デリバリーの「がっかり」に挑んできたドミノの強さとは? 次に狙うのはコロナで生まれた"第3の市場"
飲食等へのすべての制限が解除された今、外食売上げは戻りつつあるものの、食の習慣がコロナ前に完全に戻ったわけではないようだ。
コロナ以前より高まってきていたのが、自炊のバリエーションとしての内食の需要。そして、コロナの社会状況ではテイクアウト、デリバリーへのハードルがより低くなり、外食、自炊(+内食)に第3の市場が生まれた。つまりコロナによる外出制限などがなくても、外食や自炊の代替としてテイクアウト、デリバリーを利用する層である。この第3の市場は今後どのような展開を見せるのだろうか。
■デリバリー市場活況の中、店舗展開を加速
注目されるのが、宅配ピザの国内トップであるドミノ・ピザの動向だ。
ドミノ・ピザは2019年7月時点で600店舗を展開していたが、翌年コロナ禍に突入してすぐ、1000店舗を目標とした長期成長戦略を開始。2022年3月には900店舗を達成した。とくに2021年12月の島根県出店によって47都道府県を制覇したことになり、島根県では喜びの声で沸いたようだ。
なお、店舗数では2位のピザーラは535店舗と、2006年に500店舗を達成して以来大きな伸びは見せていない。またコロナに強いファストフード業態からマクドナルドの例を挙げると、2020年の2906店舗から2022年の2942店舗と、増えてはいるもののその規模からするとわずかな伸びだ。
コロナ禍では多くの飲食店がデリバリーに参入し、消費者にとってのメニューの選択肢も増える中、同社がここまで成長を見せている理由はどこにあるのだろうか。今回、来日のタイミングが合い、取材の機会を得たドミノ・ピザ・ジャパン代表取締役のジョシュア・キリムニック氏に、デリバリー市場における同社の戦略や今後について聞いた。
■コロナ前に比べ87%の伸び
同社の2021年6月期の売上げは775億円。キリムニック氏によればコロナ前の2018年6月期に比べ87%の伸びとのことだ。主要な理由は店舗数の拡大。コロナ前は連休やクリスマスといった特別な機会に注文が集中する傾向が高かったが、コロナ禍ではより日常的な利用へと需要が移行したと言える。
デリバリーに加えて持ち帰りも増えた。ただしデリバリーと持ち帰りの比率については、コロナ以前と現在で変化は見られないという。これは米国など他国ではデリバリーが圧倒的に増えた中「日本特有の興味深い現象」(キリムニック氏)だとのことだ。
外食業態全体を見ると、2019年の外食市場のうちテイクアウトが13%、デリバリーが3%であったのに対し、2021年はテイクアウト19%に対しデリバリーが9%と、やはり劇的に変わったというわけではないようだ(エヌピーディー・ジャパン2022.7.5発表のデータより)。
ドミノ・ピザにおける両者の比率が変わらない事象に関しては、持ち帰りでお得になるサービスを常時展開しているほか、店舗数が多くアクセスの面で有利なことが持ち帰りニーズを高める理由となっているのかもしれない。
さて、前述のように同社ではコロナ前より、1000店舗達成を掲げた長期成長戦略を展開してきている。
「目的はひとえに品質、サービス向上に尽きる。お客様に新鮮で熱々の商品を、オンタイムでアクセスよく受け取れるように店舗を拡大してきた」とキリムニック氏。最大のメリットはデリバリー時間の短縮だという。全店平均では20分ほどとなっており、10〜15%は12分以下でのデリバリーが可能となっているそうだ。
■ドミノ品質に直結する「スピード」という価値
以上の説明は、数多の飲食店が参入してきたデリバリー市場での同社優位の理由でもある。
つまりドミノ・ピザが米国でスタートして以来の60年間で、もっとも重要視してきた「スピード感」だ。できたてのフレッシュ感は料理のおいしさの大きな部分を占める。デリバリーの時間が短いほどおいしさをそのままに届けられるからだ。
店舗数の増加でデリバリーする距離自体を縮めたほか、オーダーシステムやオペレーションなども効率化を図ってきた。
また、デリバリーを前提とした調理法や容器の工夫、運搬用の保温バッグなども、できたてのおいしさを守るため長年培われてきたノウハウだ。デリバリースタッフの教育にも力を入れている。つまり配達時間や鮮度を保ち運搬するノウハウは、ドミノ・ピザの命綱と言っても過言ではないのだ。
