありません。
そのために、えちごトキめき鉄道(新潟県上越市)でも、電車の中にこのようなポスターを張って、マナーアップ大作戦と称して、主として電車で通学する高校生の皆様方にマナーをお伝えしています。
例えば、「リュックは前に持つ」などというような、都会では当たり前のことでも、初めて電車に乗る子たちは知りませんし、車社会では両親もふだん使いでは電車には乗りませんから、教えてくれる人がいないのです。
ワンマン列車の乗降方法
ローカル鉄道の多くは運転士だけで車掌が乗らないワンマン列車です。
ワンマン列車は降りる際に運賃精算や切符の確認が必要になります。
このため、多くのローカル鉄道では後ろのドアから乗って、一番前のドアから降ります。降りるときに、運転士が運賃精算や定期券の確認をするためです。
えちごトキめき鉄道の妙高はねうまラインでは関山駅、二本木駅、北新井駅、南高田駅の4つの駅は駅員がいない無人駅です。
有人駅では全部の車両のドアが開きますが、これら無人駅では一番前が出口になります。
それどころか、2両目のドアは開きませんので、2両目からは降りることができません。
無人駅で降りる際は、あらかじめ前の車両へ移動していただくことが求められます。
車内では頻繁に「2両目のドアは開きません。前の車両の一番前のドアからお降りください。」という音声アナウンスが流れていますが、すべてのお客様が注意深く聞いているとは限りません。時には後ろの車両から降りようとしてドアが開かず、途方に暮れている乗客もいて、運転士が車内を見てそういう乗客がいないことを確認してから発車をします。
新幹線で地域に降り立って、ローカル列車に乗り継ぐ地域外からやってくる皆様方は、この辺りに注意が必要です。
ところが、えちごトキめき鉄道ばかりでなく、多くのローカル路線では、時間帯によって駅員さんが不在となる駅があります。
これが実はややこしいのですが、前述の関山、二本木、北新井、南高田駅は終日無人駅ですが、その他の新井、上越妙高、高田、春日山駅は日中時間帯には駅員がいますが、深夜、早朝時間帯は無人となります。
こういう駅では、日中時間帯は全部の車両のドアが開きますが、無人の時間帯はワンマン運転の列車は2両目のドアは開きません。
深夜、早朝時間帯ですから乗降客も少ないため、今まで大きなトラブルになったという報告は来ていませんが、地域外からいらっしゃる観光客の皆様方は戸惑いを覚えるかもしれません。
何しろ、地元だけで通じるローカルルールですから。
都会人が意に介さないもう一つのローカルルール
都会からのお客様がローカル鉄道にやってきて戸惑うもう一つのことはドアの開閉です。
ローカル鉄道ではドアは自分でボタンを押して開けなければ、自動では開きません。
駅に到着して「さあ、乗ろう」、あるいは「降りよう」としても、自分でボタンを押さなければいつまでたってもドアは開きません。
ときどき、到着してボーっとしていると、後ろから地元の人がドアボタンを押してくれたりする光景が見られますが、都会の電車ではありえませんから、皆様戸惑ってしまいますね。
乗ったら閉める!
ところが、それだけではありません。
田舎の駅では反対側から来る列車の待ち合わせなど、数分間停車することがよくあります。
そういう時はどうするかというと、最後の人は自分で「閉」のボタンを押して降りていきます。
あるいは乗車してきて、他に乗る人がいなければ席に座る前に「閉」のボタンを押してドアを閉めます。
その理由は車内温度の保持です。
冬の寒い時期や夏の猛暑の頃もそうですが、ドアを常時開けっ放しにしていると、せっかく空調を効かせた車内の温度が外に逃げてしまいます。
それを防ぐために、乗るときも降りるときも、自分が最後で他にお客様がいないようであれば、「閉」ボタンを押してドアを閉めるのがマナーとしてのローカルルールとなっているのです。
これは都会の皆様方は全く意に介しませんが、これを知らずに最後に乗り込んだまま開けっ放しにしていると、地元の乗客の中には「ちゃんと閉めてください。」と強い口調で言う人や、自分から立ち上がってドアを閉めに行く人もいます。都会からやってきた人は自分が何を言われているのか理解しないまま、不思議な顔をしている光景を時折見かけることがあります。
ずっと昔、昭和の時代に東京の地下鉄銀座線では、赤坂見附付近など分岐器を通過するときに、電源が切れて数秒間車内の電気が消えることがありました。
走行中の地下鉄の車内灯が突然消えて車内が真っ暗になるのですが、何事もないように動じないのが都会人で、「えっ?」と驚いたそぶりを見せるのは田舎モンと言われていました。
今の時代は、電車に乗るときは自分でドアを閉める。最後に乗ったら、あるいは最後に降りるときには「閉」ボタンを押して自分でドアを閉める。
これをやらないと、「都会の人はマナーを知らない」と言われてしまうのが、田舎の電車のローカルルールなのです。
新1年生の皆様、ご利用をお待ちいたしております。
※本文中に使用した写真はすべて筆者撮影のものです。