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月見フォカッチャ、白モスなどが大ヒット 期間限定商品に見る「変化するモス」と「不変のモス」

圓岡志麻フリーライター
2022年9月、各社の月見商戦に参加し話題となった月見フォカッチャ

モスバーガーと言えば、1972年にスタートした日本発のバーガーチェーン。生野菜には生産者の顔が見える国産野菜を使用するなど、素材にこだわった商品づくりが特徴だ。派手な宣伝などは行わないため、ともすればお客に情報が伝わり切っていないところもある、真面目な企業というイメージが強い。

そのモスバーガーに、このところ変化が表れている。

80万食を8日間で売り切った月見フォカッチャは一時販売休止に

記憶に新しいのが2022年9月に発売された「月見フォカッチャ」だ。マクドナルドを始めロッテリア、ウェンディーズ・ファーストキッチン、ケンタッキーなどなどが群雄割拠する月見商戦に敢えて参戦、ということでも、従来の「真面目なモスバーガー」のイメージには反するところ。

加えて、月見フォカッチャの発売に合わせ、メタバース上の「月面空間」にオープンした期間限定ショップ(9月6日〜16日限定)も先鋭的なアイディアだ。外国人のコスプレなどでもしばしばSNSで取り上げられ、今も人気のあるアニメ「美少女戦士セーラームーン」とコラボしたことも話題となった。

結果、月見フォカッチャは期間中に販売予定の半分にあたる80万食分を8日間で売り切ることに。一時は販売休止の事態となった。

しかしこうした飛び抜けた売れ行きは今回に限らない。

2021年7月には、30年その姿を変えなかったモスの定番商品、「モスチキン」の夏限定バージョン「ホット スパイスモスチキン」を発売。その年は2ヵ月間で190万本と、通常のおよそ2倍を販売した。

2022年7月には50周年にちなんで、看板商品のモスバーガーを変身させた「白いモスバーガー」を発売。販売目標を大きく上回る350万食を販売した。

はみ出るチーズソースが印象的な白いモスバーガー
はみ出るチーズソースが印象的な白いモスバーガー

以上のように、期間限定品のヒット作が目立ってきているのだ。

夜モス、金曜日限定、「肉の日」……日時限定品戦略

また一方でモスバーガーでユニークなのが、日時限定品である。15時以降限定の「夜モス」や、金曜日限定商品の「ごちそうバーガー」シリーズだ。毎月29日の「肉」にフォーカスした商品もある。

「肉の日」対応や日時限定は他のチェーンでも行っており、マクドナルドにはバンズをマフィンに変えた「朝マック」、パティなどの具材の量を倍にした「夜マック」があり、ロッテリアはモーニングに対応している。しかしサイクルの多さやメニューのバラエティではモスが一番だろう。

限定品に惹かれる心理に訴求するとともに、話題性、「今日は金曜日だからモスに行こう」という動機づくりなど、日時限定商品は客を惹きつける高いポテンシャルを有している。

さらにモスの固定客において根強いのが、「モスに行ったら必ずコレを食べる」という定番商品ファンだ。ちなみにモスフードサービスによると、人気ランキングは1位モスバーガー、2位テリヤキバーガー、3位スパイシーモスチーズバーガーとのこと。

業績としては、2021年度の売上高が784億4700万円(前年同期比9.0%増)、営業利益が34億7300万円(前期比144.2%増)。いずれも過去毎年、前年度を上回る数値で推移してきている。

11月11日に発表された2022年4月1日〜9月30日の第2四半期の業績は、売上高が414億5700万円(前年同四半期比7.6%増)。ただし営業利益は8億5900万円(同59.3%減)、経常利益9億8500万円(同53.9%減)となった。「ウクライナ情勢の長期化や世界的な原材料費の高騰、急速な円安による調達費用の上昇、物流費の高騰など、大幅なコスト増に直面」との現状説明がされている。

なおこの期間、出店店舗は14店、閉店6店で8店舗の増。また物販やオンラインショップなど新規事業も展開している。

このように世界的なコストアップ要因の影響は大きく受けているものの、ブランド力アップを含め事業拡大を行っている印象だ。

コロナ禍でテイクアウト業態が強いという社会背景的な理由もあるが、「変化するモス」と「不変のモス」の絶妙なバランスが、継続的なファンに加えて新たな客層を獲得してきているのではないだろうか。

「必要なのはおいしさを掘り下げていくことではない」

まず、最近の期間限定商品について見ていこう。

モスの変化を表す一連の商品開発に関わってきたのが、商品開発部部長の濱崎真一郎氏だ。

濱崎氏はもと「モスアカデミー」という教育部門に在籍していたという営業畑の人物。商品開発を担当するようになったのは2020年という。つまり、上記説明した商品のプロデューサーということになる。

濱崎氏は商品開発の方針を次のように説明する。

「当社はおいしいものをつくろう、という方針でやってきました。そして『モスはおいしさで一番』と言ってくださるお客様も多くいらっしゃいます。でも当然、おいしいものは他社さんも出しているわけですね。ファンを広げていくために何が必要かというと、おいしさを深掘りしていくことではない、と思うわけです。食べている姿を想像しながら、シチュエーションも含めて商品をおいしく味わって頂くのが私たちの仕事と考えています」(モスフードサービス 商品開発部部長濱崎氏)

