『銀魂』の坂田銀時と『るろうに剣心』の緋村剣心、戦ったら勝つのはどっち?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しております。さて、今日の研究レポートは……。
4月23日から、映画『るろうに剣心 最終章』が公開される。剣心といえば「人斬り抜刀斎」の名を馳せた幕末最強の剣客だけど、奇しくも同じくジャンプ系の『銀魂 THE FINAL』も大ヒット上映中だ。その主人公は、かつて「白夜叉」と呼ばれた最強の攘夷志士・坂田銀時。
この2人、共通点がいろいろある。
どちらも「週刊少年ジャンプ」に連載されたマンガの主人公で、最終章の映画が同時期公開……というだけではない。『銀魂』の坂田銀時も、『るろ剣』の緋村剣心も、すごい実力と実績を持っているのに、それぞれの考えで、いまは真剣を封印している。かぶき町で万事屋を営む銀時は「洞爺湖」と刻まれた木刀を腰に差し、「不殺(ころさず)」の誓いを立てた剣心は、刃と峰が逆についた「逆刃刀(さかばとう)」を佩(は)いている。つまり、ともに「斬れない刀」で戦っている!
そんな2人が戦ったら、いったいどうなるだろうか? この気になるテーマについて、空想科学の視点から考えてみよう。
◆刀で人間を飛ばせるか?
真剣を木刀と逆刃刀に持ち替えたいまも、銀時と剣心の腕は衰えていない。
彼らの剣は人を斬ることはできないが、何人も同時にぶっ飛ばしたりしている。こともなげにやっているが、剣という軽いものでそれよりはるかに重い人間を飛ばすのは、大変なことである。
そのすごさを具体的に考えよう。銀時と剣心が吹っ飛ばす敵の人数や距離はシーンによってさまざまだが、ここでは公平に「体重70kgの敵5人を一振りで5m吹っ飛ばす」と仮定する。
注目すべきは、木刀と逆刃刀の重さの違いだ。一般的な木刀は重さ600gほどで、日本刀の重さは1kgくらい。逆刃刀は、刃と峰が逆になっているだけだから、やはり重さ1kgと考えるなら、剣心の持つ逆刃刀は、銀時の木刀より1.67倍重いことになる。
人間を水平に叩いて5m飛ばすには、時速43kmのスピードを与える必要がある。体重70kgの人が5人なら、総重量は350kg。自動販売機みたいな重さであり、剣心がこれを重さ1kgの逆刃刀で叩いて時速43kmで打ち出そうと思ったら、剣をマッハ30で振らねばならない。
一方、銀時の木刀は、重さが剣心の逆刃刀の1.67分の1だから、逆に1.67倍のスピードが必要となって、それはマッハ50だ。
――などとアッサリ書いておりますが、もう卒倒しそうなスピードですね。マッハ30でさえライフル弾の10倍も速い。「軽いものをぶつけて重いものを飛ばす」というのは、ムチャクチャ大変なのだ。
◆すごいシーンから考える
このすごすぎる銀時と剣心が対決したら、どうなるのだろうか。
もちろん、2人は「5人をぶっ飛ばす」以上のことはいくらでもやっていて、たとえば筆者が目を見張ったシーンには、こんなものがある。
剣心……比留間伍兵衛という悪漢に逆刃刀を打ち込み、道場の床にめり込ませた。この場面を細かく計算すると、逆刃刀を振り下ろした速度はマッハ167。
銀時……ヘリコプターから投じられた三味線の弦が木刀にからみついたので、木刀を振り下ろして、ヘリコプターを地面に叩き落した。このときの木刀の速度はマッハ213。
これらのシーンを元に考えるなら、剣心の逆刃刀はマッハ167、銀時の木刀はマッハ213。
さあ、こんな2人が真正面に対峙し、長い静寂を経て、まったく同時に剣を振るったとしたら――。
速度差がマッハ46もあるため、銀時の木刀が剣心の体に届くほうが早い。が、その時間差は、たったの0.00016秒である。
これがスポーツなら、少しでも速い銀時が勝ちになるだろう。だが、実戦はそうではない。0.00016秒というのは、日本最速の新幹線はやぶさでさえ1.4cmしか進めない時間。あまりに短時間であり、打たれた剣心の体から力が抜けるには、もう少し時間がかかるだろう。
つまり剣心の逆刃刀も、何事もなかったようにマッハ167で銀時の体に打ち込まれる。この勝負、相打ちということだ。
◆2人が剣を打ち合わせたら?
いや、待て待て。剣の勝負において、両者が「いち、にの、さん!」と同時に斬り合う……などという光景は考えにくい。第一撃は、木刀と逆刃刀を打ち合わせることになるのではないだろうか。
そうなると、勝負の展開は予断を許さない。銀時と剣心がガキッと互いの剣を打ち合わせたら、どちらかが折れてしまうかもしれない。
一般には、木刀のほうが弱そうなイメージもあるが、銀時の木刀は大砲の砲身に突き刺さるほど頑丈なので、どちらが折れるかはやってみなければわからないだろう。
そして、どちらかの剣が折れたら、それは折れなかったほうの勝利を意味する。
では、どちらも折れなかったら?
それはそれで大変なことになる! 科学的に考えれば、逆刃刀と木刀がぶつかり合ったエネルギーで、猛烈な音と光と熱が発生すると思われるのだ。
エネルギーの10%ずつが音と光に、80%が熱に変わったとしよう。ぶつかった時間が0.001秒の場合、人間が失神する限界(130デシベル)の10億倍の轟音が鳴り響き、互いの体には真夏の太陽の460万倍もまぶしい光が浴びせられ、鉄102kgを溶かしたうえに蒸発させる熱が発生する。
銀時も剣心も失神は避けられず、木刀も逆刃刀も発火炎上、いや、ひょっとしたら2人ごと蒸発してしまうのでは……。
そう、つまり引き分け。あまりに凄絶な引き分けである。結局、すごすぎる2人の戦いは、どうやっても悲劇を呼ぶということだ。
考察の方法によっては、違う展開も考えられると思うけど、「ここまで高い能力は、やっぱり封印していただくしかないか……」というのが、筆者の結論です。