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【逃げ上手の若君】北条高時に疑われた足利尊氏が妻子を鎌倉に残して上洛することを決断できた訳

濱田浩一郎歴史家・作家

集英社の『週刊少年ジャンプ』に連載されている漫画「逃げ上手の若君」が2024年7月から9月まで、アニメとして放送されていました。「逃げ上手の若君」の主人公は、南北朝時代の武将・北条時行(鎌倉幕府第14代執権・北条高時の子。幼名は亀寿)です。アニメの中で文武に秀でた武将として描かれているのが、足利尊氏。尊氏は、鎌倉幕府から、上洛し後醍醐天皇方の諸将を討伐するよう命令されます。しかし、尊氏は幕府に叛意を抱き、後醍醐天皇方に加勢せんとしていました。上洛に際して、妻子を引き連れようとした尊氏。その動きを不審に感じた幕府は、尊氏に「幼い子息を鎌倉に留め置くこと。謀反心はないという起請文を提出すること」を要請します。心中、憤りを抱いた尊氏ですが、その想いを抑え「やがて返事する」ことを返答しました。

その直後、尊氏が呼んだのが、弟の足利直義です。そして、幕府からの要請にどう対応するか、相談するのです(軍記物語『太平記』)。暫く思案した直義は「子息と御台(妻)を鎌倉に留め置くことは、大事の前の小事。そのことで、心を煩わせてはいけない」などと兄・尊氏に進言。直義の言葉を聞いた尊氏は、これを「至極の道理」として、子息の千寿王(後の足利義詮。室町幕府2代将軍)と御台の赤橋登子を鎌倉に残すことにするのです。また、尊氏は起請文を書き、これを北条高時に提出します。

これにより、高時は尊氏への疑いを解き「喜悦」するのでした。そして、尊氏に馬や鎧を多数与えるのです。こうして、尊氏は足利一族や被官を引き連れ、上洛の途につきます。その軍勢数は『太平記』によると「三千余騎」。同書には弟・直義の「(幕府への謀反という)一大事を思い立つことは、御身のためにあらず。ただ、天に代わり無道(人臣の道に背く者=北条氏)を討ち、君(後醍醐天皇)の為に不義を退けるためである。子息と御台を鎌倉に留め置くことは、大事の前の小事」との言葉に力を得て、決断を下した尊氏の姿が描かれています。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』『明徳の乱』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

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