例えば月見フォカッチャも「シチュエーションを味わう」商品に数えられるだろう。2022年は各社が参戦する月見商戦となり、各社の商品を食べ比べたり、「月見コンプリート」を目指す人も多数いたようだ。

実はフォカッチャを使った商品は7年ぶりの復活。2000年から2014年まで発売されていた人気商品である一方で、ソースが垂れて食べづらい等の欠点があり、以降商品化されていなかった。復活の要望が高かったこともあり、今回、食べやすく改良を加えた上で月見フォカッチャとして再挑戦したのだという。

長くなるため詳述しないが、ホット スパイスモスチキンも過去何度も発売されたもの。売れ行きが伸びなかった商品をひと工夫して復活させた。白モスも、定番のモスバーガーにチーズソースを加えただけである。

過去の発売商品を発想の転換でリニューアル

つまり、最近の商品に象徴される「変化するモス」は目新しく感じられるが、既に発売された商品をもとに発想の転換を加えたものなのだ。

実は日時限定商品も、よく見ると既存の商品をうまく組み合わせたり、過去の発売商品をアレンジしてつくられているものがある。

金曜日限定の「ごちそうチリバーガー 2種のチーズ」はホットチリソースと2種類のチーズ、それにオニオンリングが挟まれているのが特徴。このオニオンリングはサイドメニューとしても提供されているものだ。

金曜限定のごちそうチリバーガー 2種のチーズ。オニオンフライを挟んでボリュームアップ
金曜限定のごちそうチリバーガー 2種のチーズ。オニオンフライを挟んでボリュームアップ

29日限定の「にくにくにくバーガー」はパティで焼肉とチキン、レタスを挟んだ「肉だらけ」のバーガー。過去のボツメニューを限定で復活させるというTV番組企画がもとになって再販売された。過去商品は組立の難しさやオペレーションの複雑さがネックでボツになったが、現商品では具材を変え、作り方をシンプルにしたという。

これらのことからはモスの「商品を大事にしたい」というこだわりが感じられる。従来の真面目なモスのイメージ通りだ。

また、現実的な理由もあるそうだ。

モスバーガーのグランドメニューはサイドを除いてもバーガー、ライスバーガー、バンズを野菜にした「菜摘」など28種類。マクドナルドやロッテリアの20前後に比べて多い。また注文を受けてからつくるアフターオーダー方式のため、提供時間を短くするためには店内オペレーションにもシンプルさが求められる。

客の要望などからメニュー化したい商品があっても、簡単には増やせないのだという。

販売期間が限られている期間限定、日時限定商品なら、オペレーションにあまり影響しない範囲でメニューにバラエティ感を持たせることができる。また既存商品の活用もオペレーションを増やさないための策になっているそうだ。

小さな変化の積み重ねで「不変のモス」を実現

以上説明してきたように、モスバーガーでは期間、日時限定商品を活用して、新しさや話題性を訴求し続けている。一方で、「不変のモス」を代表する定番商品についてはどうだろうか。

人気商品ランキングで不動の2位を維持しているのがテリヤキバーガーだが、2022年3月にはテリヤキソースをリニューアルした。

「味の好みは時代によって変わります。今は『甘すぎない』味が好まれるようになっているので、甘味を抑え、味にキレを持たせました。その他にも公表していないものを含めて、マイナーチェンジは常に行っています」(濱崎氏)

不変と言っても、小さな変化の積み重ねが、変わらぬおいしさとなって客に届けられているわけだ。

ソースをリニューアルしたテリヤキバーガー。同タイミングでクリームチーズテリヤキバーガーも発売しており、こちらは女性と若年層から支持が高かったそうだ
ソースをリニューアルしたテリヤキバーガー。同タイミングでクリームチーズテリヤキバーガーも発売しており、こちらは女性と若年層から支持が高かったそうだ

濱崎氏によると、モスバーガーのボリュームゾーンは30〜40代男女。昔からのファンである50〜60代を含めて、近年では全体の利用が増えた結果、どの世代の客も増えてきている。とくに、どこの企業にとっても課題である若い世代の取り込みにも成功しているということになる。

例えば若い世代への訴求が高かった商品としてあげられるのが「白いモス」だ。Snow Manメンバーの起用やSNSにアップして楽しめる店舗のフォトスポット、割引率の高いセットメニューなどが功を奏した。

白モスの発売時にオープンした「白モス 恵比寿東店」。看板からスタッフの制服まで真っ白な期間限定ショップ
白モスの発売時にオープンした「白モス 恵比寿東店」。看板からスタッフの制服まで真っ白な期間限定ショップ

以上、「変化するモス」「不変のモス」の視点で、近年のモスバーガーの商品について解説してきた。一見変化が著しいようだが、その基盤となっているのが商品づくりへの真面目すぎるほどのこだわりである。変化しているものの中心にぶれない軸がある。この二重性が、新旧のファンを惹きつけていると言えるだろう。

心配なのが、変化を急ぎすぎる可能性だ。とくにブランドイメージや規模が急激に変化・拡大すると、社内の体制が追いつかなくなった結果、ブランドイメージを大きく落としてしまうこともよくある。

本来が真面目なチェーンなので杞憂かもしれないが、「不変」の部分はこのまま持ち続けて欲しいものだ。

※画像はすべてモスフードサービス提供

フリーライター

東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。

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