チキンバーガー専門店が突如に増加 "コロナ禍だから"誕生・成長した理由
チキンバーガーの潮流がついに日本にも到来した。
チキンやチキンサンドは、アメリカではハンバーガーと並ぶ大きな市場だ。よく知られているのがチックフィレィや、日本でもおなじみのKFCなど。
従来日本では、チキンバーガー(あるいはサンド)は、ハンバーガー店のメニューの一つとしてのイメージが強かった。KFCも、どちらかと言えばオリジナルフライドチキンの方がメインだ。
しかしここにきて、突如、日本にもチキンバーガーをメインとする専門店が増え始めているのだ。
2021年はチキンバーガー元年?
2021年5月にはロイヤルホールディングスの「Lucky Rocky Chicken」、8月には「鳥貴族」のTORIKI BURGERがニューオープンしている。
そしてワタミが展開する「bb.q オリーブチキンカフェ」も、日本でのスタートそのものはもっと遡るものの、2021年に店舗数を大きく延ばしている。
興味深いのが、いずれも、コロナの社会状況を背景に誕生、あるいは業績アップを実現していることだ。
鳥貴族ホールディングスは緊急事態宣言やまんえん防止等の状況下、居酒屋業態で苦戦を強いられたことから、コロナでも好調の、テイクアウト・デリバリーに強いファストフード業態の開拓を狙いTORIKI BURGERを開始した。
ロイヤルホールディングスも、さまざまな業態を展開しているため居酒屋より打撃は少ないものの、やはり中食、内食への対応を強化すべく、Lucky Rocky Chickenを立ち上げた。
bb.q オリーブチキンカフェの好調にも、やはり飲食業界全体の、テイクアウト需要の伸びが関係している。
ちなみに、KFCも日常的な利用を促すための取り組みとして、サンドメニューに力を入れている。
このように、コロナによって飲食業界が翻弄された2021年。だからこそと言おうか、チキンバーガー元年とも呼べるのである。
そして同じく2021年に誕生したチキンバーガーチェーンとして興味深いのが、7月に代官山、10月に渋谷道玄坂と相次いで出店したDooWop(ドゥーワップ)である。
同チェーンを特徴づけているのがブランディングの巧みさである。SNSを賑わせているフォトジェニックな店舗外観や内装、パッケージはその象徴。ミントブルーに赤のロゴ、タイルの内装を背景に映るチキンバーガーはおしゃれでおいしそうだ。コンセプトは古き良き50年代のアメリカ文化の現代風アレンジ、そしてクラフト感だという。
とくに代官山店の立地は、有名なおしゃれカフェが長年にわたり出店していた場所。代わって現れた同チェーンは話題となり、「おしゃれなチキンバーガーチェーン」のイメージを確立させた。
運営会社は80店舗以上を展開する焼き鳥チェーン
今回は同チェーンを運営するすみれに取材し、ブランドを支えるメニュー戦略や経営戦略について聞いた。
まず、全国に86店の焼き鳥店をチェーン展開するやきとり家すみれが、なぜチキンバーガーの専門店を始めたのだろうか。代表取締役の湯澤忠則氏は次のように説明する。
「理由は二つあります。まず、DX(デジタルトランスフォーメーション)などで外食の事業構造を変えて、新しい価値を生み出していく必要性を感じていたこと。ITと相性のよいファストフードにまず取り入れることを考えました。二つ目に、以前より、『なぜ日本にチキンバーガーの専門店がないのか?』と疑問に感じていた。チキンバーガーはアメリカでは大きな市場で、売上げ1兆円を超えるようなチェーンが複数あります。日本でまだ確立されていない市場に、日本初で挑みたいと考えました」
なお、すみれは飲食ブランドを複数展開するダイニングイノベーションのグループ会社。ダイニングイノベーションの抱えるブランドとしては他に、焼肉ライクなどがある。DXは新業態への取り組みとして2018年頃から視野にあったそうだ。
ではDooWopで実現されているDXとはどのようなものだろうか。
まず挙げられるのが注文システムだ。同チェーンでは店頭のセルフレジか、専用アプリでの注文に限られる。テイクアウトは最長で2日先まで、好きな受取時間を選べるのも特徴だ。事前に揚げて油切りをしておくという、フライドチキンの特性もDXと馴染みがよいそうだ。事前注文データにより必要数を準備しておき、あとはバンズに挟んでいくだけなので、調理過程でも効率アップを図ることができる。
非接触注文は感染を避けるための仕組みと思いがちだが、実は経営の上でもメリットは大きい。人件費を抑えることができ、その分のコストを商品品質に反映できるためだ。
