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MLB挑戦は早くても2年先?!山本由伸の前に立ちはだかる「国際FA選手」という資格

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
山本由伸投手のMLB挑戦はいつになる?(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【今や名実ともにNPB最強投手になった山本投手】

 世の中はオミクロン株の感染拡大によりラグビーやバスケットの公式開催が影響を受ける中、いよいよプロ野球は2月1日のキャンプインまで秒読み段階となった。

 一方で自主トレ中の選手たちの間で陽性者が続いているが、各チームともに準備を進めており、何とか問題なく予定通りに始動できそうだ。ロックアウトが続くMLBではキャンプ開催が遅れそうな状況だけに、NPBだけでも多くの明るいニュースを届けて欲しいところだ。

 中でも2022年シーズンの動向に関心を寄せてしまうのが、オリックスの山本由伸投手ではないだろうか。

 昨シーズンは23歳の若さでオリックスの大黒柱に君臨し、投手4冠(最多勝&最優秀防御率&奪三振&最高勝率)を獲得するなど、チームのリーグ優勝に貢献。2014年の金子千尋投手以来となる、沢村賞とMVPのダブル受賞も達成している。

 さらに東京五輪でも侍ジャパンのエース的役割を担い、金メダルを獲得するともにベストナインに選出されている。すでに名実ともにNPB最強の先発投手と言っていいだろう。

【すでにMLBからの熱視線を浴び続ける存在】

 そんな山本投手だが、まだまだ成長過程の投手であることは間違いなく、これまで毎シーズン段階を踏みながら成長を続けてきた。それを物語るように、シーズンを通して先発投手として投げ切れたのは昨シーズンが初めてのことだった。

 ようやく先発投手として独り立ちした今シーズンこそ、やはり更なる飛躍を期待してしまいたくなる。現在でもNPB最強なのだから、今シーズンは別次元に足を踏み入れてしまうのではないだろうか。

 山本投手の更なる成長に期待しているのは、日本の野球ファンばかりではない。海の向こうからMLBも彼に対し熱視線を送り続けている。仕事上MLB関係者たちと情報交換しているのだが、東京五輪以降山本投手に寄せるMLBの注目度がさらに増しているのを実感している。

 以前ダルビッシュ有投手がSNS上で山本投手を「(MLBで)余裕で通用すると思います」と評しているように、今やMLB界では「すぐにでも獲得したい選手」と認識されていると断言したい。

【まだ「国際FA選手」の条件を満たしていない山本投手】

 様々な報道を見る限り、山本投手自身もMLB志向が強いと言われている。まさに相思相愛といったところだが、だからと言って彼がすぐにでもMLBに挑戦できるわけではない。

 まだ海外FA権を取得できない山本投手の場合、オリックスがMLB挑戦を認めた上でポスティングシステムを利用してMLB移籍を目指すしかない。今オフの鈴木誠也選手とまったく同じだ。

 だが現在の山本投手は、鈴木選手と絶対的な違いがあるのをご存知だろうか。実を言うと、山本投手はMLBが定める「国際FA選手」の条件をまだクリアできていないのだ。

【「25歳以上&外国リーグ在籍6年以上」が絶対条件】

 この国際FA選手に関しては、2017年オフに大谷翔平選手が、ポスティングシステムを利用してMLB移籍を目指した際に大きく取り上げられたので、ご記憶の方も多いのではないだろうか。

 まず根本的な部分として理解しておきたいことは、ポスティングシステムを利用してMLB移籍を目指す選手の扱いが、MLB側から見れば海外FA権を取得した選手とまったく同じだという点だ。

 そのためポスティングシステム利用選手は交渉期間に制限が設けられているだけで、それ以外については契約交渉上、海外FA権取得選手とまったく同じ扱いを受ける。つまりMLBとしては、どちらの選手も同じ国際FA選手なのだ。

 しかし国際FA選手として認められるには、年齢が25歳以上で、かつMLBが認定する外国リーグ(もちろんNPBを含まれる)で6年以上在籍していることが絶対条件になってくる。それ以外の選手はすべて「国際アマチュア選手」として見なされてしまうのだ。

 2017年当時の大谷選手は、その2つとも条件を満たしていなかったため、国際アマチュア選手として契約交渉に臨むしかなく、最初はマイナー契約しか結ぶことができなかったというわけだ。

【現状での譲渡金は契約金の25%のみ】

 つまりNPB在籍6年目で23歳の山本投手は、2023年シーズン終了後でないと国際FA選手として認められないのだ。

 現在のポスティングシステムは2017年オフから運用されているものだが、当時は日米間でルールに関する認識違いがあったこともあり、大谷選手に関しては特例で旧システムが適用され、エンジェルスから日本ハムに満額の2000万ドル(約22億円)の譲渡金が支払われている。

 だが現システムでは、仮に山本投手が国際アマチュア選手扱いでポスティングシステムを利用してMLB移籍を目指したとしても、オリックスに支払われる譲渡金は、基本的に山本投手が受け取る契約金の25%に止まってしまう(ただしメジャー契約に切り替わると追加金が派生する)。

 しかも国際アマチュア選手に支払われる契約金は、「国際アマチュア選手用プール(共同管理)金」の範囲内と定められている。このプール金は各チームともに500万ドル(約6億円)前後に設定されており、この範囲内ですべての国際アマチュア選手の契約金をプール金で賄うしかない。それだけ得られる譲渡金も少額になってしまうわけだ。

 やはりオリックスとしては、山本投手のポスティングシステムによるMLB移籍を認めたとしても、国際FA選手の条件を満たすまで待ちたいところだろう。

 これまでMLBに挑戦した数々の日本人選手たちから話を聞き、彼らが一様に口を揃えるのは「MLBに挑戦できるチャンスがあるのなら少しでも早く挑戦すべき」というものだった。それを踏まえた上で、成長過程の山本投手には1日も早くMLBに挑戦して欲しいと願っている。

 現在MLBと選手会が続けている労使交渉には、プール金なども含まれているとされている。何とかMLBには、国際FA選手のルール変更を願いたいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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