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ドラゴンボールの名場面まで登場。南米王者パルメイラスのチェルシー戦にブラジル全土が注目するワケ

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
元アルビレックス新潟のホニがパルメイラスで背番号10に(写真:ロイター/アフロ)

 現在、UAEで開催中のFIFAクラブワールドカップに出場中の南米王者パルメイラス。「ヴェルダン(偉大なる緑)」を愛称に持つブラジル屈指の名門はブラジルの国内リーグ、全国選手権で国内最多の10回の優勝を誇る名門中の名門である。南米では実に20年ぶりとなるコパ・リベルタドーレス連覇を果たしたパルメイラスだが、ことクラブ世界一をめぐる戦いにおいてはブラジルで格好のネタクラブに。その背景とは。 

名門パルメイラスはブラジルのイジられ役なのか?

 クラブワールドカップの前身に当たるトヨタカップを含めて過去2度、涙を飲んでいるパルメイラス。

 そんな「偉大なる緑」に対して、他クラブの名門サポーターは「パルメイラス・ナォン・テン・ムンジアウ(パルメイラスは世界一を持っていない)」という有名なチャントを作成し、ことあるごとに揶揄し続けてきた。対戦相手がパルメイラスでない試合でさえ。

 もっとも、パルメイレンセ(パルメイラスサポーター)側も負けてはいない。欧州王者チェルシー(イングランド)との決勝戦の前日、パルメイラスサポーターで知られるジャイル・ボウソナロ大統領は「明日、パルメイラスは2度目の世界王者になる」と報道陣に公言した。

 トヨタカップとクラブワールドカップではこれまで優勝していないパルメイラスではあるが、彼らの言い分は1951年に開催されたコパ・リオの優勝が世界一に相当するという訳だ。

 コパ・リオにはパルメイラスやスポルティング・リスボン(ポルトガル)、ユベントス(イタリア)など計8クラブが参加。パルメイラスは決勝でユベントスを下し(1勝1分け)、見事優勝に輝いている。ちなみに聖地マラカナンスタジアムで行われた決勝は実に10万93人の大観衆が見守っていた。

FIFAが元Jリーガーにインタビュー、ブラジルで論争の的に

 長年、コパ・リオの優勝を世界一とみなすか、否かはサッカー王国でも論争の的になってきたが、今大会に向けてFIFAが公式サイトで掲載したパルメイラスのホニ(アルビレックス新潟でもプレーした元Jリーガーである)のインタビューの中で、FIFAは「パルメイラスとコリンチャンスはそれぞれ、1回世界王者に輝いている。最大のライバルの優勝回数を上回ることはモチベーションにつながるか」とホニに質問。

 このインタビューを受け、ブラジルメディアは「FIFAがホニとのインタビューでパルメイラスの世界タイトルを認める」などと大きく取り上げた。

 ボウソナロ大統領のみならず、パルメイレンセはFIFAの認識を大歓迎だが、一方でネタにし続けてきた他クラブのサポーターは納得するはずもない。

 ピッチ外の「場外乱闘」はさておき、準決勝でアフリカ王者のアル・アハリ(エジプト)に2対0で快勝。昨年のクラブワールドカップでは南米勢として初めて一勝さえ出来ず、これまた格好のネタにされたパルメイラスは決勝への切符を手にした。

「ドラゴンボール」の孫悟空も登場。パルメイラスの躓きを他サポが期待

 その戦いぶりをパルメイラスサポーターのみならず、他サポーターも見守ることになる。彼らの心境を物語るツイートがある。

 ユニークかつ的を射たコラ画像でブラジルサッカー界を揶揄するアカウント「De Sola」はフォロワー数12万超の人気アカウントだが、アル・アハリ戦を前に投稿したのは人気漫画「ドラゴンボール」の名場面。「パルメイラスのライバルの現在」と題された投稿で、アル・アハリに扮した孫悟空が「元気玉」を集めようとすると、サンパウロやフラメンゴなどが一斉に元気を送るのだ。笑えるのが最も気合を入れて元気を送るのがパルメイラスの最大のライバル、コリンチャンス。こうした芸の細かさもブラジルの揶揄ならではだ。

 クラブワールドカップの決勝は日本時間で13日午前1時半にキックオフされるが、ブラジルの立ち位置を象徴する「De Sola」のツイート「土曜日までブラジルの新しい国旗」なる投稿は下記である。

 パルメイラスがゴールを決めれば、サポーターは街中のあちらこちら歓喜の雄叫びや花火を打ち上げるが、チェルシーが得点すれば他サポーター、とりわけコリンチャンスのサポーターも喜びを爆発させるだろう。

 パルメイラスが無事、悲願のクラブワールドカップ制覇に成功すれば、「パルメイラス・ナォン・テン・ムンジアウ」のチャントはお役御免となるのは間違いないが、敗れればこの先も格好のネタになり続けるのは間違いない。

 2012年のクラブワールドカップで宿敵コリンチャンスがチェルシーを下し初の世界一に輝いているだけに、絶対に負けられないパルメイラス。

 他人の不幸は蜜の味――。日本では受け入れられにくいかもしれないが、南米のサポーターは、様々な楽しみ方を知っている。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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