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60代以上の21%が悩む老人性そう痒症の実態と予防法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【高齢者に多い皮膚疾患「老人性そう痒症」とは?その症状と影響】

世界的に高齢化が進行する中、シニア世代特有の健康問題が注目を集めています。中でも、皮膚科領域で近年注目を浴びているのが「老人性そう痒症」です。老人性そう痒症とは、60歳以上の高齢者に見られる原因不明の全身性のかゆみを指します。明らかな皮膚症状を伴わないことが特徴で、日常生活の質(QOL)を大きく低下させる症状として知られています。

具体的には、激しいかゆみによる不快感や睡眠障害、倦怠感などが挙げられます。さらに、かきむしることで皮膚に傷や炎症を引き起こし、細菌感染のリスクも高まります。加えて、慢性的なかゆみはストレスの原因となり、うつ病や不安障害などの精神的な問題につながることも少なくありません。高齢者の皮膚トラブルは見過ごされがちですが、老人性そう痒症は単なる不快感だけでなく、全身の健康状態に影響を及ぼす深刻な問題なのです。

高齢者の皮膚は、加齢に伴って乾燥しやすくなる傾向があります。皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に弱くなるためです。また、加齢によって免疫機能も低下するため、皮膚のトラブルを引き起こすリスクが高まります。老人性そう痒症は、こうした高齢者特有の皮膚の変化が関連していると考えられています。しかし、発症メカニズムの詳細は明らかになっておらず、さらなる研究が求められています。

【世界の老人性そう痒症発症率を比較:加齢とともに増加する傾向が明らかに】

では、老人性そう痒症の発症率はどの程度なのでしょうか?今回、世界5カ国・28,666人を対象とした17の研究をもとに、メタアナリシス(統合解析)が行われました。その結果、老人性そう痒症の発症率は21.04%と算出されました。これは、高齢者の約5人に1人が老人性そう痒症に悩まされていることを意味します。国別に見ると、トルコと中国が24.34%と最も高く、ノルウェー、デンマーク、イギリスは8.23%と比較的低い結果でした。

さらに、年代別の発症率も明らかになりました。60代で11.98%、70代で26.79%、80代で51.31%、90歳以上で57.53%と、加齢とともに増加する傾向が見られました。高齢になるほど皮膚の状態が悪化し、老人性そう痒症を発症するリスクが高まると考えられます。日本は世界でも有数の超高齢社会であり、今後ますます老人性そう痒症が増えると予想されます。

高齢者の皮膚トラブルは、本人のQOLを低下させるだけでなく、介護者の負担にもつながります。皮膚の加齢変化に着目し、シニア世代の皮膚ケアに関する啓発活動が求められるでしょう。適切なスキンケアや生活習慣の改善により、老人性そう痒症の予防や症状の緩和が期待できます。高齢者と接する機会の多い医療従事者や介護者は、皮膚の変化に気を配り、早期発見・早期対処に努めることが大切です。

【喫煙や飲酒など老人性そう痒症の危険因子:生活習慣の見直しがカギ】

本研究では、老人性そう痒症のリスク因子についても分析が行われました。その結果、喫煙者はそう痒症のリスクが1.26倍、大量飲酒者は25.03倍、偏食の人は1.22倍に上昇することがわかりました。喫煙は皮膚の血流を悪化させ、皮膚の栄養状態を低下させます。また、タバコに含まれる有害物質は、皮膚の老化を加速させる働きがあります。一方、大量飲酒はビタミンの一種であるカロテノイドの濃度を下げることが知られています。カロテノイドは抗酸化作用を持ち、皮膚の健康維持に重要な役割を果たしています。

偏った食事では、カロテノイドをはじめとする皮膚に必要な栄養素が不足しがちです。バランスの取れた食事は、皮膚の健康維持に欠かせません。ただし、今回の研究は横断研究であり、これらの因子と老人性そう痒症の因果関係を証明するには至っていません。しかし、喫煙や飲酒を避け、バランスの取れた食事を心がけることは、皮膚の健康維持につながる可能性が高いと言えるでしょう。

高齢者の皮膚は、若い頃に比べてダメージを受けやすく、回復力も低下しています。紫外線対策や保湿ケアなど、的確なスキンケアを行うことが大切です。また、ストレスや睡眠不足も皮膚の状態に影響を与えます。規則正しい生活習慣を心がけ、ストレス管理にも注意を払いましょう。

<参考文献>

BMJ Open. 2022 Feb 24;12(2):e051694. doi: 10.1136/bmjopen-2021-051694.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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