DXにより高いコストパフォーマンスを実現
このことは同チェーンの価格設定を見ると明らかだ。
例えば、フライドチキンをキャベツといっしょに挟んだプレーンバーガーは290円という価格。もも肉100gを使用しており、それを挟むバンズもしっかりとした大きさでボリュームがある。原価率は50%を超えているそうだ。その他、BBQエッグやケイジャンHOTなど定番メニューは6種類で、こちらは360円。
ブランディングに重要な外内装、パッケージの費用については、SNS等での宣伝効果を高めるための広告費の一部として捉えているそうだ。
商品品質やコストダウンについてはもう一つ、10年以上鶏肉を専門に扱ってきた歴史も大きな役割を果たしている。
焼き鳥チェーンの展開という意味で、TORIKI BURGERとも比較できるだろう。TORIKIでは国産食材の使用、メニューの価格統一などに鳥貴族のノウハウを見てとることができる。同社では焼き鳥チェーンの強みをどう生かしているのだろうか。
「チキンサンドと言えばむね肉を使用する場合がほとんどですが、当チェーンでは日本人が大好きなもも肉を使用。10種類のハーブとスパイスで調味、衣づけした後、圧力フライヤーでやわらかく揚げています。すみれの加工工場を使っているので、カットや串打ちのノウハウも蓄積されている。また、定番メニューのソースはすべてすみれでも検討したり、実際に提供してきたもの。鶏肉との相性の良さが保証されているわけです」
その他、すみれの物流経路を活用できるのもコストダウンに結びついているそうだ。
ファストフードを越えた体験
確かに、期間限定商品のダブルトリュフソースバーガーを試食したところ、外側はカリッと、内側はジューシーでやわらかい。そして見た目はボリューム感があるが、スルッと食べられる不思議さがある。むね肉のようにパサパサしていないこと、また軽い生地のバンズに仕上げられていることに関係がありそうだ。
このように同チェーンでは、DX効果と焼き鳥専門店としての長年のノウハウが組み合わさり、「ファストフード」という言葉から思い浮かべるのとはまったく異なる体験を得ることができる。肝心の売れ行きはというと、代官山店では日に平均して600個程度を売り上げるほどだそうだ。およそ6割が女性で、ファミリーも多い。
こうした客層を反映し、サラダチキンを使用した揚げないチキンバーガーもメニューに加えている。低温調理でしっとりと仕上げているそうだ。バーガーに関してはフライドチキンとサラダチキンを2本柱とし、またもう一つのメイン商品であるフライドチキンもしっかり売っていきたいという。フライドチキンと相性がよいアルコール類も立地に合わせ提供する。
もう一つ、とくにテイクアウトで人気なのが「スライダー」だそうだ。「喉を滑り落ちていくほど小さい」ことから名付けられたアメリカではメジャーなミニバーガーで、同チェーンでは直系6.5cmほど。少し甘味のあるブリオッシュでむね肉のフライドチキンをサンドした。2個入りは390円だが、なんといっても印象的なのが、8個入りBOX(1500円)。持ち手がついたおしゃれなボックスは、一見、ドーナツやケーキのお土産のようだ。コロナでは家で過ごす時間をちょっと贅沢にする「手土産」需要が高まっているため、スライダーの人気が高いのも頷ける。
3月初旬からはさらにメニューのバリエーションが広がった。揚げないバーガーシリーズにチリビーンズテイストが加わったほか、スライダーの種類も充実。また、「飲むジェラート」など、スイーツも仲間に加わる。
このように、高いポテンシャルを感じさせるDooWop。チキンバーガー市場の広がりとともに、これから真価を発揮していきそうだ。
代官山や渋谷の店舗に関しては認知を高める意味もあり、カジュアルダイニングのような設えとしているが、将来的には大規模のFC展開を睨み、店舗の形も変えていくとのこと。メジャーファストフードチェーンもベンチマークとして視野に入っており、郊外、商業施設内、ロードサイドなどにも展開していく予定だ。
なお、ちょっと気になるのが、ブランド名の由来である。同社によると、言葉じたいはアメリカの1950〜60年代に盛んになった合唱のスタイルのことだそう。「お客様、取引先様、スタッフ、関わるすべての方々が織りなすハーモニーで 美味しいチキンバーガーを作っていきたい」との思いが込められているという。
以上、2021年に誕生したチキンバーガーチェーンを取り上げ、その可能性を探ってきた。チキンバーガー市場の活況も楽しみであるが、一方で、ファストフードチェーンでのDXが進むことで起こる変化も見逃せない。