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世界よ、これが千駄ヶ谷の受け師だ! 百折不撓の男・木村一基九段(46歳)史上最年長で初タイトル獲得

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 9月25日・26日。東京都千代田区・都市センターホテルにおいて、第60期王位戦七番勝負第7局▲豊島将之王位(29歳)-△木村一基九段戦(46歳)戦がおこなわれました。

 25日9時に始まった対局は、26日18時44分に終局。結果は110手で挑戦者・木村一基九段の勝ちとなりました。

 木村九段は4勝3敗で七番勝負を制し、王位のタイトルを獲得しました。

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 何度もタイトルに挑戦しては、獲得にまで至らなかった木村九段。46歳3か月での初タイトル獲得は史上最年長の記録となります。

2008年、羽生善治王座に挑んだ五番勝負の第2局で敗れ、顔を覆う木村八段(当時)
2008年、羽生善治王座に挑んだ五番勝負の第2局で敗れ、顔を覆う木村八段(当時)

 1973年6月23日生まれの木村王位は、1997年4月、23歳9か月で四段に昇段しました。タイトル獲得者の四段昇段時の年齢も、史上最年長となります。

 四段昇段から22年5か月でのタイトル獲得は史上最長の期間です。

 また初タイトル獲得までの挑戦回数7回も史上最多です。

 木村王位は過去に8局、「勝てばタイトル獲得」という一番に敗れていました。

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 今回9局目で、その壁を乗り越えたことになります。

木村九段、耐え抜いてつかんだ初タイトルの栄光

【前記事】

優位に立った木村九段、史上最年長での初タイトル獲得に向けて大きく前進中 王位戦七番勝負第7局2日目

 2日目午後、木村九段ははっきり優位に立ちました。しかし「将棋は逆転のゲーム」です。そこから勝ちきれるかどうかはまた、別の問題です。

 本局の木村九段の指し回しは終始、攻防ともに見事なものでした。現棋界最強の豊島王位の鋭い追い込みにも「千駄ヶ谷の受け師」の名の通り、正確な受けで応じ続けました。

 そして最後、中盤で受けに打たされた桂が、華麗に跳躍します。これが豊島玉を追い詰める決め手でした。木村新王位はよく「百折不撓」と揮毫します。これまでに何度も挫折を繰り返し、そのたびに立ち上がってきた、木村九段の将棋人生を象徴するような一手かもしれません。

 木村新王位のインタビューは、大報道陣のシャッター音で、よく聞こえませんでした。

 木村新王位はよく「晩成」と揮毫します。将棋界は「大器晩成」がまれな世界です。木村九段の46歳での初タイトルは、史上空前の快事です。もし今後、藤井聡太七段(17歳)が史上最年少で初タイトルを獲得したとしても、それに優るとも劣らない偉業だと筆者は考えます。

 木村王位、おめでとうございます。木村王位の活躍をわがことのように誇りとし、自らの希望としている人は、世の中に多いことでしょう。筆者もまた、同じ1973年生まれとして、また将棋を愛する者の一人として、心から敬意を表したいと思います。

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ひゃく‐せつ【百折】

何度も失敗すること。「―不撓」

ふ‐とう【不撓】

たわまないこと。心がかたく、困難に屈しないこと。

出典:『広辞苑』第7版

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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