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日本半導体の凋落を救えるか、VLSI Sympo 2019

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
ハワイで開催された2018 VLSI シンポでの様子 出典:VLSI Sympo

 通称VLSIシンポジウム(正式名称Symposia on VLSI Technology and Circuits)2019では、日本からの投稿数も採用数も激減した。日本の電機経営者は半導体を斜陽産業と考え、半導体部門を切り離すことに終始してきた。2018年のガートナーが発表した世界半導体メーカートップテンランキングから日本の企業はとうとう姿を消した(参考資料1)。

図1 ハワイで開催された2018 VLSI Symposiumの一幕 出典:Symposium on VLSI Circuits
図1 ハワイで開催された2018 VLSI Symposiumの一幕 出典:Symposium on VLSI Circuits

 VLSI シンポは、もともと1980年代後半から1990年代前半にかけて日本の半導体がまだ強かった時代に日米半導体摩擦を解消して一緒に半導体技術をディスカッションしよう、という意図で生まれた国際会議である。最初は、日本と米国からの発表が多かった。それも大学よりも企業からの講演が多く、半導体技術の方向を活発に議論してきた。そのうち、日米以外の国の半導体技術者も興味を示すようになり、次第に増えていき、本当の国際会議になってきた。

 2019年のVLSIシンポジウムは、2019年6月9日~14日、京都のリーガロイヤルホテル京都で開催される。会議は主に製造技術を中心とするTechnologyと、ICの回路技術を主とするCircuitsに分かれているが、現実には両方の知識と理解が必要なため、両方の会議に出席しやすいようなプログラム構成になっている。

 Technology部門での投稿論文数は187件、うち採択された論文は74件となっており、採択率は40%である。この会議では投稿(応募)しても必ずしも採択されるという訳ではなく、40%しか通らない。これは例年とさほど変わらない。しかし、日本の存在感が激減しているのだ。投稿論文数では、米国の49件に対して日本はわずか16件しかなく、それ以上に多いのが台湾37件、韓国22件、中国(香港・マカオ含む)28件、欧州24件となっている。採択された論文数でも日本は少なく、米国の24件に対して9件しかない。日本以上に多い地域は台湾16件、欧州10件だが、韓国は8件となっている。日本は何とか質の高い投稿が多いものの、いかんせん投稿の絶対数が少ないため、存在価値が激減している。

 もう一つ大きな違いは、日本は企業からの採択数が大学からのそれよりも少ないことだ。他の地域では、大学と企業はほぼ同数だが、日本だけが大学7件に対して企業はわずか2件しかない。

 Circuits部門ではもっと日本企業の存在が薄い。全投稿数299件、うち採択論文数は108件で、採択率が36%であった。採択率は毎年ほぼ変わらないため、投稿論文数が少なければ採択論文数も少なくなる。今回日本の採択数は108件の内、わずか6件しかない(図2)。

図2 Circuit部門の採択論文数は日本が最低 出典:Symposium on VLSI Circuits
図2 Circuit部門の採択論文数は日本が最低 出典:Symposium on VLSI Circuits

 世界中で、これまで半導体を手掛けてこなかったグーグルやフェイスブック、アマゾンなどが半導体チップを持ち始めたのに対して、日本の電機の経営者は半導体の価値を未だに理解できていないのである。だからこそ、半導体を捨てたり売却したりしてきた。これは、電機会社の一部門としての半導体があったからだ。半導体の価値を理解していなくても、P/Lだけを見ていても収益が上がっていないから切り離すことをしてきた。

 だったら、半導体部門を完全に切り離して、自由に経営させてあげればよかった。海外の半導体メーカーはどこもそのようにしてきた。フィリップスから独立したNXP セミコンダクターズ、ジーメンスから独立したインフィニオンテクノロジーズ、H-Pからアジレントを経て独立したアバゴ(現在ブロードコム)、モトローラから独立したオン・セミコンダクターやフリースケール・セミコンダクタなどは親会社の株式はほとんどなかった。リソグラフィで世界トップのASMLもフィリップスから独立し、親会社の株式はなかった。日本では、子会社として切り離しても100%近い株主構成のため、人事権を持っていた。これでは子会社を見下す人事権を持ち、半導体経営者の自由を奪うようなもの。

 もちろん日本の半導体部門のトップも世界の動きを理解できなかったというまずさはある。世界がメモリ以外はファブレスとファウンドリに分化していく中で、それでも垂直統合の方が良いものを作れる、とこだわってきたからだ。最近注目を集める世界の半導体メーカーのエヌビデアやクアルコム、ザイリンクス、ブロードコムなどは全てファブレスである。日本がこだわる垂直統合は、設計と製造を一体化してきたものだ。一つの製品を大量生産するようなメモリだと設計と工場を一体化してもペイできた。しかしASICやロジックは少量多品種の製品である。DRAMというメモリを捨てた日本は、少量多品種の製品を扱う時代に入っても、垂直統合にこだわったために工場の生産能力(キャパシティ)が余ってしまっていた。

 このような時、米国のAMDはファブレス(AMD)とファウンドリ(グローバルファウンドリーズ)に分けた。製造工場がファウンドリとなれば、元の自社だけではなく、他社やファブレス半導体、半導体を使う顧客などからの注文も受け付けられる。すなわち工場は埋まるのである。ところが、日本はファウンドリを事業化できなかった。別の企業が工場を使わせてくれと依頼した時だけ、使わせてあげる、といった、顧客を待っているだけの消極的なタバコ屋経営をファウンドリと称していた。積極的に顧客をとってくるという営業活動を全くしなかった。これでうまくいくはずはない。

 ファウンドリをビジネスとして成功させるためには、プロセスのプラットフォームともいうべき標準となるPDK(プロセス開発キット)を数種類用意し、営業には設計フローを理解できる設計者をつければならない。顧客によっては、最初の論理設計だけ、あるいはネットリストも含めた回路設計まで、あるいは配置配線のレイアウトも済ませたマスクまで、とさまざまな段階があり、どの段階の顧客でも扱うことが出来なければビジネスにならない。ファウンドリは製造さえ理解していればビジネスできる、とこれまでの日本の半導体製造エンジニアは誤解していた。

 わずか7~8年前に、日本の半導体メーカーにファウンドリだけ独立させてビジネスしないのか、を問うた時も垂直統合にこだわると答えた。結局、工場が余った。ルネサスが工場を停止した背景には、工場に未だにこだわっているという面もあった。正直言って筆者は、ルネサスは工場をとっくに処分してファブレスに近い形態になったものと見ていたが、これほど多くの工場がまだ残っていたとは知らなかった。工場を処分しないのであればファウンドリとして独立させない限り、ルネサスの明日はない。

 話は横道にそれたが、VLSIシンポジウムの基調講演やパネルディスカッション、フォーラムなどでは、AI、VR/AR、量子コンピューティング、3D集積化やパッケージ技術、自動運転、5G、IoTなど先端技術に必要な半導体技術が集まっている。このような機会には図1のように、世界中から半導体関係の研究者やエンジニアが集まり、互いにディスカッションする。ここに日本のエンジニアが来ないのであれば、ますます産業は没落する。この会議の雰囲気は、まるでシリコンバレーそのものだ。図1のように見知らぬエンジニア同士がディスカッションし始め、技術の方向や製品、市場に関しても何かしらの情報が入る。この場に日本のエンジニアが参加しなければ、経営者だけが悪いのではなくエンジニアもダメということになる。

                                                       (2019/04/23)

参考資料

1. Gartner Says Worldwide Semiconductor Revenue Grew 12.5 Percent in 2018(2019/4/11)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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