実は容器や盛りつけについてはコロナでデリバリー市場が拡大し始めた当初からデリバリーが定着した昨今に至るまで、なかなか改善が見られない課題でもある。デリバリーで料理を頼んで
1、冷めていて湿気でべちゃべちゃ
2、盛りつけが崩れている
3、トッピングが足りないなど注文の間違い
などの「3大がっかり」を誰もが経験しているだろう。苦情を言っても、出前館やウーバーイーツといった業者が間に入っている場合、その声が実際店舗に届けられることは少ない。だからこそ店舗も課題に気づくことができない。客の顔が見えないデリバリー特有の弊害だ。
この点、ドミノ・ピザでは社の方針として、デリバリー業者とはオーダーシステムのみの契約とし、配達は自社のドライバーのみで行っている。つまり、出前館やウーバーイーツで注文しても、ドミノのスタッフがデリバリーをしてくれるわけだ。ドライバーを通じ社の顔が見えるという安心感を消費者に届けられるメリットもある。
なおドミノ・ピザでは伝統的に、フランチャイズ店舗の店長は社内から輩出されており、店長候補として配達ドライバー経験は必須という。チェーンの戦略におけるデリバリーの重要性を示すエピソードだ。
■狙いは「日常的な利用」による売上げ向上
今後同社ではデリバリー時間をより短縮する意味でも店舗数拡大を続けていく予定で、2033年に2000店舗を目標としている。
こうした店舗数拡大によって同社が狙うのが、日常的な利用による売上げ向上だ。その意気込みが表われているのが、2020年5月に発表された「デリバリー最低注文金額完全撤廃」だ。一人用のセットやピザライスボウル、シェイクなど、個食に対応するメニューのバリエーションも増やしている。
そのほか、現在同チェーンが力を入れているのが国産食材の採用だ。それを象徴するメニューが、2022年4月に第一弾が発売された「クワトロ・産直ドミノ」。日本全国の食材を楽しめるピザを販売するほか、「産直ドミノ基金」を立ち上げ、売上げの一部を生産者支援の取り組みに充てるという。マルシェや就農体験ツアーなど、生産者と消費者をつなぐ試みも行われた。
7月4日には第二弾として夏の「クワトロ・産直ドミノ」が発売されている。
キリムニック氏はこうした取り組みを通じ、「食品業界を構成する一員として日本の農業をサポートしていきたい」と語る。商品に使用する国産食材のボリュームを増やし、日本の農業の底上げを図っていくことを最終的なゴールとしてイメージしているそうだ。
さて、同社の今後を考えたとき、消費者としても気になるのが原材料費やエネルギー費などのコストアップ要因だ。値上がりの可能性も視野に入れているのだろうか。この質問に対しキリムニック氏は、
「食材やエネルギーの値上がりは今後も続くだろうが、我々はコストベースに対する挑戦は常に続けてきたから慣れている。まず受注の増加によってコストを吸収する。そして6ヵ月先を見据え、コストを削減していく」と語る。
店舗拡大により店舗スタッフやドライバー等の人件費も増えるが、デリバリー時間を短縮できるなどバリューチェーン全体として効率がアップするため、吸収することが可能だそうだ。
ここで、今回キリムニック氏への取材後に起こった事件ではあるが、大きな話題となった「デリバリーLサイズピザを買うとMサイズピザ2枚無料!」キャンペーンについて触れずにおくことはできないであろう。
詳細はすでに他の記事で報じられているのでそちらに譲るとして、本キャンペーンには「いつも注文しないピザにもチャレンジして欲しい」という意図が込められていた。ファンサービスで行ったことが、反響が高すぎて裏目に出てしまったのは残念だった。ドミノ・ピザでは一部店舗での注文を一時中止するなどの対応を行ったほか、ピザが食べきれなかった人に向けてピザの蘇らせかたもツイートしていたようだ。
消費者目線だけでなく、サプライチェーンの終点まで大きな流れで商品やサービスを考えていかねばならない時代だ。これはグローバル企業であるドミノ・ジャパンだけでなく、日本の多くの企業に言えることだろう。
今回、コロナで活況のデリバリー市場において同社が強い理由を見てきた。一つにはコロナ以前からの店舗拡大戦略も含め、デリバリーという価値を重視し、品質向上を追求してきた結果が表出されているということだろう。またコロナにおいて顕著に見えてきた「個食」ニーズなど、新たな客層を取り込むことにより、第3の市場においてもパイオニアとしての強みを生かしていくのではないだろうか。
※写真はすべてドミノ・ピザ・ジャパン提供