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地元ファンはマーリンズとデレック・ジーターCEOを見放したのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今やデレック・ジーターCEOはマイアミでは悪役的存在なのか?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 シーズンが開幕したばかりなのに、新オーナー体制になったマーリンズが早くも危機的状況を迎えている。明らかにファンがチームから離れてしまっているのだ。

 一昨年のワールドシリーズ王者、シカゴ・カブスを迎えた、3月30日のシーズン開幕戦こそ3万2151人のファンが球場に足を運んだが、それ以降は1万2034人、1万3422人、1万428人──と悲劇的な観客動員に終わっている。

 元々マーリンズは観客動員に問題を抱えていたチームだ。昨年も平均観客動員数は2万395人でMLB28位(ナ・リーグ最下位)という状況だった。それでもカブスはMLB屈指の人気チームで、昨年6月に実施された同一カード4連戦では平均2万4679人と、平均以上の動員数を記録していた。

 開幕戦はお祭りイベントなので比較対象外にすると、今シーズンはカブス相手に平均で1万2000人にも満たない動員数に留まっているのだ。もちろんカブスの人気が急落したわけではないので、全体的に1万以上の地元ファンが減っていることを意味しているということだろう。

 この傾向はカブスに限ったわけではない。カブス4連戦の後、現在レッドソックスとの2連戦が行われている。レッドソックスもカブス同様、MLBを代表する人気チームであるにもかかわらず、初戦は1万1113人、第2戦も1万4953人しか集客できていない。マーリンズのファン離れはかなり深刻なことは一目瞭然だろう。カブス、レッドソックス相手でこの有様なのだから、地方都市の人気薄チームとの対戦ともなれば1万人を切ってしまう可能性もあるのではないか。ちなみに観客動員に苦労していたマーリンズといえども、昨年のホーム試合で1万人を切ったことは一度もなかった。

 昨年9月にチーム売却が正式に認可され、新オーナー・グループに名を連ねていたデレック・ジーター氏がCEOに就任し、球団経営に乗り出した。そして真っ先に断行したのが年俸総額の削減だった。ジャンカルロ・スタントン選手を筆頭に、ディー・ゴードン選手、マルセル・オズナ選手、クリスチャン・イエリチ選手らの主力選手を次々に放出し、さらにイチロー選手との年俸200万ドルの契約オプション権も破棄し袂を分かっている。

 チームがあまりの過激な人員整理を断行したことで、オフの間はファンはおろか残った選手からもジーターCEOや新経営陣への不信感が溢れ出ていた。もちろん誰1人として大幅に主力選手を失ったチームが勝てるとも考えていなかった。そんな状況下で迎えた2018年シーズンだけにファンが離れてしまうのは当然のことではあるのだが、ここまでシビアな反応が返ってくるとは新経営陣は予想できていたのだろうか。

 開幕戦でESPNのインタビューに応じたジーターCEOは以下のように話している。

 「我々の目標はシーズンを重ねながら勝てるチームを築き上げていくことだ。そのためにもメジャー、マイナーともに質の高い組織にしていかねばならないし、特にマイナーシステムを強化していかないといけない。そうした組織を短期間で完成することはできない。時間がかかる作業だ。我々はしっかり青写真を描き、それに基づいて前に進んでいる。時には苦渋の決断を下す時もあるが、すべての決断がチームのために必要なものだ。もちろん今年も勝つことを諦めているわけではないし、選手たちにもしっかり戦ってくれるように伝えている。

 残念ながら現在は誤解が生じており、コミュニティからサポートを受けることができていない。しかし個々のファンからはサポートを受けているし、新たに20社以上の企業パートナーが集まってくれ、我々を信頼してくれている。今後もコミュニティに向け発信を続けていくし、ファンの声を聞きながら彼らが楽しめる環境を整えていきたい。まだまだビジネスとしての野球について学んでいる最中だが、優秀な人たちに囲まれながら日々充実している」

 現役時代は球界を代表するナイスガイだったジーターCEOの好感度は、マイアミの地で完全に失墜してしまっているようだ。一度失った信頼を取り戻すのは簡単ことではない。果たして彼は地元ファンを球場に呼び戻すことができるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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