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アップルのAI、NVIDIAに依存せず グーグル半導体で「Apple Intelligence」訓練

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:REX/アフロ)

米アップルはこのほど、自社のAI(人工知能)システムである「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」の基盤となるAIモデルが、米グーグルが設計・開発したプロセッサーで事前学習されたと明らかにした。これは、アップルを含むテクノロジー大手が最先端AIのトレーニングにおいて、米エヌビディア(NVIDIA)の代替品を探していることを意味する。

アップルは2024年7月30日に公開した技術論文で、グーグルの独自半導体「TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)」をAIモデルのトレーニングに活用していると述べた。同社はこの日、開発者向けにApple Intelligenceのプレビュー版を公開した。

オープンAIやMSなど、NVIDIAのGPUを競って購入

米CNBCによれば、エヌビディアのGPU(画像処理半導体)は先端AIモデルのトレーニングチップ市場を支配している。それ故に必要な数量を確保することが困難な状況にある。

米オープンAIや米マイクロソフト、米アンソロピック(Anthropic)はいずれも、自社のAIモデルにエヌビディアのGPUを使用している。グーグルや米メタ、米オラクル、米テスラなどの他のテクノロジー企業も、自社AIシステムやサービスを構築するために、エヌビディアのGPUを競って購入している。

メタのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)とグーグルのスンダー・ピチャイCEOは、このほど、自社を含む業界がAIインフラに過剰投資している可能性があるとコメントした。その一方で、両氏は、投資を行わないことによるリスクも非常に高い、との見解を示している。

ザッカーバーグ氏は米ブルームバーグ通信の番組で、「ここで後れを取ることのデメリットは、今後10年から15年で最も重要になる技術分野で優位なポジションを失うことだ」と述べた。

アップルが期待するグーグルのTPU

アップルは今回公開した論文で、自社のAIモデル「AFM(Apple Foundation Model)」が「クラウドTPUクラスター」上で訓練されたと説明した。スマートフォン「iPhone」などの端末上で動作するAIモデル「AFM on-device」は2048個の「TPU v5p」、サーバー側で動作する「AFM-server」は8192個の「TPU v4」で訓練されたという。

英ロイター通信によると、これらの2つは、2023年12月に発表された先進的なTPUである。アップルの技術者は、グーグルの半導体を用いれば、論文で示したAIモデルよりも大規模で洗練されたモデルを作ることができると述べ、TPU導入の効果に期待を寄せた。

2024年7月30日に開発者に向けて公開したApple Intelligenceのプレビュー版には、AIアシスタント「Siri」の刷新された外観や、より自然な言語処理、テキストフィールドでのAI生成サマリーなど、いくつかの新しい機能が含まれている。アップルは、今後1年間で画像生成や絵文字生成、Siriの強化版といったAIに基づく様々な機能を展開する予定だ。

Apple used Google's chips to train two AI models, research paper shows
https://www.reuters.com/technology/apple-says-it-uses-no-nvidia-gpus-train-its-ai-models-2024-07-29/

グーグルもエヌビディアの主要顧客

グーグルは2015年に機械学習のトレーニングや推論に特化したTPUを社内業務に導入した。現在はTPUを自社のクラウドサービス「Google Cloud Platform(GCP)」を介して提供している。また、2024年5月に、第6世代のTPU「Trillium」を発表している。

それでもグーグルはエヌビディアの主要顧客の1社である。AIシステムのトレーニングにはTPUだけでなく、エヌビディアのGPUも使用している。クラウドサービスでは、エヌビディア技術へのアクセスを提供するサービスを展開している。

筆者からの補足コメント:
エヌビディアは最も需要のあるAIプロセッサーを手がける企業と言われています。グーグルのほか、米アマゾン・ドット・コムなどのクラウドコンピューティング企業も独自AI半導体を開発しています。しかしロイター通信によれば、エヌビディアのこの分野における市場シェアは約80%。一方、グーグルのビジネスモデルはエヌビディアと異なります。半導体やシステムなどを単独製品として販売するのではなく、Google Cloud Platformを介してそれら技術へのアクセスを販売するというものです。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年8月14日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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