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定員30組に140組が応募! 品川区の英会話親子クッキングが大反響を呼んだ理由

小川たまかライター
チラシに使われた画像。外国人に目にとまりやすいよう、外国人親子に登場してもらった

東京で最高気温31度を記録した6月1日。荏原文化センター(品川区)で行われたあるイベントが賑わいを見せていた。このイベントは、「スターシェフ★品川厨房~外国人と親子でクッキング~」。品川区と、親子英語遊びサークル「英KIDS(えいきっず)」が共催したイベントだが、「こんなに反響があった区のイベントは初めてかもしれない」と品川区地域振興事業部・地域国際課・国際担当主査の小幡理恵さんは話す。30組の定員に140組、330名以上の応募があったという反響の理由は何だったのだろう。

■子どもと一緒に英語を勉強したい親は多いけれど、日本在住外国人との交流は少ない

英KIDSの代表は横山亮一さん、運営事務局・由香理さん夫妻。小学校4年生になる長女・みぞれちゃんが幼いころから、英語教育や異文化理解、さらに地域交流に力を入れてきた。

「英語は世界のいろいろな人とつながることができるとても楽しい手段。私自身、留学経験などを通して英語の楽しさを知ったので、国際化が進む現代で子どもにも『当たり前のこと』として英会話を楽しんでほしかった」と由香理さん。

現在、品川区の外国人登録者数は1万500人で、区民の約3%を占める。今回、品川区が外国人の地域交流イベントについて共催団体と企画を募集し、3団体がプレゼンを行った。このプレゼンで選ばれたのが、英KIDSが企画した「外国人家族も受け入れて英語を楽しみながら行う親子クッキング」だった。

「子育てをしてみて気づいたのは、子どもと一緒に英語を勉強したいというお母さんお父さんが多いということ。そして、自分が子どもの頃と比べると、街で外国人を見かける機会が増えました。でも、実際の交流は案外少ない。外国人の方を孤立させないためにも、日本人と日本に暮らす外国人が親しくなる機会は今後のために必要だと思いました」(由香理さん)

■チラシは、英語と日本語を同じ大きさで表記

家族ぐるみで仲良くなれば交流が続きやすい。子育てをしている同士なら、国が違っても共通の話がしやすい。そう考えて親子クッキングを企画したが、不安は「本当に外国人親子が応募してくれるかどうか」だった。日本人家族なら口コミで伝わる可能性もあるが、外国人親子とはそもそも接点が少ない。外国人がどこから情報を取得しているかがわからないため、区の広報誌やウェブ上での告知、チラシ作成・配布にも力を入れた。

チラシ作成でこだわったのは、「一目で外国人をターゲットにしていることが分かること」。せっかくチラシをつくっても、パッと見て「自分に関係がある」とわかるものでなければ人の目にとまらない。外国人親子と日本人親子の写真を大きく使い、内容の説明は英語と日本語を同じ大きさで表記した。

■「寿司」「ハワイアンパンケーキ」、子どもも父親も楽しみながら作れるメニューに

料理の内容にも工夫がある。親子クッキングは全4回行われるが、それぞれの回でつくる料理は「インドのキーマカレーナン(ナン作り)」、「寿司(舟形握りと細巻き)」、「ハワイアンパンケーキ×豆腐ミックス(豆腐を混ぜたパンケーキ)」、「みんなでワイワイ流しそうめん」など。「こねる」「混ぜる」「かたちづくる」「見て楽しむ」といった、まだ包丁を持てない子どもでも興味を持ちやすい内容だ。また、和食を始め、その国の食文化を感じさせるメニューでもある。

「また、お父さんたちにも興味を持ってもらいたかったからということもあります。通常の家庭料理よりも、寿司だったり、流しそうめんだったり、エンターテインメント性があるものの方が、お父さんも垣根を感じずに来てくれるのではないかと思いました」(由香理さん)

■来日3年のアメリカ人女性「品川区はみんな親切だから大好き」

当日の様子。クッキングの間に英語と日本語で絵本の読み聞かせも行われた
当日の様子。クッキングの間に英語と日本語で絵本の読み聞かせも行われた

募集開始してみたところ、締切までに日本人親子131組、外国人親子11組の募集があった。母子だけではなく、両親と子どもでの参加、父子での参加も少なくなかった。「英語ではなく日本語を話す外国の方の参加ももちろん大歓迎。英語圏からだけではなく、アジア系の方の参加もありました」と由香理さん。

1回目となった6月1日、「Please enjoy cooking and talking!」という挨拶からスタート。説明はすべて英語と日本語の両方で行われた。

参加者から聞かれたのは次のような声。

「妻が区の広報紙で情報を見つけて参加した。こういうイベントは初めて」と話していたのは、中国系イギリス人の妻を持つ30代の日本人男性。2歳と0歳の子ども2人を連れて、親子4人で参加した。家庭内では英語で会話することがほとんどという。

40代のイギリス人男性は、5歳の息子と2人での参加。「チラシを見てイベントを知った。息子が幼稚園以外の人と触れ合う機会として興味を持った。料理をするというのも面白い。品川区は東京の真ん中ではないけれど、公園も多いしゆったりとした雰囲気で人が優しい」と話していた。

3歳の長女、6歳の長男を連れて参加していた30代の日本人女性は「英語はあまり得意ではないけれど、料理が好きで、子どもと一緒に料理イベントに参加したかったから」と笑う。

「普通の料理イベントはたくさんあるけれど、英語を楽しみながらというのは初めて」と話していたのはアイルランド人の夫、7歳の長女と一緒に参加していた女性。「普段、外国人と公園で会ったりすれば話すことはあるけれど、その後交流することはあまりない。娘にも親とだけでなく、同年代の子どもと英語で話す場になればと思った」。

日本人の夫、10歳の長男、8歳の双子兄妹と家族5人で参加していた来日3年になるというアメリカ人女性は「品川区はみんな親切だから大好きよ」とニッコリ。「クッキングイベントに参加することは何度かあったけれど、今日のイベントは、インド料理とか、寿司とかパンケーキとか、みんなで楽しめるクッキングだから興味を持った」。

「区民センターで他の申込書を書いているときにチラシを見かけて『楽しそう!』と思ってすぐに応募しちゃいました」と話していたのは、7歳の長男と一緒に参加していた日本人女性。

当日使用したメニューのレシピ
当日使用したメニューのレシピ

■自然に多文化に触れる機会を

「スターシェフ☆品川厨房~外国人と親子でクッキング~」は6月~8月にかけての前期4回と、11月~来年3月にかけての後期4回。前期の募集はすでに締切。後期の募集は9月頃から行う予定。イベントの中では、ゲストスピーカーを招くなど、さまざまな取り組みを行う予定もあるという。

「外国人の方にとっては地域との交流イベントとして、日本人の方にとっては親子の新しいコミュニケーション、そして外国人との交流の場として、これからも続けていきたい」と由香理さん。

外国語を学ぶ重要性、日本人以外と交流を持つ機会の大切さを感じる機会は、年々増えている。日本人が持ってしまいがちな「外国への苦手意識」。これからの子どもには、ごく自然に外国人と交流してほしい。「品川厨房」は、そう願う親たちの気持ちが実現させたイベントだと感じた。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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